籠の中
朝凪 凜
第1話
陽の光が当たり、眩しさにしばらくの間目を開けられずにいた。
ゆっくりと瞼を上げ、光に慣れたところで辺りを確認する。
室内にはまず向かいにある本棚が目に飛び込んできた。
私が読んだ本、これから読もうと思っている本たちが天井まで届く本棚に整然と並べられている。
左を向けばレースカーテンを通して朝日がはっきりと見える。
右には扉が一つ。
ここが私の世界のすべて。外へ出ることは出来ない。欲しいものがあれば部屋へ運んできてくれる。
外のことは分からない。でも外から私のことは知られている。
ここは硝子の中の世界。硝子瓶に閉じ込められた私。
手は出せないけれど観賞をする。そのためだけにある部屋。
何かの鳴き声が聞こえてそちらに目を向けると白色の小柄な鳥が腰高窓で羽を休めていた。
白い鳥は幸せを運ぶと呼ばれている。
目を合わせてみようとするも、忙しなくあちこちに首を回していて全く目が合わない。
「何しにいらしたんですの」
そう訊ねるも、先ほどまで鳴いてきた声は聞こえず、脚と首を動かすだけだった。
それでも動くものをここしばらく見ていなかったためか、単に興味があったのか、そのままじっと観察する。
「あなたは何処へでも行ける羽根があるのですね。その羽根でどこまで行くのですか」
答えなど最初から期待してはいない。
窓へ近づいてみても鳥は逃げる素振りも無い。しかし触れようとは思わなかった。触れたらいなくなってしまうような気がして。
側仕えに鳥の餌はどんなものが良いのか。ひとまず持ってきてもらうことにした。
それから給餌をしてみたのだけれど、一切口を付けない。水も飲まない。
体調が悪いのだろうかと獣医を呼び、診てもらったけれど、特に問題は無いとのこと。
そんな不思議な鳥がここに居着くようになって一週間あまり。
やはり、いつもと同じように朝日で目が覚めてしばらく。
突然飛んでいった。
その鳥が、飛んでいった方向を仰ぎ見る。
幸福への道しるべになるかもしれない。今の生活が何か変わるかもしれない。
そんなことを思いながら。
窓際まで寄って眺望した先には一面の青が広がっていた。
雲は高くに薄く広がって散っているだけ。それがずうっと広がり、段々と下に向かって首を下げていくと今度は別の青とぶつかる。
より濃い青色。そしてそれは陽の光に反射して白く煌めいている。
ぼうっと眺めていてふと以前読んだ本の内容を思い出した。
渡り鳥は群れで飛んでいく。
それは先頭を飛んでいくと体力が無くなるため、交代して先頭を往くのだ。
群れから離れたらその鳥はおそらく陸地まで辿り着かないだろう。
「一体なぜ飛んでいってしまったのでしょうか。ここの中にいる方が幸せだったのに」
籠の中 朝凪 凜 @rin7n
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