第四話 波乱の試験

試験は無事に進んではいるが主催者側としてもいつもよりハイレベルな試験となっていた。

ある者は風の刃を飛ばし、ある者は水の矢を放ち、ある者は氷の氷柱を落としお互いの実力を遺憾いかんなく発揮していた。


格技場の観戦席より中央部分はいくら魔法をぶっ放しても簡単には観客席に飛ばないように防護結界を張り巡らされており、上級魔法を瞬時に何百発と放ったとしても結界内からは壊す事は不可能である。

この結界は王国お抱えの国家魔導士が二十人で頑丈に張っているので試験に挑む者の実力では破壊は不可能という事。


既に何十組もの試合が終わり、とある試合の時である。黒いローブを来たちょっと怪しげな雰囲気が漂う人物が格技場の試合に出てきた。

「いやいや、思ってたよりもレベルの低い戦いが続いているなぁ。ボカァが出てきたからには楽しましてくれよぉ?」

怪しいではなく単純に性格を拗らせたタイプのように見える。

あとから出てきたのはジェイ・レプリカントである。今回はハイレベルな魔法戦が続き出場者が棄権をする試合が多くいつもよりも早いペースで試合が進み予選準決勝まで進んでいる。

審判が受験者の双方に対しもう少し前にというジェスチャーをしながら定位置に着かせる。準備が出来たので審判は両名の番号と名前を読み上げ試合の合図を送る。

「番号一番、ライアン・メイルジャモン対番号三番、ジェイ・レプリカントの試合を始める!お互いに礼!!」

両名は礼して審判の合図を待った。


因みにジェイはこの準決勝まで一度も魔法を使わずに体術のみの使用でここまで勝ち上がってきている。

対するライアン・メイルジャモンは格下と言えど中級魔法以上で全て撃破してきた。

ライアンは思っていた。

(ジェイ・レプリカントって確か、レプリカント家の長男だったな…でも、魔法が使えないとは、まぁ最初の初撃さえ避ければ大丈夫。対して強い相手では無い)


王族専用の観覧席に国王と妃、そして数名の王族が観覧している。

「従兄殿、今回はとても粒ぞろいな魔術師が出ておりますな」

髭を蓄えた如何にも武人の佇まいの人物が国王に尋ねる。

「うむ、今回は初出場のメイルジャモン家のご子息も出てるという事で中々に見ごたえの有る試合が多いな。して、ブロッフ殿はこの試合はどちらが勝つと予想してますかな?」

武人のようなブロッフと呼ばれる男は髭を触りながらしばし予想してみる。

「言っては何だが、従兄殿…この試合は恐らくレプリカント家のせがれが勝つと予想する。理由は魔法・・をあえて使用しないで体術のみで倒している。それも何の強化も無しにだ。幾場の戦いしてきた儂が奴だけは戦いたくないと身体からだが反応している…恐らく本能的にあやつだけは敵に回してはいけないと言っているのだ」

「ふむ、ブロッフ殿がそこまで言うか?だが、しかし我れもそう思うな…人の中で奴だけは敵に回してはいけない。そう感じる」

そこまで話して妃が話しに割り込む。

「陛下、彼は稀代な英雄ドワイゴ・レプリカント殿と慈愛の聖女マスティハ殿のご子息…その両名の血を色濃く引いているお方ですわ。一方メイルジャモン家は王家の末席に連ねるお家ですが、残念ながらあのご子息は人への尊厳も立ち振る舞いも立場や己の力で何とでもなるとお思いのお方です。そんな彼は恐らくこのレプリカント家のご子息に当たらずとも次の試合で赤子の如く捻り潰されますわ」

妃の情報を聞きブロッフは目を瞑りある事を思い出していた。

「稀代なる英雄ドワイゴか…懐かしい名が聞けましたなぁ…」

「従兄殿、昔話に花を咲かせるにはまだ早いかも知れんぞ」


審判は試合開始の合図を出した。

「試合!始め!!」


これまでのジェイは開始早々に類稀なる素早さを生かし体術で相手を倒していたがこの試合は一切動かないのである。

「どうした?レプリカント家のお坊ちゃんよ!試合は開始したぜ??」

(安い挑発だな…あらかじめ魔具に何か細工をしているのか?)

「こねぇならこっちから一発でぶっ飛ばしちゃうぜ!!!永遠とわに生きる水の精霊よ、我れの呼び掛けに答えよ。永遠とわより続く力の源を我れに貸し給え。汝の力を我が魔力マナに反し、母なる生命の水の魂をうねりを繰り返し激流の如く荒波に龍の息吹を吹き込み荒くれる大海と荒くれる稲妻が交わりし時、汝は我れを通じ鎮魂歌を奏でんとするなばら我れは汝に代償を捧げ、汝の力で相手を殲滅致そう!」

(高速詠唱で上級魔法…確かに普通の奴よりは魔法は出来そうだが俺の相手ではないか)

永久四大嵐エテネーソ・クヴァル・ヴェンテーゴ!」


ライアンが放った魔法はジェイの周りに四つの大嵐を巻き起こしジェイの範囲を取り囲むように徐々に近づいていく。暴風と稲妻と水を含んだ嵐は掠っても大怪我をする程に強い魔法のはずだが近づいても冷静沈着に真っすぐ見据えるジェイは右手を高く上げ指を鳴らす。

パチンと鳴った瞬間に永久四大嵐エテネーソ・クヴァル・ヴェンテーゴは無くなった…いや、消滅したのだ。

「お前…何をした…?」

ただの指を鳴らしただけで上級魔法が掻き消され苛立つライアンに目を瞑り解説を交え答えて上げるジェイ。

「お前さんがやった魔法は確かに普通には出せない代物だが永久四大嵐エテネーソ・クヴァル・ヴェンテーゴはその名の通り、大嵐を呼び起こす海戦・・に特化した魔法だ。しかし、永遠に使い続けれる訳ではない。それに俺がやったのはただ反転する魔法を使っただけだ。それも見抜けないとは王族・・も高が知れたな。実力は分かった…では、次は俺だな」

そういうと目を瞑ったまま手の平を前に突き出した。その瞬間に蒼い炎の玉がライアンが動き出す前に飛んできた。いや、蒼い球が速すぎたのだ。

「熱い!熱い!レプリカント家の田舎領主の息子如きが何故、蒼い炎の特異体質なんだ!熱い!く、四角水壁クバクバート・アークヴォ・ウォール!」

ライアンを包むように四角い水の壁が出来たが蒼い炎は四角水壁クバクバート・アークヴォ・ウォールの中でも一切衰えずに燃え続けている。

「俺はな…出身で笑われても怒らないさ。俺自身を馬鹿にしてもな。しかし、対戦者への非礼をも詫びずに自分の力を誇示し、あまつさえそれが当たり前と思っているお前には虫唾むしずが走る…」

そう、ライアンは準々決勝までずっと相手を卑下し、己の力を誇示してずっと愚弄していた。

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蒼い涙 能美音 煙管 @minoru3739

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