【コント漫才】ラーメン大将

鵜川 龍史

【コント漫才】ラーメン大将

A・B:(一緒に入場するが、Aだけ少しゆっくり歩く)

B:はいどーもー、アカデミーです。僕ら、コンビで漫才やってまして、今日もお祭りのイベントがあるっていうんで、こうして遊びに来たんですけどね。こういう営業のお仕事って、お客さんの反応を直に見られるんで、ほんと楽しいんですよ。最近はYouTube始める芸人さんも多いですけど、やっぱり、こういうライブステージが一番だって聞きますよね……

A:(遅れて立ち位置に付いて)気を付け!

B:え?

A:ほら、そこ!(客席を指差す。雰囲気次第でBを指差す。その場合は、セリフを変える)

B:(手を下ろさせながら)こらこら、やめなさい!

A:(雰囲気次第で「気を付け!」入れる)礼!

B:(頭を下げる)どうもー。改めまして、アカデミーです。

A:よろしく。

B:僕ら、コンビで漫才やってるんですけど……。

A:(出席簿を取り出す)出席取るぞー。

B:まだやるの!

A:赤井。赤川。赤沢。赤須。

B:赤、多くない?

A:アカデミ。

B:え?

A:アカデミー? いないのか?

B:はいはい! います。

A:はい、ここにもいます! ということで、僕ら二人でアカデミーです。よろしくお願いしまーす。

B:はい! とにかく僕ら、こうやって漫才をやってるわけなんですが、実は本業は別にあるんですよ。分かりますかね? 分かっちゃいました? どうしてだろう? おかしいなあ。

A:では、授業を始める。

B:こいつのせいですね。(Aに向かって)おーい! 僕らは漫才をやるんだよ!

A:え?(慌てた様子で)俺、間違えた? マジで? どうしよう……。

B:落ち着いて。大丈夫だから。

A:ちょっと待って。(台本を取り出して、ページをめくる)今の何行目?

B:ごめんなさいね。基本的に真面目なんですけど、アドリブが利かなくて。

A:ほんと、ごめんなさい。(肩を落として)しゅん。

B:しゅんとしちゃったよ。元気出して。

A:(背筋を伸ばして、元気に)しゅん!

B:何なんだよ。

A:うるさいな! 旬なんだよ!

B:おじさんのくせに、旬とか言うんじゃないよ。枯れてきてるんだから。

A:(肩を落として)しゅん。

B:めんどくさいな。

A:「先生」はめんどくさいもんなんだよ

B:それは君の性格でしょ?

A:でもさあ、先生になってなかったら、こんなにめんどくさい人間になってなかった気がするんだよね。

B:確かに、まあ、先生っていうのは、ちょっとうざかったり、めんどくさかったりするもんだよね。

A:でしょー。だから、他の仕事をやれば、めんどくさくない自分になれるんじゃないかな。(バンダナを頭に巻いて、ラーメンを作るマイムを始める)

B:それは僕も考えるなあ。でも、正直なところ、もういい年だし、今更転職とか、難しいんじゃないですか。教員免許と自動車免許しか持ってないし。

A:(ラーメンを二杯、お客さんに提供する)

B:え? もしかして、これ、ラーメン屋ですか?

A:(Bに気が付いて)へいらっしゃい! お一人さん?

B:え? 僕? は、はい。一人です。

A:じゃあ、そこのカウンターね。

B:巻き込まれちゃったよ。

A:(店の入口の方を見ながら)なんでちゃんと並べないかな。ほらそこ! 番号順に二列!

B:いやいや、ラーメン屋になっても、「先生」が抜けてないよ!

A:(おもむろにBの方を見て)注文は決まった?

B:ごめんなさい。考えてませんでした。

A:やる気ないなら、帰っていいんだぞ。

B:あれ? 帰っていいって言われたのに、帰っちゃいけない気がする……。(Aに向かって)ごめんなさい。ちょっとまってください。(メニューを見る)これにするか。あのー、チャーシュー麺に味玉……。

A:静かに! 意見があるなら、手を上げなさい!

B:ええー! 分かりましたよ。はい。(手を上げる)

A:はい、B君。

B:はい! チャーシュー麺に味玉トッピング。

A:正解!

B:え? 正解? やった! あと、小ライス。

A:ブッブー。不正解。

B:えー。不正解とかあるの? 何が正解なんだよ。

A:揚げパン。

B:揚げパン! 小学校の給食以来だよ。

A:じゃあ、割烹着と三角巾、用意して。

B:え? ……ありませんよ。

A:忘れたのか! 給食当番だろ!

B:何だよ、給食当番って。さっきから、いろいろおかしいんだよな。(ラーメン出来上がるまで、ぶつぶつ言いながら引っ張る)

A:はい、これ持ってって。(お盆ごと渡す)

B:え? どこに持っていくんですか?

A:自分の席に決まってるだろ!

B:僕の分? 唐突だなあ。まあいいや。(ラーメンを食べる)うまい。

A:だろ!

B:でも、揚げパンは、さすがに……。(揚げパンを食べる。首をかしげつつ、ラーメンをもう一口すする)……合う!

A:スープ、つけてみな。

B:うまい!

A:だろ!

B:でも、さすがにきな粉にスープは喉が渇くなあ。

A:ほら、これでも飲みな。

B:何ですか、これ。(飲む)ああ、すごくコクのある味ですね。何ですか?

A:牛乳だよ。

B:(牛乳を吹く)ラーメンに牛乳は合わないよ!

A:だろ!

B:分かってるなら出すんじゃないよ! もういいよ。お会計ね。

A:八百五十円に、牛乳代百円足して……。

B:さっきの、お金とるの? ほとんど吹き出しちゃったよ。

A:合計で、九百五十円ね。

B:じゃあ、千円でお願いします。

A:こら! 代金はお釣りの無いように封筒に入れるって約束だろ。

B:いや、学校でよくあるけど! 何の集金なんですか!

A:(突然、素に戻る。バンダナを巻いている場合は外す)どう? どう? 俺、新しい自分になれてた?

B:いやー、先生以外の何者でもなかったよ。

A:ええー。まじで……。がっかりだ。本当にがっかりだ。

B:他にやりたいこと、ないの? パイロットとか、警察官とかさ。

A:それじゃあ……外科医!

B:外科医も先生って呼ばれちゃうなー。

A:ほんとだ。危ない。外科医になったら、取り返しがつかなくなるところだった。

B:大丈夫。絶対になれないから。他は?

A:じゃあ、弁護士!

B:ああー。それも先生だな。

A:政治家!

B:それも先生。

A:あっ! 分かった!

B:何?

A:幼稚園の先生!

B:それは、もう、ただの先生だよ。何か、全然方向性の違うやつないの?

A:歌手!

B:あるじゃーん! 歌、好きだしね。じゃあ、早速一曲!(拍手。客席を煽って、みんなで拍手)

A:(無言、無表情で、客席を見回しながら、静かになるまで待つ。静かになったら時計を見る)はい。みなさんが静かになるまで、一分三十秒かかりました。

B:いや、静寂を待つ先生、いるけど!

A:一分三十秒あったら、なにができると思ってるんだ。

B:さあ、なんでしょう?

A:ラーメンが茹で上がっちまうよ!

B:もういいよ!

A・B:ありがとうございました!

(幕)

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【コント漫才】ラーメン大将 鵜川 龍史 @julie_hanekawa

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