決戦! ドラゴン…ドラゴン?⑫
翌朝は流石に早起きしたよ。ステーキには赤ワイン…なのだけれど、前回の失敗を踏まえてお酒は控えさせてもらったから。一応、成長しているのよ、アタシ達。レベルの低い話だな。朝露を踏みしめながら進軍を開始。今日は工作が目的だ。レベッカらの偵察隊は早々に進発した。本陣、と言うほどではないけれど野営地はジョージ以下十名に任せる。馬も置いてきたから、緊急時はそれで連絡を取ってもらう予定。アタシらは総勢五十名、歩兵はジャックに、鉄砲隊と弓兵はアーノルドに任せていた。レベッカの指定した場所へと向かう。カーライル隊が襲撃を受けたところ。犯人は現場に戻ってくる…と言うわけではないけれど、適度に暴れてくれたから木々が倒れてくれて、視界良好なの。そこらに転がっている丸太を避けるのが多少面倒ではあるけれど。
「どう、レベッカ」
「今のところ、見当たらないな」
先発のレベッカと合流する。ドルベン以下の工作隊が作業に入った。地雷を埋めるのだ。あいつも工作隊に混ぜている。そこそこ、知識はありそうだし。シャベルで掘って、地雷を埋めて、土を被せて導線だけを地上に。分かりやすいようにリボンで目印も作ってね。アタシらは周囲の警戒。レベッカを更に奥地へと向かわせる。
「終わったぞい」
ドルベンが言った。日は既に高い。お昼くらいかしら。小腹が空いたわね。
「交代で食事を取って」
硬いパンを齧る。おいしくない。火を使うと引火するかも、ってことでパンしかないのよ。お水で流し込む。スープ欲しい。今日で始末したいけれど…どうなるかしら。ドンバスとあいつが火焔瓶を並べていた。地中に埋めると燃えないから、ってことらしい。あいつが踏みつぶせば瓶が割れるだろう、って安直な考えだけれど。
全員が味気ない昼食を終えて、しばらくの後。
ベルが飛んできた。レベッカに同行させていたの。あの子、意外に素早いから。
「いたよ、あいつ!」
全員に緊張が走る。
「場所は?」
「ここから二キナ先。二時方向」
「誘導するわ」
ジャックが頷いて、騎馬隊が現地へと向かう。十騎余り。歩兵と鉄砲隊はそれぞれに木陰に身を隠す。ぐっ、と踏み込んだ。アタシは樹上に跳ぶ。ベルもついてきた。ぼうっ、と火焔魔法が立ち上がった。レベッカのだ。どん、どんっ、振動が響く。木が少し、揺れた。続いて、馬蹄。弓を構える。魔力を溜める。
「こなくそっ!」
レベッカが見えた。ジャックの馬に相乗り。火焔が舞った。そして。
奴が現れた。ごぉおおおおお! 咆哮。奴の唾液が飛んで跳ねた。
「もう少しじゃ!」
ドンバスが叫ぶ。ジャックが弓を引いた。ぱちん、その大きな頭で弾き返される。よく見たら確かに鳥っぽくはある。二足歩行で、その割に両手が異常なほど小さい。あれじゃ攻撃どころか物を掴むのも無理だろう。羽毛を剥いで、羽根を失ったならあんな格好になるんじゃないかしら。魔力、まだニ十パーセントほど。
「撃てっ!」
アーノルドの指示で一斉射撃。ティラノが僅かに身じろいだ。踏み込む。速い!
「こなくそっ!」
魔導士隊が火焔魔法を放つ。導火線へ。いくつか、点火。ばりん。瓶が割れる音。ジャックの馬に迫る、迫る、がばっ、口を開けた。喰われる!
爆発。土煙が上がった。ごわぁおおおお! 奴が吠えた。土砂が降り注ぐ。魔力、四十パーセント。まだ、まだ時間が欲しい!
「怯むな、各個射撃!」
鉄砲隊が二度目の斉射。弓と魔法も飛ぶ。攻撃が入っているとは思えないけれど、足止めはできた。奴が僅かに身じろぐ。
「第二地雷、爆破じゃ!」
ドンバスの指示でもう一つの地雷が爆発。再び、土煙と咆哮。奴が逃げようとした。
「逃がすんじゃねぇぞ!」
騎馬隊が火焔瓶を投げつけた。足元で破裂して炎が上がる。ジャックも果敢に攻めた。奴が足を止める。この場所はどこを踏んでも地雷ばかりだ。森には逃がさない。逃がしたらもう策が無くなってしまう。
「ペルル、まだか!」
アーノルドが下から叫んだ。魔力、まだ六十パーセント。あと半分!
「あと五分!」
「ドンバス、地雷はあといくつだ!」
「あと一つじゃ!」
「五分持たんぞ! 何かないか!」
「木、木!」
あいつが叫んだ。転がった丸太。
「レベッカ、丸太を燃やせ!」
「あいさ!」
薙ぎ倒されて数日たった丸太はほどよく乾いていたらしい。まるで焚き木みたいに燃えていく。炎の間から奴が見えた。
「火焔瓶、全部投げろ!」
奴が踏みつぶしたのも含めて、次々と奴にぶち当たる。奴が吠えた。こちらに向かってくる、速い!
「アーノルド!」
「退避!」
ドンバスが斧を振り上げた。一文字に樹木を切り倒す。ぐらり、と揺れたそれが奴の頭部に直撃した。足が止まる。魔力、八十パーセント!
「最後の地雷じゃ!」
奴の足元で爆発。奴が横倒しに倒れた。地震みたいに揺れる。もがく、立ち上がろうとしている。だけれど。
「そうか、亀と同じだ!」
あいつが言った。立ち上がるのに時間がかかる、ってことかしら? 確かにあのバランスの悪そうな身体、重心が崩れたらどうしようも無いわね。魔力、九十パーセント!
「火焔瓶は!」
「もう無い! ペルルはまだか!」
奴が身体をひねりながら重心を移した。足で大地を掴んで。よろよろと立ち上がりかける。ぎらり。奴と目が合った。殺気に、気付いたのかもしれない。
でも。
矢には十分すぎる魔力が込められていた。魔力態勢のある特注品、銀色と水色の間みたいな色合いでぎらぎらとひかる。
「これで、終わりよ!」
ひょう、と射掛けた矢が奴の眉間に流れ、そして、吸い込まれた。
ぎゃおおぁおおおおおおおおお!
ひときわ大きい断末魔を上げて、奴は再び、大地に倒れ込んだ。
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