しにたいんだって

くじらのなみだ

第1話

「あたし人を殺したいの」


彼女の言葉は突然だった

自販機の暖かい缶コーヒーが似合う季節に

僕は実家に帰っていた、実家に帰ると言っても特別田舎な訳でもないし、ましてや特別遠いところでは無い、ごく普通の住宅街だ、そこに帰って久しぶりに幼なじみと昔を懐かしみながら街を歩いていた時の出来事だ、


「ふーん」


素っ気なく返事をして彼女の言葉の続きを待つ、


「反応薄いね」


つまらなそうに唇をとがらせ彼女は足元の小石を蹴り飛ばす、


彼女は15歳不安定な時期だからそういうことを考えるのもしょうがないだろうとこの話を流すことにする、


「そういえば高校は決まったの?」


彼女は立ちどまったあと振り返って僕の瞳を真っ直ぐ見つめる、

「なんで?」というさっきの話への質問を待っているのだろう、めんどくさいな…


僕はため息をついて面倒くさいな、という態度を隠さずに問いかける


「なんで人を殺したいなんて思ったの?」


彼女は満足気な顔をして答える


「兄ちゃんはさバランスって重要だと思わない?例えば沢山寝てもご飯を食べなければ死んじゃうし、皆が沢山お金を持ってても使わなければ国が回らない、たくさん悲しい思いをしたら楽しい思いをしないと心が死んじゃう、だから私は死をマイナスと考えた時に一人殺さないとバランスが取れないって思うの」


彼女がペラペラと難しいことを言ってる理解するのを僕は諦めた、


「じゃあその辺の人適当に殺したらおっけーなんじゃないの?」


彼女はさっきとは打って変わって不機嫌な顔をする、


「そうだけどさぁ、私の命に釣り合うのはあたしのこと沢山知ってる人じゃないといけないよね?そんな人この世に兄ちゃんしか居ないの、言いたいことわかる?」


怖いなぁこの子はこれが世にいうメンヘラかぁ


「あー、俺今から死ぬの?」


「そんなすぐには殺さないよ!もっとふたりで幸せになってからじゃないとね!」


そういった彼女の笑顔は曇りもなく晴れていた、恐ろしい程に

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