解答編
「じゃ、始めようか」
うーん。そう言われても、まず何から質問すればいいのか、サッパリである。
とりあえず、確認しておくべき事といえば……。
「その男の人は、犯罪者なの?」
「イエス」
だよね。じゃなきゃ、捕まらないよね。
「遊具を磨くのは、犯罪?」
「ノー」
うん。そんな犯罪、きいたこともない。
「被害者は、子供たち?」
「ノー」
「え、違うの?」
「彼の犯罪と、公園で遊ぶ子供たちは、一切関係ないよ」
そうなんだ。ちょっと、安心したかも。
けど、ますます、わからない。
「被害者は、いるんだよね?」
「イエス」
「誰?」
「それは、イエス、ノーで答えられないからダメ」
うぅ。ぜんぜん、わかんないよぉ。
ルリカは、人差し指を立てる。
「じゃあ、ヒント」
「え、ホント?」
「一昨日、その男の人、駆け出す前に何かを弄ってたんだよね?」
「うん、スマホか何かを。それって、重要なの?」
「イエス。それと、その人はイヤホンをしていなかった?」
「え、どうだろ? 遠くからだったんで、よくわかんないけど」
「たぶん、してたはず」
「それ、関係あるの?」
「イエス。すっごく」
イヤホンで何かを聴くのが、罪になる訳?
わかんないぃ。
頭を掻きむしりたくなる。
「カホ、発想を転換させてみて」
「へ?」
「その男は、遊具が磨きたくて、公園にきてたのかな?」
「そうでしょ?」
「ノー。違うと思うよ」
「え?」
発想を転換……。あ!
「公園にずっといる為に、遊具を磨き続けていた?」
「イエス!」
でも、どうして?
磨く為じゃないとすれば……。
「イヤホンで何かを聴く為に、あそこに?」
「イエス」
「何を聴いてたの?」
「……」
「お気に入りの曲?」
「ノー」
「ラジオ?」
「ノー。でも、悪くない発想だよ」
「え?」
「電波、という点では」
電波、聴く、犯罪……。あ!
「と、盗聴?」
ルリカは、意味ありげに微笑んだ。
「イエス」
「でも、何で、あの公園なの?」
「もう、ほぼ正確にたどり着いたから、教えてあげる。盗聴器の電波っていうのは、そんなに遠くまでとばせないのよ」
つまり、受信できる範囲は、設置先のそばに限られている。
喫茶店でもあれば良いが、なければ、公園くらいしか傍受に適した場所はないだろう。
けど、夜の公園に、男がずっと一人でいれば、当然、怪しまれる。通報されてしまうかも。実際、過去にそういう経験があるのかもしれない。
だから、男は、公園にいる理由が欲しかったのだ。
「まあ、遊具を磨くのも怪しいけど、悪いことしてるワケじゃないから、ムリにやめさせる人はいないんじゃない?」
確かに、私も、良い人だと思っていた。
「けど、何で盗聴なんて?」
「さあ? けど、可能性が高いのは、ストーカー目的じゃないかな」
「どうして?」
「だって、その人、嬉しそうにしてたんでしょ?」
私は、男のにやけた顔を思い出す。あの時は、特に何も感じなかったけど、今は不気味に思えてくる。
「じゃ、盗聴の罪で捕まるの?」
「盗聴自体は、罪にはならないよ」
「うそ?」
「けど、盗聴器を設置するために、人の部屋に忍び込むのは、もちろん犯罪」
「でも、もう仕掛けた後なんでしょ? わざわざ忍び込む必要ないじゃん」
「一昨日の夜を思い出してみて」
「スマホか何かを……て、あれ、スマホじゃなかった?」
「たぶん、受信機だろうね。で、きっと、電波が受信できなくなってたんだよ」
「なんで?」
「受信機の故障、でないとすれば?」
「盗聴器が外された?」
「イエス」
それを察した男は、慌てて公園を後にした。
「で、彼は、どうすると思う?」
「もしや、また新たに盗聴器を……」
「うん。けど、盗聴器なんか見つけたら、その部屋に住む人は、普通、何らかの防犯対策をするよね?」
「対策?」
「たとえば、監視カメラを設置するとか」
再び、男が同じ部屋に侵入すれば、カメラの映像は決定的な証拠になる。
「けど、ぜんぶ、ルリカ推察でしょ?」
「ま、そうだけどね」
ルリカは、軽く言うと、カバンを手に席を立った。
本当に、その通りになるのかなぁ……。
後日、私は、うちの近所で、男が逮捕されたというニュース記事を目にした。容疑は、見知らぬ女性の部屋に無断で侵入したこと。
忍び込んだ理由は、盗聴器を設置するためだった。
お、恐るべし、ルリカ。
まちかど水平思考〜夜の公園で、遊具を磨く男は逮捕される。なぜか? 鈴木土日 @suzutondesu
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