第5話 ストップ

 バンっと隣からすごい音がして、見ると拳を痛いくらい握っている四辻さんが西院さんを睨んでいた。


「夜華。私の旦那様に何をしてくれているのかな?」

「挨拶ですが?」


 そう言ってまた僕の頬を撫でる。


「今日は、絶対に許さないからね」

「勝手にしてください」

「はいはい、ストップストップ」


 先生が喧嘩を中断させ、張り詰めていた空気が弛緩する。


「喧嘩は止めてね。みんな怖がっているでしょ?」

「はい……すいません」

「そうですね。申し訳ありません」

 

 二人が一度みんなに頭を下げ、席にそれぞれ着く。


「はぁ……じゃあ、自己紹介も済んだし、これからのことについて決めていくよー。それじゃあまずは………」


 それからは普通にクラス委員を決めたり至って普通の時間が過ぎ、授業をしてお昼休みになる。


「旦那様、一緒に昼食をとりませんか?」

「良いけれど、どこで食べる?」

「そうね、どこで食べようかしら」


 どうしようか。……


「って…なぜ夜華は普通に混ざってきているんですか」

「別にいいじゃない。私は、細ではなく雪人に興味があるのだから」


 また、バチバチしだした二人を収めるためこんな提案をする。


「三人で、屋上で食べる。異論は認めません」

「…分かりました。旦那様がそうおっしゃるのでしたら」

「ふふっ。残念ね。細」

「ありがたく思いなさい、夜華」

「はいはい、また二人で争わない」


 なんでこう、この二人はすぐに喧嘩するかなぁ。なんだかんだありつつ屋上につき、お弁当を広げると……でかでかとハートマークが書いてある。


 昨日、何故か絶対に主様のお弁当を作りますと言ってきたのはこのためか。


 今度はバキッと、お箸が折れる音がする。


「えっと、どういうことですか、旦那様」

「これは…僕の護衛をしてくれているセリアが作ってくれて」

「ふぅーん、そうですか、そうですか。じゃあ、明日からは、旦那様はお弁当を持ってこなくて結構です。私が手作りして持っていきます」

「それは、流石に気が引けるというか」


 頬を膨らませ、ジーっとこっちを見てくる。一切目を逸らさずにじっと。


「……分かったよ」

「やった。気合の入ったものを作っていきますので楽しみにしていてくださいね」


 本当に嬉しそうに笑う細さんをみて、和む。でも……何個かこの子と、僕の隣にいる西院さんにも聞きたいことがある。


「ねぇ、二人に聞きたいんだけれど、いいかな」

「なんですか」

「何?」

「まず、四辻さんは…なんで、そんなに僕のことが好きなの?」


 大方予想がつくけれど、一応聞いてみる。多分……魔素の影響と、事故の事だろうな。


「それはですね。旦那様にあの日、身を挺して守ってもらったからです」


 やっぱりか。


「でも…助けてもらって、すぐはこれが恋だとは気づきませんでした。ですが、旦那様と会えず、何か月か旦那様の事を思いながら過ごして、ふと、街中で恋人を見かけ、ハッとしました。これが恋なんだと。私も旦那様とあぁやって隣で腕を組んだり、手を繋ぎたいって思ったんです」


 若干酔ったように話す四辻さん。


「それから、何か月も何か月も会えない日々が続き、お母様に言っても旦那様に合わせてもらえず、ただただ思いが募りに募り、やっと今日会えたのです。だから、この気持ちには一切魔素は関係ありません。ただ、あなたの事が大好きなだけなのです」

「分かった。ありがとね。教えてくれて」


 曇りのない笑顔で言われて僕も笑顔になる。


「えへへ、当り前です。私は旦那様のお嫁さんですからね。それで。…その、旦那様?」

「何?」

「いつ、正式に、私と結婚なさって下さるのでしょうか?」

「えっと…………」


 答えに窮する。だって、まだ互いを全然知らない。それと……どこかでまだ、魔素のせいなんじゃないか、僕の事は見ていないんじゃないかと思えてしまうのだからしょうがない。


「それは、無理な話ね」

「あなたには、絶対に渡しませんー」


 又もにらみ合う二人に質問と言うか、西院さんに答えを聞く。


「えっとさ、いきなりで悪いんだけれど、西院さんって多分、僕の事好きでも何でもないでしょ?」

「……なんでそう思ったの?」

「だって、西院さんと会ったことはありませんし、多分、家柄的に僕の魔素が目当てでしょう?」


 西院さんは多分、四辻さんとはかなり仲が良いいみたいだし、かなり亜人の中でもトップクラスにいる種族の家系だと思う。それに、立ち振る舞いとかもきれいで無駄がない。多分そう教育されてきたんだろう。


「…まぁ、そうだったわ」

「だろうね」

「でも、今は、違うわ。正直、あなたに会うまであなたの事なんてどうでもよかったのだけれど、私、あなたのことが知りたくなったの」

「それは……魔素の影響です」

「でしょうね。でもそれでいいじゃない。私は、あなたの事が気になっている。それで」


 そうなのか?まぁ、本人が言っているのならそれでいいか。このあとも二人の喧嘩を止めたりしながら、昼食をとった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔族の血に適応した初めての人間なった @nakuka101511

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ