22:VS晴野季桃&成大優紗――その2
『打たれ強くなる魔術』によって物理攻撃に耐性を得た僕は、優紗ちゃんの攻撃を全て受け流す必要はなくなった。
攻撃のうちいくつかはあえて受けて、優紗ちゃんの攻撃にあわせてカウンターを行う。
先ほどまでは防戦一方だったが、次第に僕が攻撃する機会が増えている。
段々と有利に戦えるようになってきた。
「ねぇ結人さん、まさかもう勝った気でいるわけじゃありませんよね」
「何か企んでいるのかな」
「言ったじゃないですか、その魔石で後悔しませんね? って」
優紗ちゃんはそう言うと、剣を上段に構えて振り下ろしてくる。
上段からの振り下ろしは横薙ぎや斬り上げに比べて威力が高いので、『打たれ強くなる魔術』があったとしても受け流した方がいい。
だけどこれだけなら、大したことはない。
僕は問題なく優紗ちゃんの攻撃を受け流す。
でもその直後、凄まじい速さで2段目の攻撃が来た!
燕返しというやつだろうか。正しい技名は別にあるのかもしれないが、とにかく鋭い斬り返しだった。
しかしそれすらも優紗ちゃんにとっては、僕の姿勢を崩すためだけの仕込みだった。
斬り返しで僕に隙を作った優紗ちゃんは、大きく踏み込んで剣を構える。
「必殺!
中二病チックな謎の技名を叫んだ優紗ちゃんに、僕は剣の腹で思いっきり叩かれた。
一応、ギリギリで身体を捻って衝撃を軽減したつもりだけど、それでもかなりの威力がある。
ルーン魔術のおかげで物理攻撃に耐性があるはずなのにめちゃくちゃ痛い。
耐性の上からこんなに大ダメージがあるなんて、どれだけ強い力で叩いたんだろう。
でも優紗ちゃん的には、この結果は微妙だったらしい。
「あれ? 衝撃を軽減されたせいか、思ったよりうまく行かなかったですね。『打たれ強くなる魔術』を素通りしてダメージを与える必殺技なので、これでトドメのつもりだったんですけど」
「素通りって、そんなことできるの?」
「できますよ。鎧の種類によって斬撃が有効だったり、打撃が有効だったりするじゃないですか。そんな風に、いい感じにやればできるんです」
だから「その魔石で後悔しませんね?」と言っていたのか。
優紗ちゃん曰く、ちょっとしたコツがあるらしいけど……。
まったく真似できる気がしないな。
僕たちから離れたところにいるヒカルも「ルーン魔術を剣術で素通りするって……」と驚きを超えて半ば引き気味だ。
能力面で姉の心子さんにコンプレックスを持っているところが目立つけど、やっぱり優紗ちゃんも天才なんだよな。
「先ほどは半分ほどしか素通りしませんでしたが、次はうまくやりますよ」
そう言って優紗ちゃんは再度斬りかかってくる。
優紗ちゃんが先ほど繰り出した技は、あくまで『打たれ強くなる魔術』の効果を素通りするだけだ。
きちんと受け流しさえすれば他の攻撃と変わらない。
問題はどれが『打たれ強くなる魔術』を素通りしてくる攻撃なのかわからないことだ。
また技名を叫んでくれたら別だけど、あれはトドメを確信していたからこそのおふざけだろうし。
先ほどの優紗ちゃんの説明から考えると、当て方に秘訣があるようだ。おそらく剣の振り方も他とは少し違うはず……。
けれど戦闘中の僕には余裕がなく、違いを分析している暇はない。
「ほら、結人さん。守ってばかりじゃ勝てませんよ」
確かにこのままでは勝てない。一か八か、捨て身で攻め込むべきなのだろうか……。
ヒカルの状況はどうだろう? ヒカルと連携が取れる状況なら、合流して別の戦い方に切り替える手もあるが……。
状況を把握するためにヒカルと季桃さんの方へ意識を向ける。
いつの間にかヒカルは季桃さんに攻め込まれ、接近戦に持ち込まれていた。
ヒカルはルーン魔術を使いつつ槍で応戦しているが、季桃さんはルーン魔術を使っていない。
おそらく季桃さんは自分の魔力が尽きかけたため、勝負をかけたのだろう。
それが功を成してヒカルに近づくことができたようだ。
ヒカルが押されているなら援護は期待できない。
むしろ僕がヒカルを助けに行かなければ。
覚悟を決めて優紗ちゃんを見据えると、彼女は薄く微笑んだ。
「結人さんが勝つには僕の攻撃を見切るほかありませんよ。頑張って見切ってください」
優紗ちゃんの攻撃が続く。
どれだ……? どの攻撃が『打たれ強くなる魔術』を素通りしてくるのだろう。
最初に素通り攻撃を仕掛けてきたときは大きく踏み込んでいたけれど、おそらくあれはトドメの一撃として放ったからだ。
素通りそのものはもっと弱い攻撃でもできるのだと思う。
でも弱い攻撃だとしても受け流せずに直撃すれば、こちらの動きが鈍ってそのまま押し切られてしまう。
防御の必要がないのは、『打たれ強くなる魔術』だけで耐えられる素通りしない弱い攻撃だけだ。
素通り攻撃は強弱に関係なく受け流さなければならない。
僕は意識を研ぎ澄まして優紗ちゃんの動きに集中する。
そういえば優紗ちゃんが素通り攻撃を始めてから、ときどき変に力んでいる攻撃があるような気がする。もしかして素通り攻撃のときがそうなのか?
気のせいかもしれないし、素通り攻撃とは関係のない優紗ちゃんの癖なのかもしれない。
まさか意識的に入れてるフェイントじゃないだろうな……。
もしくは素通り攻撃そのものは力む必要がないけど、そこから追撃をかける時は力んでしまうとか。
判断材料はこれ以上無いだろう。
変に力んでいるのが、素通り攻撃と関係ない可能性は捨てる。関係ない場合は僕の負けだ。
問題は素通り攻撃で力むのか、素通り攻撃が終わった後の追撃で力むのかわからないこと。それでもどちらかに賭けるしかない。
前者の場合は力んでいない攻撃に合わせてカウンター、後者の場合は力んでいる攻撃に合わせてカウンターだ。
僕は腹を決めて、力んでいる攻撃に合わせてカウンターを仕掛けた。
「そこだっ!」
「嘘っ!? まさか見切られるなんて……!?」
やはり素通り攻撃から追撃を行う場合に力んでしまっていたらしい。
優紗ちゃんの攻撃は『打たれ強くなる魔術』で弾かれる。
僕は神々特製の手袋で優紗ちゃんが持つ剣の刃部分を掴み、思い切り引っ張った。
僕と優紗ちゃんでは、僕の方が筋力が強い。
不意に引っ張られる形になった優紗ちゃんは前方へ姿勢を崩す。
この隙は致命的だ。あとはトドメの一撃を刺すだけ。
しかし優紗ちゃんもこれで終わりではなかった。
優紗ちゃんは剣を奪い返せないことを悟ると即座に剣を捨て、無理やり身体を捻って跳躍する。
そしてそのまま僕の頭を狙って回し蹴りを放ってきた。
優紗ちゃんは無意味な足掻きはしないと思う。おそらくその蹴りも『打たれ強くなる魔術』を素通りするはずだ。
エインフェリアの身体能力を存分に活かしたその一撃は、起死回生の一手となりえただろう。しかし……。
「これもダメですか……!」
剣を取り上げたくらいで優紗ちゃんが諦めると、僕は思っていなかった。
最後まで彼女の動きを警戒していたおかげで防御が間に合ったのだ。
僕は優紗ちゃんが体勢を整える前に、軽く膝を折り曲げながら優紗ちゃんの懐へと踏み込む。
そして身体をねじるように動かして優紗ちゃんに体当たりを行い、大きく吹き飛ばした。
拳法でいう
吹き飛ばされた優紗ちゃんは綺麗に受け身を取ってから、ゆっくり立ち上がった。
「負けたー! 負けました! 完敗です。最初の素通り攻撃で決めきれなかったのが敗因ですね」
「僕の勝ちでいいの? まだ余力がありそうだけど」
「やろうと思えば全然行けますけど、スポーツチャンバラでも相応の勢いがある攻撃が一本扱いですしね」
その理屈なら最初の素通り攻撃も一本なんじゃないかと思う。
けれどあれは『打たれ強くなる魔術』に半分くらいは受け止められてしまっているので、優紗ちゃん的には相応の勢いに満たないらしい。
細かいルールは決めてなかったし、当人が納得しているようなので良しとしよう。
優紗ちゃんがやられたことに気づいた季桃さんが降参の声をあげる。
「さすがに2対1は無理だって! ギブアップ!」
「模擬戦、楽しかったですね。チームを変えてもう一戦やりたいです」
「えぇ……。スコルの子が急に襲ってきたとき用の魔力しか残してないからしばらく待って……」
優紗ちゃんはまだまだ戦い足りないようだが、他のメンバー、特に季桃さんはお疲れのようだ。
季桃さんはヒカルとルーン魔術を撃ち合って、魔力をほとんど使い果たしている。
対してヒカルは魔力にまだ余裕があるらしい。
元々の魔力量も違うのだろうが、やはり魔術起動装置を使うよりも自力行使の方が省エネなのだろう。
「結人さん、傷を見せてください。ルーン魔術で治療しますので」
「ありがとう優紗ちゃん」
治療のために優紗ちゃんが近づいてくる。
『打たれ強くなる魔術』は使っていたけど、何度か攻撃を受けているし、総合的には僕が一番ダメージを負っていそうだ。
治療してくれるならありがたい。
今回は僕が勝ったが、優紗ちゃんはこれからも強くなっていくはずだ。
優紗ちゃんとは『ヒカルと季桃さんを一緒に守る』と約束した。
その約束を守るために、僕も強くならなければいけないだろう。
優紗ちゃんがどこまで強くなるのか、僕としても楽しみだった。
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