クラス召喚で外れスキル『ゴム人間』を得た俺、無能として王女様から追放されかけるが、クラスメイト達が庇ってくれました ~冒険王に俺はなる~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

第1話

「次の授業何だっけ?」


「数学」


「げ、マジかよ……」


 教室の中で交わされる会話が聞こえる。賑やかな青春の1ページだが、俺にはあまり関係ない。俺は一人、机に突っ伏す。その瞬間だった。ヒュンッ! そんな効果音が聞こえたような気がした。そして、体が宙に浮いたような感覚。


「な、なんだこれは!」


「うわあああぁぁ!?」


「ここはどこなの!?」


 周りから悲鳴が上がる。俺は周囲を見回す。先ほどまで俺が突っ伏していた机は跡形もなく消えていた。いや、机どころの話じゃない。これは――。


「静まりなさい」


 静かながらも通るような声が響いた。同時に、生徒全員が黙り込む。


「私は王女エレクシア。ようこそ、異世界の勇者達よ。あなた達は我が帝国により召喚されました」


 現れたのは金髪碧眼の美少女だった。年齢は俺と同じくらいだろうか? 胸元が大きく開いたドレスを身にまとっている。腰には剣を帯びている。彼女の両隣には、護衛らしき兵士達が控えている。


「おい、これってまさか……」


「異世界転移じゃねえのか……?」


 クラスメイト達がざわめき始める。それはそうだ。俺たちはただの高校生で、こんな経験をしたことはないはずだからだ。


「さて、皆様はこの国を救うために呼び出されました」


「えっと……どういうことですか?」


 一人の男子生徒が手を上げて発言する。


「今この国は滅亡の危機にあるのです。魔王軍が我が国に侵攻してきています。そのため、あなた方の力が必要なのです」


 王女と名乗る少女は淡々と説明する。なるほど……。どうやら本当に異世界に来たらしいな。ということは、目の前にいる女の子は本物のお姫様なわけか。


「皆さんも突然このような場所に呼ばれて戸惑われていることでしょう。しかし安心してください。あなた方は全員、ユニークスキルを持っているはずです。つまり、最初から強いということですね」


 ふむ、なるほど。異世界召喚の鉄板だな。クラスで浮いていたボッチの俺でも、強いユニークスキルがあれば無双できるかもしれない。


「あー、ちょっといいかな?」


 また別の男子生徒が手を上げる。今度はメガネをかけたイケメンだ。


「僕たちは普通の学生でね。いきなり戦えと言われても困るんだよね」


「確かにそうかもしれません。ユニークスキルは強力ですが、使いこなすためには訓練が必要になります。そのあたりもこちらで手配しますのでご安心を」


「あの! 私達は家に帰してもらえるんですか!?」


 次は女子生徒の声だ。委員長タイプという感じの子だが、可愛い子だ。


「残念ながらすぐにとはいきません。召喚の儀式には多くの魔力を消費してしまいました。しばらくの間はここで生活してもらうことになります」


「そんな……」


 委員長さんは涙目になる。そりゃ泣きたくもなるだろう。だが、そんな彼女に王女は優しく微笑みかける。


「大丈夫ですよ。衣食住は保証しますし、何か不自由なことがあれば私が相談に乗りましょう」


 おお、意外といい人じゃないか。こういうタイプの子は嫌いじゃないぜ。


「まずは各自のユニークスキルを確認させていただきたいと思います。順番にこちらの水晶に触れてください」


 王女の言葉に従って生徒達が次々と水晶に触れていく。


「おおぉっ! 俺は『剣聖』だってよ!」


「私は『天候の支配者』……サポート向きかしら?」


「おれは『魔弾の射手』だ。スナイパーになれるのか!?」 


 次々に自分のユニークスキルが判明していく。みんな嬉しそうな顔をしているな。もちろん俺にもさずかし強いスキルが……。


「次、君だよ」


 俺の番が来た。ワクワクしながら水晶に触れる。すると――。ピシッ!! そんな音を立てて水晶に亀裂が入った。


「「……は?」」


 一瞬、場が凍りつく。いや、待ってくれよ。俺は何もしていないぞ? それなのにどうして割れるんだよ?


「う、嘘だろ……? なんでお前だけ壊れるんだ……?」


「まさか規格外の超絶スキルが……?


「いやいや、こういうのは一人だけ外れスキルだったりするんだぜ」


 クラスメイト達がざわつき始めた。なんだか雲行きが怪しくなってきた気がする。


「ど、どうやらあなたは例外的な存在のようですね……」


 王女様が引きつった笑みを浮かべる。


「それで、スキル名は何ですか?」


「俺のスキルは――ええっと……」


「何ですか? 早く言いなさい」


 王女様が急かしてくる。水晶が割れた俺のスキルは、当たりなのか外れなのか。気になっているのだろう。だが、これは――。


「『ゴム人間』ですね」


「……は?」


 王女様がぽかんとした顔になった。


「いや、だから俺のスキルは『ゴム人間』ですってば」


「……ぷっ……くく……」


「……ぶふぅ……はははははははは!!」


「……うはははは!!! なんだそりゃぁぁぁぁぁぁッッッッッッ」


「い、異世界人にもそんなしょうもないスキルが発現するんだな!」


 兵士達が爆笑し始める。だよなぁ……。ゴム人間――つまり体が伸びる能力なのだろう。しかし、そんな能力を得て一体何になるのか。どうせなら、火魔法とか剣聖とか、そういう漫画の主人公っぽいスキルが良かった。ゴム人間なんて、どう考えても主人公のスキルじゃないよなぁ。


「……くくく。ふふっ、笑わせていただきましたわ。これほど無能の異世界人が紛れ込んでいるとは、想定外でしたのもので」


「…………」


 やはり外れスキル持ちにはこういう態度になるのか。いい子っぽいと思っていたのに、残念だ。これはマズイ展開になるかもしれない。


「この国は滅亡の危機に瀕しているのです。無駄飯食いを養っている余裕はないんですよ」


「か、勝手に呼んでおいて、そんな言い草は……」


「口答えは許しません。そもそも、我が国に役立つと思っていたからこそ下手に出てあげていたのです。無能のあなたにこれ以上付き合う時間すら惜しい。さぁ、兵士達。こいつをさっさと追放して――」


 王女様の言葉は最後まで聞こえなかった。なぜなら、クラスメイト達が俺に駆け寄ってきたからだ。彼らは何やら興奮した表情を浮かべている。


「す、すげー! いいなぁ、おい!!」


「『ゴム人間』ですって? これ以上ないほどの当たりスキルじゃない!」


「やっぱりな! お前はやる奴だって思っていたよ!!」


「一緒にスキルの練習しようぜ!!」


 彼らは笑顔で俺の肩を叩き始める。まるで、最初から仲間だったかのように。いや、これはいつものことか。学校で何かイベントがある度に、彼らはこうしてフレンドリーに接してくる。基本的にイイヤツばかりなのだ。


「え、ええと……。何の話?」


「そりゃ『ゴム人間』と言えば――あっ! もしかしてお前……!」


「ん?」


「あの国民的漫画を読んでいないのかよっ!」


「どの国民的漫画だ?」


「決まってるだろ! 海賊の王を目指して世界中の海を旅するアレだよ!」


「ああ、アレか……」


 そういえばクラスでは流行っていたな。俺は異世界転生や転移、あるいはラブコメとかデスゲームものが好きなんだ。友情・努力・勝利なんて漫画は好みじゃない。最初から最強だったり相思相愛だったりする話が好みだ。


「よく知らないな……」


「も、もったいねぇ! あの漫画は名作なのに!!」


「今度貸してあげるね!」


「まぁ……機会があったら頼むよ」


 クラスメイト達がここまで推す作品だ。貸してくれるというのであれば、読んでみるか。


「おう!」


「それより今は王女だぜ!」


「そうだ! あいつの言うことなんか無視しておけ!」


「俺達で秘密の特訓しようぜ!」


「おい、兵士さん! 訓練場はどこだ!?」


 クラスメイト達が張り切っている。俺は彼らに流されるまま、連行される。みんなハイテンションの浮かれモードだ。


「あ、あのぉ……。私は王女なんですけど……。みんな無視しないでぇ……」


 王女様が残された部屋から、最後にそんな寂しげな声が聞こえてきたのだった。

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