第3話 昼休みの一幕
昼休み。
奏太はいつメンの陽菜、悠生と共にランチを決め込むため食堂を訪れた。
澪は生徒会の仕事があるとかなんとかで不在である。
本校の食堂のメニューは全体的にハイクオリティで、それ目当てで受験を決める人も少なくはないとかなんとか。
奏太は今朝のランニングで消費したカロリーを無に返さないために、鳥の照り焼き定食ご飯少なめを注文する。
隣を見ると悠生がカツ丼と味噌ラーメンのセットを注文していて、生まれつきの代謝の差にぐぬぬと歯を鳴らした。顔にも口にも出さないけど。
「ねーねー、昨日の東京オンエアの動画見た?」
明太子パスタを前にした陽菜が悠生に話を振る。
「もち! てっちんとユウマリンの交際報告だろ?」
「流石ゆーせい! ちゃんとチェックしてんね! ぶっちゃけどう思った?」
「いやー、俺ユウマリン推しだったからなー。いくら東京オンエア好きとはいえ、チャラ男のてっちんと交際ってのは流石にショックだったなー」
「わかる! ユウマリンは清楚キャラで押してたから、個人的には真面目な縁の下の力持ちポジの丸メガネ君とくっついてほしかった! 奏太もそう思うよね?」
急に話を振られ、奏太は急いで鶏肉を飲み込んでから言葉を返す。
「ほんそれな! 丸メガネ君とユウマリンの二人きりでディスニーデート企画とか、見てみたかった……」
「いいなそれ! くっそ……でももう見れないのか……」
悠生の同意が得られた事にホッとする。
昨日、書店から帰ってきた後に東京オンエアが動画投稿をした通知が来て、急いでチェックした甲斐があった。
こういう時に話題に乗り切れてかつ、その場の空気に準じた会話が出来るかどうかが、関係性の維持においてとても重要なのだ。
……個人的には、東京オンエアの動画はそこまで面白いと思ったことはないという事実は、そっと胸の奥にしまっておこうと思う。
「水汲んでくる。二人のも汲んでこようか?」
奏太は立ち上がって、自分のコップとは別に空になった悠生のそれを指差す。
「お、サンキュ。頼むわ〜」
「わーい! そーちゃんありがと!」
「おすおす」
器用に三つコップを持ってから給水器の元へ。
じょばーっと水を汲んでいると、後ろの机から二年と思われる女子生徒ふたりの会話が耳に入って来た。
「……ねえねえ、あそこ机に座ってる一年の子って」
「そうそう、鳳君! ほんとイケメンだよねー」
「わかる! モデルみたいだよね! でも一緒に座ってた女の子もめっちゃ可愛くない?」
「姫宮ちゃんね! あの子のインスタフォローしてるんだけど、めっちゃお洒落なコスメとか服とかあげてて参考になるよ! フォロワーも六十万人くらいいる!」
「六十万人! すっご! どのアカウント? 見せて見せて!」
「えっとね……」
奏太は思わず得意になった。
自分の座っていたあのテーブルが、周りから『イケてる連中』として見られている事に。
悠生や姫宮たちと一緒に行動していると、まあ視線をたくさん投げかけられる。
この優越感はクラス、いや学年の中でもトップカーストのグループに属している特権とも言えよう。
陰キャにも陽キャにもなりきれない半端者だった中学時代と比べれば、入学してすぐに陽キャ達と仲良くなれたのはとても良かった。
高校ではいわゆる陽の学園生活を送りたい!
と、髪も服装もちゃんとしてコミュ力も体も鍛え、そこそこ頑張った甲斐があったと言うものだ。
悠生や陽菜、澪と比べたら見劣りするが、個人的には自分も結構イケていると思ってる、多分。
しみじみと、そんな事を思いながら奏太は席に戻る。
「ほい」
「あざす!」
「ありがとー!」
二人の前にコップを置いて席に着く。
同時に悠生が話を振ってきった。
「今日の放課後カラオケでも行かね? ちょうどテストも終わったし!」
悠生の提案に、陽菜が秒で反応する。
「いいーーーね!! カラオケ! 久しぶりにあーしのドルソンが火を吹くよー!」
「まーたBBSだろうどうせ!」
「正解―! ちょうど先週新曲が出てさー、家で練習してるから歌いたいんだよね」
「そりゃ楽しみだな! 他にも何人か誘っとくわ!」
「お、いいねー! 盛り上がっていこ! もちろん、そーちゃんも来るよね?」
当然の様に聞いてくる陽菜に、奏太は内心で(今日、かあ……)と苦笑いを浮かべる。
(帰って新作のゲームをやる予定だったんだけどなあ……)
どちらかと言うと奏太は外でワイワイするよりも、家でゲームをしたり漫画を読んだりするのが性に合っているタイプだ。
でも、そんなことは言ってられない。
友達の誘いは断らないノリの良いキャラで通している以上、自分は笑顔を作ってこう答えるべきなのだ。
「もちろん! 行く行く! 俺も何曲か練習しているから、ちょうど行きたいと思ってたんだよね」
「そうこなくっちゃな!」
「そーちゃん歌上手いから楽しみ!」
「いやいや、ダムの採点で98取る人が何言うてはりますのん……」
奏太が突っ込むと、自然と場に笑いが起こる。
合わせて奏太も声をあげて笑った。
胸のどこかでモヤっとした不快感が生じた事には、気づかないフリをして。
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