彼女が欲しいと呟いたらファンタジーが始まった『編集前』
@hotborn1
第1話『口は災いの元』
20XX年12月24日 東京
雪がアスファルトを覆い、世界を白で優しく包み込む。
あちこちに飾られるイルミネーションが、音楽が、今日と言う日を盛大に祝う。
「さっきの映画めっちゃ良かった!」
「ね! 特に最後のハグ、めっちゃ良かった」
「憧れちゃうなー…………ね!」
「は………ん、ほら」
「フフ、ありがと!」
映画館から出てきた男女二人組、手を繋ぎお互いの顔を見て照れくさそうに笑う。
彼らだけでは無い。
人々は皆、パートナーと共に今日と言う日を楽しんでいた。
しかし、何事にも例外はある。
イルミネーションに照らされ煌びやかに輝くこの街の一角に、男はただ一人で何をするわけでも無く佇んでいた。
和気あいあいと喋り歩く人々をただ無表情に、淡々と、意志も無く、眺めていた。
何、どんな言葉で飾ろうともこの状況では全てが無力だ。
要するに男はボッチだった。
それもタダのボッチではない、クリスマス直前まで彼女がいたボッチだ。
足が速い奴はモテると考え陸上を始め、勉強が出来る奴がモテると考え塾に行き、シティーボーイはモテると考え東京の大学を受験し、苦節十九年。
大学一年夏、遂に初めての年齢=彼女いない歴を脱却した。
だからこそ敢えて言おう。
結局クリぼっちだ。
男は絶望した。
何がいけなかった? 生まれてから十九年全ての人生をモテる為に費やしてきた。足を速くし頭も良くなった筈、髪も服も金に物を言わせてどうにかした。
完璧な筈だ。
もはや死角など無い。
しかし、違った。
「えー、見た目そんな嫌いじゃなかったしお金持ちだし良いかなぁーって思ったんだけど…………ちょっと余裕ないし自信過剰だし話面白くないし無しかなって。やっぱクリスマスは好きな人と過ごしたいしごめんねー」
夏には一緒に海へ旅行し、時には映画、時には遊園地、勿論付き合ってから一か月記念日等のプレゼントも忘れない、一緒にデートに行き毎回最後は美味しいディナーで締めくくった。
散々ネットでリサーチした、彼女としなければならないイベントは全て網羅した。
勿論席は奥を譲る、道を歩くときは車道側、メニューを見る時は彼女の後、会計は全て男が、等々の常識だってしっかり履修済みだ。
しかし、男は結局クリぼっちだ。
人々を祝福するこの雪も、男にしてみればタダの雨だ。
彼女が「ね、寒いし手繋ごうよ」「……マフラー一緒につかお?」等と言ってくれるこの寒さも、男にしてみればただ自分の惨めさを強調させる忌々しい何かだ。
それでも、そうと解っていても、未練故か、男は今こうして寒空の下でただ一人佇んでいる。
「……死にたい」
「…………いや、先に彼女欲しい」
男はそう静かに呟いた。
目線の先には会話を聞く限り映画を見てきたであろうカップルが映っている。
いいなぁ、ただ純粋に男は思う。
多分、二人とも高校生だ。
あ、彼氏が抱き着いた。
彼女も……ん? 誰か近づいてきた。
男の視界に別の人影が入り込む。
「お兄さん、私の彼氏になりませんか?」
全ての物語は、ここから始まった。
彼女が欲しいと呟いたらファンタジーが始まった『編集前』 @hotborn1
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