茜色の心の持ち主


重い足を引きずって


教室ヘとたどり着いた。



ガラッと音を立てて扉を開けば


「紗希おはよう!」


と、明るい声が耳に入り込んでくる。


そんな声を私にかけた彼女の顔は、


もう1人の友人の方に


すぐに向き直ってしまった。



「あ、紗希じゃん。おはよ」


その友人はめんどくさそうにそう言った。


私は知っている。


彼女達にとって私は


”邪魔な存在”だってことを。


そう思っているのに


私に挨拶はしてくれる。


だからなるべく笑顔を作って


「うん、おはよう」


と返すようにしている。


彼女達が不快に思わないように、


見捨てられないように。



「それでさぁ、桜聞いてよ」


「え、なになに!」


私の精一杯の返事も聞き流して


彼女達は新しい話題に移った。



ここで「私にも教えて」


なんて言えたら、


彼女達とも


もっと仲が良かったかもしれない。



でも私にはそれが出来ないから


今日も1人ぽつんと席に座る。



窓側の席に位置する自分の席には


眩しい太陽の光がよく当たる。



漆黒のセカイを生きる私には


眩しすぎて無意識に目を閉じる。



それでも太陽の温もりは


冷えきった私の身体を暖める。



それがなんだか心地よくて、


少し寂しくて。



気がつけば私の瞳には雫が溜まっていた。


教室で涙を流すわけにもいかず、


誰にも気づかれないように


こっそりと教室を抜け出して


屋上に繋がる階段へと向かった。



そこは私だけが知っている秘密の穴場。


今まで誰にもこの場で会ったことがない。



この階段の前の廊下も人通りが少なく


常に静かな状態だから


私はこの場所を気に入っている。



最上段に腰掛けて、瞳に溜まった涙を拭う。


拭っても拭っても、涙は止まらない。


必死に唇を噛んで、


声が出てしまわないように努める。


それでも抑えきれず


「うぅっ、くっ」


と、漏れた声が辺りに響いた。



それとともにタンッと、


誰かが階段を上るような足音が聞こえてきた。



少しずつ近づいてくる足音に身を震わせた。


少しでも顔が見えないようにと隅に移動し、


両膝に顔を埋めるようにして座った。



しばらくして、タンっ.......すぐ近くで足音が止まった。


かと思えば、ずんずんこちらに近づいてくる。



「おい、大丈夫か?」



あっという間に私の前にやって来た人物。


その人物の優しく暖かさのある声が


また私の心に染みる。



「だっ大丈夫、です」


泣いているのが気づかれないように


普段の声色で話すことを心がけた。



「それ、顔上げてから言ってみたら?」



「そ、れは」


彼の言っていることは正しいけれど、


私だってこんな泣き顔を晒したくはない。



「泣いてるのは分かってる。だから顔上げろ」


その人物はそう言ってしゃがんだ。



すると、うっすらと見えた東雲色の髪が


再び心を震わせた。



暖かい優しい色に惹かれて


気がつけば顔を上げていた。



「やっと顔上げたか.......っておい!」



彼が驚くのも無理はない。


私の指が彼の髪に触れていたのだから。



「あっすみません!」


「いや、別にいいけど」



と、ぶっきらぼうに彼はそう返した。



少し冷たい言葉を放っているのに、


私には暖かく感じた。




それはきっと、彼の心が


茜色の太陽のように暖かいからだろう。




彼と出会ったこの日、


漆黒な私のセカイに茜色が混ざった。


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劣等感に溺れて 遥瀬 唯 @haruyui_0604

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