いつもの道をふらりと外れて何処かに行ってしまいたい、たとえば海とか。誰もが通勤(あるいは通学)中に一度は抱くであろう懶惰な願望を、主人公は実行に移してしまう。俗世の煩悶から逃れた「私」は、安寧を得ることができるのか。それとも逃げきれずに絡めとられてしまうのか。豪気なようで繊細、そして生真面目な「私」の旅路から目が離せません。とても面白いです。
この物語の季節はいつなのか分かりませんが、個人的には少し湿った夏の空気を感じます。体験したことがないはずのお話なのにどこか懐かしく、子供の頃の何にでもわくわくしていたあの感覚が蘇るような気さえします。どんどん読み進めてしまいますね。お気に入りのシリーズになりそうです。