第27話

 謎に不機嫌になった夢野を宥めることに休日を使った俺は、次の日から改めて幻想対策部に顔を出していた。

 すると、幻想対策部に着いて早々に生徒会長に呼び出される。


「やあ。休日はどうだった?」

「……すごく疲れました」

「休日なのに!?」


 支部長椅子に座る、いつも通り爽やかな生徒会長にそう告げると、彼女は目を見開いた。そりゃそうだろ。俺も驚いてる。どうしてこうなった?

 それはともかく、呼び出された支部長室のソファーには、猛の姿もあった。

 猛がいることに首を傾げていると、生徒会長は咳払いする。


「んんっ! まあ君の休日は置いておいて……今回君を呼び出したのは、次の任務を与えようと思ってね。ルボイの件で君が少しは戦えることも分かったからさ」


 まあそうだろうな。

 今までは雑魚すぎて外に出すのも微妙だったくらいだし。

 それでも生徒会長がこれから幻想対策部でやっていけるように、わざわざマナみたいな監督役を付けて、任務の経験を積ませようとしてくれたわけだ。

 だが、ここにきて俺も少しは戦えることが分かったので、生徒会長は多少の任務なら大丈夫だって判断したんだろう。


「正直、この間の襲撃直後だから不安かもしれないが……逆に言うと、相手もこちらが警戒してることを予測して、手を出してこない可能性が高い」

「なるほど」

「それに、そろそろ研修会の時期なんだ。金仁君には研修会までに幻想対策部での任務に慣れてほしくてね」

「研修会?」

「そう。各幻想対策部の支部に所属する、下級隊員だけが参加する行事で……まあ各支部の隊員同士の顔合わせだったり、色々な目的があるんだよ」


 そこら辺は普通の会社みたいなんだな。

 そんなことを思っていると、生徒会長は猛に視線を向ける。


「そこで、今回は猛君の任務について行ってもらい、任務に慣れてもらおうかなと」

「というわけさ。よろしくね」

「はぁ」


 前回はマナと一緒の行動だったわけだが、今回は猛か。

 正直、この猛とは最初の自己紹介以降、ほとんど言葉を交わしてない。

 まあ幻想対策部内で顔を合わせる機会がなかったってのが一番の理由だがな。

 すると、生徒会長は居住まいをただした。


「それで早速だが、君たちに向かってもらいたい任務が一つあるんだ。それは……天使の封印」

「天使の封印? 天使って、生徒会長が契約しているカマエルと同じですよね? そもそも、天使って人間の味方じゃないんですか?」


 純粋な疑問をぶつけると、生徒会長は笑う。


「確かに、世間一般的にはその認識で間違いないだろうね。でも、実際は違うんだよ」

「そうなんですか?」

「悪魔は分かりやすいと思うけど、天使や神々も、人間とは違う価値観を有しているんだ。だからこそ、私たち人間にとっては悪であっても、天使たちにとって正義という場合もあり得るんだよ」


 人間側から見れば、殺人は悪いことではあるが、天使たちからすれば、それが悪である確証はない。

 だって、天使たちは人間ではないのだから、言ってしまえば人間を野生動物や虫と変わらない感覚で見ている可能性だってある。

 そうなると、人間の子供が無邪気に虫を殺すように、天使たちも人間を虫のように殺したっておかしくはないのだ。

……そう考えると恐ろしいな。何かで見た話でも、悪魔より神の方が人間を殺してるらしいし……。


「そういうわけで、天使の封印は重要なのさ」

「和解みたいなのはできないんですか? まだ誰も契約していないなら、誰かと契約したり……」


 すると、今まで黙って聞いていた猛がそんな質問をした。


「契約交渉はすでに試したよ。でも、向こうから拒絶されたから、幻想対策部としても封印を決定したわけさ」

「生徒会長のカマエルが命令してもダメなんですか?」

「無理だね。ちゃんとした理性と自我のある天使……つまり、名前持ちは上下関係とかちゃんと理解できているけど、そうじゃない普通の天使はそこまでの知能がないんだ」

「天使ってアホなのか……」

「いや、言い方!」


 俺の呟きに、生徒会長がすかさずツッコんだ。

 まあ名無しと名前持ちで差があるのは悪魔で分かったわけだが、天使も同じだとはな。


「あともう一つ、今回の任務を受けてもらう理由があってね。それは、金仁君に実際に幻想種をどうやって封印するか知ってもらうためだ」

「あー……確かに、よく知らないです」


 こうして説明だけは受けているが、どうするのかは全く分からない。


「まず封印には……道具が必要になる」


 そう言って見せられたのは、この間アミーを封じ込めるときに使った紙切れと、真っ白な封印石の二つだった。


「封印石はこの間紹介したからいいとして……こっちのお札みたいなものだけど、これは【封札ふうさつ】と言って、封印石に封じ込める前に簡易的に封印するための道具なんだ」

「え? 直接封印石に封印するんじゃダメなんですか?」

「封印石は強力なぶん、効果を発動するまで少し時間がかかるんだ。それに対して、この封札はすぐ発動して、封じ込めることができる……ただし、効力は弱いので、この封札だけだと、札の中から解除してまた逃げられる可能性もあるんだよ」

「なるほど……」

「そこら辺の時間間隔や道具の使い方も知ってもらうために、今回の任務はうってつけだったってわけさ」


 確かに、こうして話を聞くと、この任務は受けておいた方がよさそうだ。

 研修とやらで減点されて、昇格できなくなっても困るしな。


「天使の場所はすでに猛君に伝えてあるから……頼んだよ」


 こうして生徒会長から依頼を受けた俺たちは、早速天使のいる場所へ向かうのだった。

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グリード×グリード 美紅(蒼) @soushi

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