決戦! ドラゴン…ドラゴン?⑭

「やった…のか?」

 アーノルドが言った。ティラノは倒れ、激しく痙攣していた。虚ろな瞳で見つめられる。悪いけれど、生き死にの話だから。ジャックが包囲を縮める。アーノルドが、もう一度鉄砲を構えた。長い沈黙。やがて、震えが小さくなり、眼の光がふっ、と消えた。

「はーああああ」

 がっくし、腰を落とす。

「終わったあ…」

 ベルも心底疲れた様子。ジャックが近付いた。そして、ぐっ、と親指を立てる。死んでるよね、うん。続いて、歓声。鬨の声。えいえい、おー、って。

「ところでさぁ」

 樹上から降りると、あいつが言った。

「この死骸、どうするの?」


 そりゃね、あのまま放置したら依頼達成にはならないわけで、何らかの証拠が必要なんですよ、ギルドってやつは。頭蓋より上、ってのも考えたのだけれど。

「この皮は極上品じゃ。儂が防具に仕立ててやるぞい」

 って、ドワーフのドンバスが言うものだから全部持ち帰ることにしてさ。お肉って食べれるのかしら…いいえ、ダメね。肉食動物は二度と食べない、って決めたの。アタシも成長しているのだ、えへん。

 ところで、死体になった瞬間に刃物が通るようになったのよ。

「どう思う、アーノルド」

 傭兵どもが持ち運びしやすいように加工している。あんまり細かくすると装備が作り辛くなるからね。荷台からはみ出す分だけ…それでもかなり大きいけれど。

「魔法障壁の類ではないかね。物理保護と魔法防御の二重がけ」

「結果だけ見たら、そうなんだけど」

 死んだら当然、障壁も消える。今までは防御に守られていた、という事ね。

「魔導士はいたか?」

「少なくとも、近くには居ないはず」

「生まれながらに耐性を持つ…という考えもあるが」

「あの巨体が今まで誰にも知られずにアリアの奥地に潜んでいた?」

「考え辛いな」

「そうね」


 ともかく、再びシャルルへと戻る。道中は大変だったわよ! 夏場だからお肉が腐るの! 当たり前だけれど! アタシの魔法で氷漬けにできなくも無いのだけれど、何しろあの巨体、魔力がいくらあっても追いつかないのよ。他の魔導士じゃ精々氷つぶてを作るのが精一杯だし。腐りきる前に、ってえっほえっほと飛脚みたいに走ったの。この炎天下の中で!

 シャルルに着いたらレオナードが目を丸くして、プリシアが手を叩いて喜んで。街の人を巻き込んでのお祭り騒ぎ。三日くらい続いたわ。もちろん、報酬もしっかり頂いて、結構なお金持ちに…なる予定だったのだけれど。

「なるほど、参加者が多いと山分けなんだな」

 あいつが言った。うーん、そろそろあいつじゃ可哀そうかしら。あのティラノはあいつのアイディアが無いと倒せなかったし。

「タケシ、アンタの持ち分寄越しなさい」

「嫌だよ! これは俺の小遣いだ、アイディア料だ!」

「流石にそれは無いと思うよ、ペルル」

 ヘンだ、タケシなんてこのくらいで丁度良いでしょ?


 それから、ひと月余り。思ったよりも稼げなかったから、相変わらずギルドに入り浸っているのよ。はぁ。労働者は大変だわ。

 なんて、過ごしていたのだけれど。

「すみません、依頼を発注したいのですが」

 ギルドに似つかわしくない、お嬢様が入ってきた。アーノルドが大慌てで駆け寄っていく。それだけの立場の人って事…つまり、プリシアだ。

「これはこれはプリシア様、この様な狭苦しいところにようこそご足労賜りました。プリシア様のご依頼であれは如何様なものでも。お安くさせて頂きますよ」

「感謝しますわ、アーノルド殿。ところで、受託者を指名することは可能でしょうか?」

「それは勿論、最優先で手配致します」

「では、ペルルさんとその配下の者に、王都へ行って頂きたいのです」

 はい?

 配下じゃねーよ、とタケシは言う。まーた厄介ごとかなぁ、とベルが言う。

 もちろん、アーノルドは。

「当然でございます、ペルル以下三名の予定を確保致しましょう。丁度ギルドに来ておりますので、お呼びいたしましょうか? 直接ご商談頂いた方が」

「そうね、そうするわ」

「では!」

 アーノルドがアタシを見る。逃げ…られないわよね。

 はぁ、とアタシは一つ、大きな溜息をつくのでした。


第一部 完

第二部以降の掲載時期は未定です。他の作品も執筆したく…ご了承をば。

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アタシ、エルフのペルル。この子は妖精のベル。こいつは異世界人のタケシ。 レイジ @reizi9

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