結果から逆算して書いてみる

 結果から逆算して物語の展開を考えること、皆さんはありますか。


 考えてみると、結構あることなのかもしれないですね。まず話の冒頭を思いついたら、次は話の終わりをどうするか決めて、それからそれに至るまでの話を考える……その最後の部分で「逆算」をやってるかもなぁ、と思います。

 私の場合プロットと言えるほどのものを書けている自信はないですが、マップと旅のルートを描いたり、各地点で何が起こるかメモしたりして、ざっくりですが物語のだいたいの流れは決めています。それを元に、間の細かいところはなんとか全体の流れに合うように考えて後から埋める……みたいな。これも逆算してるって言えるケースなのかなと思います。


 ただ、話の終わりにあたる部分が一番に、話の出だしよりも何よりも先に決まっている、というのは……人によってはあるかもしれませんが、私は今までなかったかもしれません。

 なので、この前書いた『黒ひげと賞金稼ぎの運試し』が、終わりから逆算して考えた、おそらく初めての作品でした↓

『黒ひげと賞金稼ぎの運試し』 https://kakuyomu.jp/works/16818023211834532914


 言わずと知れたパーティーゲーム、『黒ひげ危機一発』(ちなみに四字熟語は「危機一髪」ですが、あのおもちゃの商品名は「発」のようです。ややこしい……何度書き直したことか)。

 あの、樽の中に入って短剣が外から刺される海賊は、どういう状況なのか。そうなるまでには、一体どのようなストーリーがあったのだろう。

 そこが妙に気になった私は、あの「黒ひげ」の海賊を登場させ、おもちゃではなく実際の樽と短剣で運試しゲームを行うという内容で、書くことを思いつきました。


 そのため、「樽に入った黒ひげが、短剣を次々に刺され、しまいには飛び出す」という結果は自然と決まっていて、そこに向けて物語を「逆算」し、冒頭のシーンから考えていく作業が今回は必要になりました。

 加えて、こちらも短編創作フェスの作品であり、お題が「危機一髪」なので、元のおもちゃのランダムで飛び出しドキドキするスリルを楽しむ感じ……できれば「運試し」的な要素も入れたいところです。


※ここから先は、『黒ひげと賞金稼ぎの運試し』のネタバレを含みます↓


 それらを踏まえて「逆算」して考えてみたところ……海に流され、樽から出られず助けを求める黒ひげが、ある人物と出会い、助ける代わりに運試しのゲームをしようと言われ、樽に次々と短剣を刺されていく。そんな構想がまず思い浮かんで、ストーリーに関しては逆算して考えることもわりと容易にできて、お題が発表された初日にはだいたい決まってはいました。

 ただ、あの言わずと知れたパーティーゲームの内容、「短剣を刺されていって、ランダムで黒ひげが飛び出る」や「ドキドキする運試し」という要素を、どうやって物語中で二人が実際にやるゲームに落とし込もう、というのは当初全くアイデアが思い浮かばずに、かなり苦労しました。


 おそらくあの黒ひげが「海賊」でなければ、「『黒ひげ危機一発』を実際の樽と剣でするなんて、考えてみたはいいけど無理な話だったな」と普通に諦めていたかと思います。

 しかし海賊の出てくるお話に目がない私は、どうしても海賊「黒ひげ」の話を書いてみたくなりました。樽とか短剣というアイテムも好きでしたし。


 その結果、「『黒ひげ危機一発』の海賊黒ひげを書く」に関しては閃いたのはお題が出た初日だったのに、黒ひげ危機一発の内容から逆算して「ゲームの内容」を考えるのに苦労し、締切最終日朝方になって(睡眠時間も削りつつ)ようやく、完成まで持っていくことができました。



 では、どう逆算していって、賞金稼ぎと黒ひげが実際の樽と剣で行うゲーム内容を考えたのか。ちょっと前の記憶ですが……なんとか思い出しつつ書いてみます。


 まず、私の「黒ひげ危機一発」というおもちゃに関する印象でまず浮かんだのが、「樽の中に閉じ込められた黒ひげが短剣何本も刺されて、かわいそう」というものでした。

 短剣を刺していくと、あるタイミングで黒ひげが痛さのあまり、飛び出てくるのだと、そう思いこんでいました。そして、短剣を刺した時に黒ひげが飛び出すと、その時刺した人がアウトになる。そういうルールなのかと思っていました。


 しかし、実はおもちゃの「黒ひげ危機一発」発売当初の構想は、「敵に捕まり樽の中で縛られている仲間の海賊を救出するため、短剣を刺しながら樽の中でロープを切って助け出すという設定」だったそうです(Wikipediaから引用)。

 つまり、黒ひげを飛び出させた人が勝者となるゲームだったとか。知らなかった……!

 とはいえ、当初はそうだったというだけで、今は様々なルールがあるみたいですね。どちらかというと、飛び出させた人が負け、が一般的なのでは?と思います。


 しかし話を考えた当初、この事実を知らなかった私は(Wikiを調べたのは後々のことだったので)、まずは私が元々持っていた「黒ひげ危機一発」のイメージから話を考えました。つまり、黒ひげは樽の中で短剣を刺されてかわいそうな目に合う。というイメージです。

 そして黒ひげが樽から飛び出ることから逆算し、最後には刺された剣がロープを切って脱出してしまう(狙ってではなく、偶然という形で)ことにして、脱出できたことで結局助かった、というラストの展開を思い浮かべました(ここは、物語的には脱出=アウト、ではなくその逆になるため、私の当初のイメージから変更したところではあります)。


 次に困るのが、ゲームの「運試し要素」をどうするか。おもちゃの「黒ひげ危機一発」にはランダムで短剣を刺せば飛び出る仕掛けがありますが、実際の樽にはそんなもの、ついてないですからね……。

 実際に同じ長さの短剣を樽に刺しても、おそらくランダムにはならない。ということで、仕方なく、刺す剣の長さが一本だけ長い、という設定にしました。そうすれば黒ひげの体に剣が届くか届かないかという点は、剣を選ぶ時に自然とランダムになるかなと。


 とはいえこれでは、剣を手に持って刺す「賞金稼ぎ」にとっては初めから結果がわかってしまうかたちにはなります。おもちゃの「黒ひげ危機一発」では、剣を刺す本人こそがドキドキしなければならないというのに。


 そのため、とりあえず砂浜に剣を埋めて、長さが直前までわからないように隠し、剣は刺す本人ではなく、黒ひげに選ばせることにしました。

 それでも、剣を抜くまではドキドキしても、抜いた時点では賞金稼ぎは剣の長さがわかってしまうのですが……。黒ひげには目を閉じてもらうことにしても、剣を刺す本人まで目を閉じるわけにはいきませんからね。

 とはいえ剣の長さがわかっている賞金稼ぎも一応、実際に刺すまでは黒ひげの運命がどうなるかはわからない。長い剣だからといって、刺した剣が樽の中にいる黒ひげのどこに当たるかまでは見えないし、刺すことで必ず黒ひげに死が訪れるとまでは言い切れない……。ということで、とりあえず賞金稼ぎが少しはドキドキしてくれればゲームは一応成立するかなと、許容範囲とみなしてこれで行くことに。


 ただ、それだけだと「こんなの黒ひげ危機一発じゃない」と感じる方もおそらくいらっしゃるだろう。と思った私はダメ押しで、文章の最後で黒ひげ危機一発がこれまでに辿った変化の歴史を述べ、最後には短剣の長さを揃えたりと今のルールになるべく近くなるように、辻褄合わせをしてみました。


 それでも上手く「黒ひげ危機一発」を実写化したように書けてるか、は読者の感じるところ次第であり、自分一人では判断できないところではありますが……とりあえず作品として形になってはくれたのかな、とは思います。



 思えば、既に決められた結果(ここではおもちゃの「黒ひげ危機一発」のゲーム性)に合わせて物語の展開を考えるという、逆算だとか辻褄合わせ的なものって、これまで自分が「行き当たりばったりな執筆」をしていることから実はよく使っていて、案外私の得意分野?なのかもしれません。今まで散々鍛えられたというか……。

(もちろん、書く前からしっかりプロットたてて計画的に執筆し、最後まで全て書けてから初めて公開し、人に見せる……これができる方に憧れ、こうなりたいと密かに願いますが)


 長編作品を思い返せば『アイラと神のコンパス』を書いた時には、展開についてはわりと計画通りに進んでいたのですが。一方で、『幽霊船の船長』は先の展開に迷った挙句なかなか決め切れず、何年も放置してしまったという出来事があったため、「行き当たりばったりでもいいからとりあえず進める」方針でこれまでやってきました。

 そうなると当然、既に公開して人目に晒してしまった部分に関しては、内容を変えられなくなってしまいます。この先の展開、まだ完全には決まっていないのに……(さすがにラストがどうなるかだけは、最初に決めてはいますが)。

 そうなってしまうと後々、どこかで辻褄合わせする機会がどうしても出てくるんですよね。そんな辻褄合わせを幾度となく使いながらも、なんとか今まで本筋の流れは変えず、話の矛盾はないように今のところやっていけているのが『幽霊船の船長』なのかもしれません。

 ……あれ?『幽霊船』って何度か「後からここ変えました」みたいな報告したような……気のせいか(すっとぼけ)。



 最後に、突然話は変わりますがこの『黒ひげと賞金稼ぎの運試し』、いつもと語り口が違うの、お気づきになりましたでしょうか。

 語り口を丁寧語にしたのはおそらく初めての試みでしたが、この語り口を採用した理由は、お察しの通り(?)どこか童話のような、昔ばなしのような雰囲気にしたかったからです。むかしむかし、実際にあった話だよ。この出来事が、今の「黒ひげ危機一発」を生み出したよ。みたいなイメージを作りたくて(本当はタカラトミーさんが生み出したおもちゃなので違いますが)。


 実際に語りを全て丁寧語で書いてみると、何度も普段の語り口が出そうになっては慌てて戻したりして、思ったよりも難しかった……結構疲れました。

 それでも「どういう訳か人形劇で再生されました」というレビューを頂けたので、語り口は自分の狙い通りに上手くいったのかな?とレビューを見て思わずにんまり(あの有名な「計画通り」のような笑み……ではないですが(笑))しました。



 ……今回ちょっと長くなってしまいましたね。一話の文字数が長めになってしまう傾向にあるほのなえ作品ですが、この『創作の記録帳』に関しては基本、2000字以下程度でやっていこうと思っていたのに。ついつい長文を書いてしまう、いつもの悪い癖が出てしまいました。

 『黒ひげ』に関しては執筆しながら考えることが特別多かったので、おそらく今回が長めになっただけだ、とは思うので……何卒ご容赦くださいませ。



 ではでは、次回は(いつになるか未定ではありますが)、短編賞創作フェス最後のお題「秘密」から考えたついた物語より、「番外編」というものについて、思うところを綴りたいと思います。


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