第5話 読むの、だるい……けど
「……ゲームしたい」
自室のベッドの上で奏太は呟く。
時刻は夜十時過ぎ、手には文月のお薦めで購入した文庫本。
『よし今夜中に読破するぞ!』と意気込んで本を開いたのがほんの十分前。
およそ五ページ目にして、奏太の心は早くも折れかけていた。
「うぐぐ……全然場面が頭に入ってこない……面白くない……眠い……」
生まれてこのかた本など全く読んでこなかった奏太にとって、読書は想像以上の苦行であった。
まず文章から意味を読み取る作業が膨大なカロリーを消費する。
その文章が意味する場面を想像し、今どこで誰がなんのために何をしているのかリアルタイムで想像しなければならない。
しかし読めども読めども、奏太の頭の中は靄がかかったように真っ白。
文章によっては何度も読み返さないと、今何の話をしているのかわからなくなるほど。
これでは今夜中に読破どころか、読み終えるのに一週間くらいかかるんじゃないかとすら思えてきた。
「ゲームしたい……漫画読みたい……」
読書よりもずっと楽に楽しむ事に逃げたくなってくる。
「いや、ダメだ……!! このくらい読めないと……」
今にも落ちてきそうな瞼を無理やりこじ開ける。
ふと、文月のことが頭に浮かんだ。
放課後の書店での一件を通して、文月に対する興味がより強くなっていた。
もっと彼女のことを知りたい、仲良くなりたいという気持ちが確かに芽生えていた。
そのためには、何としてでもこの本を読破しなければならない。
文月と共通の話題を作るんだろうと、自分を鼓舞した。
「えっと……つまりこのタクヤってやつはアカリのことを好きなのか……」
音読してみたり、口に出して情報を整理してみたり、スマホで言葉の意味を調べたり、とにかく前に進むために色々試してみる。
そうして四苦八苦しながら読み進めていくうちに頭が慣れていったのか、少しずつ『眠い、つまらない』から『面白いかも、もっと先を読みたい』という気持ちに切り替わってきた。
「え……マジで? まさかのそういう展開……?」
気がつくと俺は、時間も忘れて本の世界に入り込んでいった。
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