【コント】星占い編集室

鵜川 龍史

【コント】星占い編集室

〔登場人物〕

浦:浦山 占い大好き 占いを信じている

星:星野 ベテランの編集者 星占い執筆のベテラン 占いを信じていない


浦:(空いた扉をノックしながら入室)こんにちは。ここ、星占いの編集室ですよね?

星:そうですが。

浦:やっぱり! 今日から、ここで働くことになった、占い大好き浦山です! よろしくお願いします!

星:え? 聞いてないけど。

浦:ここ、星占いの編集室ですよね。

星:そうだよ。

浦:浦山です! よろしくお願い……(頭を下げる)

星:(さえぎりながら)いや、ちょっと待って。(手帳をめくってページを指さす)これか? 面接の人?

浦:はい! これ、履歴書です!

星:いやいやいや。今、「働くことになった」って言わなかった?

浦:言いました! これ、履歴書です!

星:怖い怖い。まだ、採用決まってないでしょ?

浦:決まってますよ!

星:何? 何言ってんの?

浦:これ見てください。(本を見せながら)

星:あ、「星占い☆エブリデイ」。うちで書いてるやつじゃん。

浦:毎日のことが書いてあるので、助かってます!

星:助かってるの?

浦:もちろん! ここが今日の分です。「今日は絶好の面接日和。その場で採用が決まるでしょう」って。

星:ああ、それ書いた記憶ある!

浦:ほんと、よく当たりますよね!

星:いやー。当たってるかどうかは、まだ分からないかなー。

浦:大丈夫です! 自分でも確認したので。

星:確認?

浦:はい!

星:どうやって?

浦:もちろん、占いに決まってるじゃないですか!

星:(傍白)なんか、変なの来ちゃったなー。

浦:ほら、見てください。(ポケットから何か出す)

星:(いやいや覗き込みながら)なにこれ?

浦:骨です。

星:ああ、聞いたことある。骨卜こつぼくってやつね。骨に入ったヒビで占うんでしょ。

浦:そうです! さすが占いの編集室!

星:へー。実物、始めて見たわ。(興味深げに骨を見る)

浦:どうぞ!(骨を渡す)

星:(受け取る)いいの? ありがとう。なるほどね、このヒビで占うのか。これは何の骨なの?

浦:人です!

星:え?

浦:あ、誤解しないでください。自分の骨なんで。

星:え!(驚いて、骨を手から落とす)

浦:あっ!(慌てて手を差し伸べるが、掴み損ねる。骨を拾いながら)落とさないでくださいよ。

星:(汚れたものを触ったように、指先をもぞもぞさせながら)自分の骨って言った?

浦:(聞かれたことを不思議そうに)腰の骨ですよ。端っこの所を、パキッて、取ってもらって。

星:いやいやいや、何言ってんの?

浦:え? 星野さんは持ってないんですか? 自分の骨?

星:持ってないよ! いや、ちょっと待て。何で俺の名前知ってんの?

浦:占いました。

星:いや、もうやめて……。

浦:ということで、今日からよろしくお願いします!

星:ごめん。ほんっとにごめん!

浦:どうしたんですか?

星:うちでやってるの、そういうちゃんとした占いじゃないんだよ。

浦:どういうことですか?

星:適当に書いてるだけなの。とりあえず、それっぽい感じで埋めてるだけなのよ。

浦:ええー。なんで……。

星:だって、毎日の占いなんて、うちの編集部の予算じゃ、とてもとても。

浦:じゃあ、僕の「今日は絶好の面接日和」っていうのは?

星:適当……。

浦:じゃあ、昨日の「今日はいくらお金を使ってもオッケー。全財産を使い果たしましょう」っていうのは……。

星:あ……。

浦:あ、じゃなくて……。(頭を掻きむしる)ええー。嘘なのー。

星:いや、本気にしないでしょ、そんなの。うちの占い、ネタ枠でバズってんだよ?

浦:ええー。生命保険、受け取ったところだったのに……。

星:え?

浦:先月、父親が亡くなって。(鼻をすすりながら)

星:え、え……? ちなみにいくら?

浦:一億円。

星:……何に使ったの?

浦:全額、株に。

星:(愕然とした表情)ほんと、ごめん……。

浦:でも、まあ、いいですよ。そもそも、ここの占いがなければ、その一億もなかったわけですし。

星:え? どういうこと?

浦:半年前の占いで、「もうすぐ一番大切な人が亡くなります。生命保険をかけまくりましょう」って書いてあったんです。

星:それ! ネットで炎上したやつ!

浦:でも、そのおかげで一億円をゲットできたんです。大切な人を喪う心の準備もできましたし。

星:(独り言)……マジ? うちの占いって当たるの?

浦:どうかしました?

星:(独り言)他に志望者いないし、採用も決定だよな。当たってる……。

浦:全然、恨んでたりしないですよ。占いって、そういうものじゃないですか。当たるも八卦当たらぬも八卦って……。

星:(さえぎりながら)ちょーっと静かにしててもらっていい?(慌ててページをめくる)俺の運勢、俺の運勢。なんて書いたっけなあ……あった! 「今日は絶好の散財日和。ネットカジノでパーッと使いましょう」……これだ!

浦:何してるんですか?

星:(超高速でスマホをいじる)換金して、レートは……一番高いやつでいいか。

浦:なーにしてるーんですか?

星:(スマホを力強くタップ)いやー、星占い、サイコー!

浦:大丈夫ですか?

星:ははははは! 浦山君、きみ、採用ね!

浦:ありがとうございます。

星:いやー、素晴らしい!

浦:(首をひねりながら、ふと手元を見る)あれ?

星:(ご機嫌にスマホをいじりながら)どうかしたの?

浦:(骨を見ながら)ヒビが増えてる。

星:それでまた、占っちゃう感じ? 占い、サイコー!

浦:(手を口元にやりながら、困った様子で)どうしよう。

星:ん? どうかした?

浦:破産するみたいです。

星:え? マジで?

浦:あと、破滅するみたいです。

星:破産した上、破滅? そりゃまずい。やっぱり、株はリスク高いなー。

浦:僕じゃないですよ。

星:え?

浦:このヒビ入れたの、星野さんじゃないですか。

星:ちょっとちょっと、え? 俺?

浦:そうです。破産して、破滅します。

星:うわー。ネットカジノ、こえー!(泣く)

(幕)

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