マイ チャイルド

しらす丼

マイ チャイルド

 ――創作上の登場人物たちは、みんな私の子供である。


 それは、創作活動を始めた頃からずっと思っていることだった。




 これまで身近にいる家族や友人にも創作のことは打ち明けず、私は物語の中の子供たちの声を聞き、声をかけながら続けてきた。


 私にとって、その子供たちの声だけが頼りだった。


 しかし――そんな子供たちの、彼らの声はある日突然きこえなくなったのだ。


 理由は分からない。私は私のできることをやってきた。


 技術面の向上、SNSでの宣伝。

 読者は何が良くて悪いかを考え、何度も書き直しては消してを繰り返してきた。


 彼らがもっと多くの人の目に触れるように、有名になるようにと尽力してきたつもりだった。


 それなのに、彼らと私の心はいつの間にか共鳴することがなくなっていた。


 今日こそはと思い、折を見て声をかけてみるものの、やはり彼らからの返答はない。


 なぜ? どうして? ぜんぜん分からない。


 今の状況は悪くない。だからきっとこのままでもいいのかもしれない。


 けれど、それでも私は彼らと共に進みたい。そう願った。


 そして私は、私の原点――処女作を読み返すことにしたのだ。




 心を題材にした異能力者の物語。


 下手くそだし、テンポは悪いし、誤字脱字も多い。


 よくこのクオリティで公開したものだと苦笑する。


 でも、彼らの声を聞きながらやっていたこの作品には、命があるように感じた。


 一人一人の想いの強さ、繋がろうとする心。


 下手くそなのに、恥ずかしいって思うのに、それでも私の心はその物語と共にあった。



『小説は心。物語はその生き様。

 周囲に合わせて中身を変えるなんて、ナンセンスだ』



 それを彼らは私に訴えていたのかもしれない。


 そりゃ、分からなくもなるよ。

 見捨てられもするよ。


 自虐的にそう思い、眉間に皺を寄せながら嘆息する。それと同時に、ある想いが湧き出てきた。




 彼らは売り物なんかじゃない。

 ましてや私の存在証明をする道具でも、プライドを振りかざすためのものでもない。


 別の世界で生き、運命によって繋がった大切な家族――私の子供たち。




 それはかつて胸に抱いていたはずの想い。親心。


 彼らはずっと私に声をかけていたはず。叫び続けていたはず。


 それなのに、その声を聞いてこなかったのは私だ。信じてこなかったのは私だ。


 自分の生んだ子供たちの生き方や心を否定するなんて、親としては失格だと思った。


 今更どのツラ下げて彼らと話し合えばいいのか、どれだけ知恵を絞っても分からない。きっかけの言葉が思い浮かばない。


 どうしよう。どうしたらいい?

 相談できる相手は、いるはずもなかった。


 だったら、以前のように頭を使わずまっすぐにぶつかれば良いのではないか?


 突として降ってきたその考えに、私は妙に納得していた。


 私はそもそも利口じゃない。

 学もないし、人望も権力も。それに今は職すらない。


 いつだって体当たりで、考えなしで、身の程知らずで。そうやって今の私になったんだ。


 馬鹿でもいい。社会にとってのお荷物でも、ゴミでも、役立たずでもいい。


 心に灯った、この熱い想いを消さずにいられるのなら。彼らと共にこれから先も生きることが出来るのなら。


 以前のように彼らと繋がるのは、少し骨かもしれない。でも。


 私は耳を傾けたい。

 私が信じる彼らの――私の子供たちの声に。


 これからも私は子供たちと共に生きていく。

 そう誓った。

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マイ チャイルド しらす丼 @sirasuDON20201220

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