エピローグ
私が目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。
ドラマや映画でよく見る、真っ白で何もない部屋。
私の足元に、誰かが座っていた。
それが自分の母親だと分かるまで、時間がかかった。
「お母さん?」
私は、母親に聞いた。
「気づいたのね、気分はどう?」
会うのは数年ぶりだというのに、母親はすらすらと答えた。
そして母は、私があの砂浜で発見されたのだと言った。私たちがあの旅館に行ったその日の夜、同じ旅館に泊まっていた家族連れが、ひとりで砂浜に倒れている私を見つけた。外傷はなかったものの、意識がなかったため、そのまま救急車を呼んでくれたらしい。
私は窓を開けてくれるように頼んだ。
自分の状態がよく分からない。
母親は頷いて窓を開けてくれたが、冬だというのに、冷たい空気が入り込んでくることはなかった。
そして私はそのとき初めて、母親が酔っていないことに気付いた。
「いいからもう少し眠りなさい、母さんがそばにいてあげるから」
母親はいつから、こんな迷いのない話し方をするようになったのだろう。
私は違和感を覚えたが、母親の言葉がスイッチになったかのように、強烈な眠気に襲われた。
瞼の閉じていくのを感じながら、ふと、マルイさんはどうなったのだろうと考えた。
意識が途切れる寸前、一瞬だけ瞼を開けた。
夕日のせいだろうか、母親の輪郭が赤く、光って見えた。
(完)
【短編ホラー】赫い人 @roukodama
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