短編小説「宝物」

門掛 夕希-kadokake yu ki

それぞれの宝物


 今まで掘っていた土とは違う固さに変わった。土の色も少し薄くなり僕は宝物がきっとここにあると確信した。




 「ルールは簡単で宝物の入ったカプセルがイベント会場のどこかに埋まっています。貸し出し用のスコップを使い、がんばって探してみてください。また、もしゴミやよくわからないものを掘り起こしましたら、埋めることはせずにこちらの透明な袋にお入れください。係員が後で処分いたします。イベント終了の合図はことらでホイッスルを鳴らしお知らせいたます。それでは説明は以上となります。では宝探しスタートです」僕は白髭の眼鏡を掛けた博士みたいな老人が拡声器を使い話していた説明を思い出しながら僕は掘り進めた。妹がやりたいということで一緒に参加したイベントだったが、始まると妹より真剣に宝物を探していた。





 スコップの先が何か固いものに当たって〝カンッ〟と音をたてた。僕はそれが何なのか確認するため掘り進めようとしたが、掘り返した土の中に光るものを見つけ手を止めた。




 見つけたのは消しゴム位の大きさの白い石だった。でも形が普通の石とは明らかに異なり水滴を少し曲げたような見た目をしていた。テレビでしか見たことがないが確か〝勾玉〟とかいうものではないだろうか。指でこの勾玉を撫でるとまるで川で拾った小石のようにすべすべしていて気持ちよかった。僕は、すごい物を見つけてしまった興奮を抑えながら誰か大人の人に言うべきか迷っていた。



 


 考えてる途中も指ではずっと勾玉を撫で続けた。そして、この勾玉は僕だけの宝物ということにしてズボンのポケットにしまった。宝探しゲームで見つけた本物のお宝だ。確か博士みたいな人が言っていたよくわからないものでもないから、ゴミ袋に入れる必要もないはずだ。悪いことをしたわけじゃない。僕は急いで掘った穴を埋め妹の方を手伝ってあげることにした。妹も何か特別な宝物を見つけてほしかった。





 イベントも終わり参加者が誰も残っていないことを男は確認し、車のライトを頼りにゴミ袋の中を全て地面にひっくり返した。目当てのものが無いことがわかると車の助手席を開け、先ほどまでイベントの中心として話していた老人に報告した。





 「やっぱり今日も何も出ませんでしたね」男性から報告を受けた老人は少し落胆したように見えた。

「今回もやはりそうか、銅鏡や銅鐸と言わないまでも勾玉の一つでもこの土地で見つかれば、クラウドファンディングの説得力が増すんだが上手くはいかないな」

「いい考えなんですけどね、宝探しのイベントと称して人を集め、運がよく何か出土品なんか見つかれば教授の悲願達成に一歩前進する。またどこかでやりましょう」





 男の熱意に後押しされ老人は、そうだな、と小さくつぶやくと続けて語った。「まあ、今度イベント実施する場所は前回と同じ九州に戻そう。やはり邪馬台国は日本国民の宝だからな、諦めたくはない」

「どこまでも教授についていきますよ。僕らの宝探しはまだまだ終わりませんからね」

男性は老人に手を差し伸べ握手を求めた。老人は握手に応え力強く握り返した。






 ——実はあの少年のスコップが鳴らした〝カンッ〟という甲高い音こそ、彼ら二人の宝探しの終わりを告げる音であったが、残念ながら気付くことはできなかった。


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短編小説「宝物」 門掛 夕希-kadokake yu ki @Matricaria0822

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