第10話 漆黒のオーク来襲!

 

 ―――グゴァアアアアアッッッ!



 そのけたたましい叫び声の主はだった。


 天気は晴れだっていうのに、どしゃ降りの雨にただ一体だけ降られ続けている漆黒の巨躯きょく


 水属性魔術を操る突然変異の稀少なオーク。


 なんであんなな魔物がいきなり?


 俺たちに向かって迫ってくるその魔物は、こんな超序盤に登場するレベルの敵ではないのだ。

 ディープスコールオークといえば、確かD級、いやC級だったかもしれない。

 でも、強さはそうかもしれないが、レア度で言えばSS級だ。この『サーザントピアス』のゲーム世界ではこのレア度というのも非常に大切な指標になる。

 なぜならレア度が高い魔物ほどレア度の高い(つまり価値が高い)ドロップアイテムを落とすからだ。


 俺もこのリアルなゲーム世界の中でディープスコールオークを見るのは初めてだった。


 まあ、とにかく、もし仮にD級だとしても、ここであんなやつに暴れられたら下手したらクラス40人全滅しちまう!


 そんな状況で一番先に動き出したのは、安斎あんざい遼也りょうやだった。


「おっ! 早速魔物が出やがったな! なんかべちょべちょに濡れてて見た目グロいけど、オレがこの魔法銃でぶっ殺してやるぜ!」


 きっと遼也は超序盤に出てくる魔物だから、あの迫力ある見た目によらず弱いのだと思い込んでいるのだろう。

 昔から遼也は弱いやつにはとことん強かった。


 でも、その魔物は弱くないんだよ、遼也!


 そう教えてやりたかったが、その前に遼也(とその仲間たち)は全力で敵に向かって走り出し、俺たちから少し離れると、遼也は仲間を片手で制して、魔法銃をもう片方の手で構えて、まだ遠方にいるその漆黒の巨躯きょくに向かって撃ち放った。


 駄目だ。

 その銃身じゅうしんの長いの魔法銃(ハンドガン型)に初めから装填そうてんされている魔銃弾は、炎属性魔術の中でも最弱のレッドファイヤーアローが6発と決まっているのだ。


【武具No.1 魔法銃】

 ①ハンドガン型の魔法銃には銃身じゅうしんが長い攻撃タイプのものと銃身じゅうしんがそれほど長くない回復・補助タイプのものがあり、攻撃タイプの魔法銃に回復・補助系の魔銃弾を装填することはできない。またその逆も不可能。

 ②魔銃弾は武具屋で購入可能。高位の魔術ほど高価でレア度も高い。また、ドロップアイテムとして魔物が落としていくこともある。

 ③ハンドガン型の魔法銃は基本6発まで魔銃弾を装填そうてんできる。

 ④武具習熟度のレベルが上がるとハンドガン型の魔法銃は特殊能力を持たなくても連続攻撃、つまり連射(3回まで)ができるようになる。

 ⑤ハンドガン型だけでなく、ライフル型、散弾銃ショットガン型、マシンガン型もあるが、入手困難でこの世界にそれぞれ数点しかないと言われている。

 ⑥普通に魔術を使うよりも魔法銃で魔術を放つメリットとしては、魔術名のコールが不要のため迅速に放てる、また相手にどの魔術を使うかを悟られにくい、射程距離が格段に広がる、命中精度が上がる、自分が習得していない魔術も放つことができるなどが挙げられる。

 ⑦あまりに自分の実力とレベルのかけ離れた魔銃弾を放つことはかなり危険で、放った後に大ダメージを受けることがある。


 まあ、とにかく遼也は攻撃タイプのハンドガン型の魔法銃で、そのまだ遠方(通常の魔術なら届かない距離)にいる漆黒のオークにレッドファイヤーアローを放ったのである。


 普通のオークなら地属性だから炎属性魔術がちょうど弱点となるのだが、あのディープスコールオークはオークの中で唯一の水属性。

 この『サーザントピアス』のゲーム世界では、炎属性は水属性とは相性最悪なのだ。


 俺の思った通り、遼也の撃ったレッドファイヤーアロー(つまり炎の矢だ!)はその漆黒の魔物の心臓のあるあたりに触れた瞬間、呆気なく消え去ってしまった。


「なんだよ! ちゃんといいとこに命中したのに、この魔法銃全然ダメじゃねえか! どうなってんだよ!」


 しかし、攻撃を受けた自覚はあるらしく、ディープスコールオークはドタドタとその巨体には似合わない凄まじい速度で遼也に迫ってくる。


 おかしい。

 オークがあんな速度で突進してくるのなんて見たことがない。

 まるで何かに吸い寄せられているようだ。


「なっ、なんだよ? エサがほしいのか? なっ、なら、これをやるよ! ほーらっ! よく見ろ! あっちに投げるぞ!」


 遼也はすっかりその魔物の迫力にビビっているくせに、みんなの手前余裕ぶって紺のブレザーのポケットからを出して、それをおもいっきり放り投げた。


 すると、なんとディープスコールオークはそのチョコバーの投げられた方向に物凄い勢いで突進を始めたのである。


 この魔物の好物はチョコバーだったのかよ!?


 そんなの『サーザントピアス』の公式魔物辞典にも載ってなかったぞ!


 そして、遼也がやけくそ気味に投げたそのチョコバーをキャッチしてしまったのは、俺のすぐ近くにいた乗崎じょうさき麗夏れいかだったのである。



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第10話も最後までお読みくださりありがとうございます!


ここまで読まれて、もしちょっとでも「なんかおもしろそう!」「これは期待できるかも!」と思っていただけましたら、☆☆☆評価をしていただけるとめちゃくちゃうれしいです!

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