クロージングセレモニー
最終話 復讐完了
――――エイダンを倒したその後。
「ふぅ………遊んだ」
デスゲームを構築していた魔力の残量がまだあったため、ナアマちゃんとお茶をした後、私たちは遊びで戦った。
久しぶりにナアマちゃんと戦ったのだが、接近戦となるとやはり彼女の方が強くなる。さすがは物理攻撃最強の姉妹の1人。
そうして、満足いくまで遊ぶと元の世界に戻った。夜に開催されていたはずのパーティー会場はすでに朝。陽の光が窓から差し込んでいた。
「お疲れさん、アドヴィナ」
「アグラットお姉様」
律儀にもパーティー会場で待っていたナアマちゃんの姉、アグラット姉様。ナアマちゃんはとっても喜んでくれていたのだが、彼女はどこかむすっとしていた。
まぁ、姉様の気持ちも分からなくはないけど………。
「お姉様、私勝ちましたわ」
「………………」
「認めていただけますね、アグラットお姉様」
「むむぅ………で、でもな…………」
何か理由をつけて認めまいとしようとしているのだろう、アグラットの紫の瞳があっちへ行ったり、こっちへいったり…………。
必死になって考えているようだ。
すると、隣で様子を見ていたナアマちゃんが私の前に出て、言い放つ。
「姉様、アドヴィナ様と約束しましたよね。『勝ったら、認める』、と」
「むむむぅっ………」
「それなのに、認めないなんて、約束破りですよ。私はそんな姉様は嫌いです」
「なっ、嫌いなんて言わんでよ」
「嫌いです」
「む、むむむぅ………………」
腕を組み、絞るような顔を浮かべて、唸るアグラット。そんな彼女もまたかわいらしい。お姉様だけど。
「まぁ、デスゲームクリアしちゃったもんなぁ………」
「では………」
「………………ああ、分かった! 認める! うち、アドヴィナを認め――…………」
ドガッ――――ンっ!!
アグラット姉様の話を遮る大きな打撃音。
東の壁の方から巨大な1発が聞こえた。
その音ともに大風が吹き、髪がなびく。
強い風に私は顔を腕で隠した。
そして、風がおさまると、私は壁の方を見た。
しかし、そこに壁はなく、壊され、見える外の景色。快晴の空と朝日があった。
「………………アドヴィナ」
突如として現れた1人の男。襟足が長い艶やかな黒髪と蠱惑的な赤の瞳、魔族に特徴的な角を持つ彼。
「………………陛下っ」
ずっと私が会いたかった人だった――――。
彼の姿を見た他の人たちは悲鳴を上げ、すくんでいる。驚きのあまりすっころんでいる人もいた。
だけど、私は怖くない。
恐怖などない。
むしろ安心した。
私はすぐに彼の元へ駆けよった。
「陛下までいらしたんですね」
「ああ、認めるという姉上の声が聞こえてな。姉上、俺とアドヴィナの結婚を認めてくれるのだろう?」
「ああ、そうやで。姉ちゃんに二言はないからな」
少し不服そうに話すアグラットだが、嬉しそうな陛下の顔を見て、少しだけ笑みを漏らしていた。
「…………それはそうと、アドヴィナ。もう俺を陛下と呼ぶな。名前で呼んでくれ」
「え?」
「お前はもう俺の妻。夫婦ならば名前で呼ぶのが普通だろう?」
「うふふっ。分かりましたわ――――ルシファー様」
私は彼に駆け寄りぎゅっと抱きしめる。
誰よりも温かい抱擁だった。
「ルシファーだとっ!?」という叫喚の声が聞こえるが、無視無視………邪魔されたくないもんね。
「…………それで、ルシファー様、なぜこちらに?」
「早くお前に会いたいと思ってな……その様子だと全て上手くいったようだな」
「はい! 全てはルシファー様とナアマちゃん、アグラット姉様のおかげです」
「うむ、でも、一番はアドヴィナの努力があったからだろう。お前は必死に頑張っていたからな」
そう言って、ルシファーは私の頭を優しく撫でる。彼の向ける笑みは優しく、柔らかい。気づけば、私も微笑んでいた。
「アドヴィナ、さっそくだが、早く結婚式を挙げよう。準備は整えてある」
すると、ルシファーが手を軽く一振りすると、たちまち私の服は変わった。ぼろぼろになっていた黒のドレスから、純白のウェディングドレスへと。
頭にも白の花が飾られたベールが付けられ、あっという間に私は花嫁姿に変身。ルシファーかなり急いでるようだ。
「そんな急がなくっても………私はどこにも行きませんよ」
「分かっているが………他の人にお前を見られるのは耐えがたかったんだ。デスゲーム中、何度乱入しようと思ったことか。お前を襲おうとした男を俺の手で壊したかった…………あと、早くお前の可愛い花嫁姿を見たくってな………待ちきれなかった………」
「…………っ」
思わず頬が赤くなる。
ルシファーの思いが強すぎるわ………。
「分かりましたわ。では早く帰りま――――」
「どういうことだっ!! アドヴィナ・サクラメント!! そこにいる者はなんなのだっ!?」
いい雰囲気の中、轟く声。
見ると、兵士たちの間でつるっぱげのおっさんが叫んでいた。
「アルフェエフ宰相殿………先ほど聞こえませんでした? ルシファー様です、あなたたちが敵対する魔王ですわ」
「なんだとっ!?」
「ほう、虫みたいに弱い人間だな。ここには大したものはいなさそうだ」
そう言って、ルシファーは宰相や他の人をじっと観察し、残念そうに溜息をついた。
「ええ、ここにはルシファーとなるような者はいません。ここにいた分はデスゲームで排除いたしましたから」
「さすがアドヴィナだ」
ルシファーはまた大きな手で頭を撫で、そしてぎゅっと抱きしめる。なんかいつもより強いかも…………。
「殿下はどこに行った!? 他の者は!?」
「全員死にましたよ、ほら」
「!?」
ぱちんと指を鳴らすと、前に現れた死体の山。そこには無残に殺された生徒たち、エイダンやハンナの姿があった。
それを見た者がさらに悲鳴を上げる。子どももいたのだろう、親らしき人物が名前を泣き叫んでいた。
「き、貴様っ………」
「殿下が愚かな選択をしたせいですよ。自業自得です」
「復讐のためにやったというのかっ!?」
「それもありますが………ルシファー様の脅威となる者の排除もありましたわ」
将来エリートになり、ルシファーを殺す可能性があった者を一掃する―――それが今回のデスゲームのもう一つの目的。
エイダンやハンナたちはもちろん私の復讐のために殺したところもあるが、乙女ゲーム上で、魔王を倒すシナリオがあったから、というのも理由に上がる。
ジーナとかもちろん、女騎士ブレンダ、その他印象に残らない人たちも、魔法が使えることが必須の“学園の生徒”であったため、排除対象となっていた。
「サクラメント家は処刑を免れないぞっ! それを分かっているのかっ!?」
「ああ、ご安心を。父や母はすでに魔王支配領域におりますので」
デスゲームを始めた直後、アグラット姉様に父や母、使用人たち全員を魔王城に移送してもらっていた。だから、サクラメント家が公爵家の地位を失っても、どうってことない。
「サクラメント家は魔王ルシファー様についていく所存でございます。ご理解いただけましたか?」
「理解なんぞいくものか………」
「ああ、言い忘れておりましたわ。最近起きておりました、連続集団失踪事件は私がしましたわ。デスゲームを開くのに魔力がいりましたので、捕まえた人間で魔力を搾取しておりましたわ。なので、犯人は捜索しなくて構いませんよ」
「………………」
絶句するアルフェエフ宰相。
もう何も言えないようだった。
「宰相殿、お分かりでしょうが、このデスゲームは私……いえ、私たちからのフレイムロード王国への宣戦布告です。私はフレイムロード王国の滅亡を目指して、戦ってゆきます。どうかご覚悟を」
私は一礼すると、ルシファーの元へ戻る。
「話は終わったか、アドヴィナ」
「はい」
「では、帰ろう」
私は魔王様の腕に自分の腕を通し、彼に寄り添って歩いていく。にこりと笑いかけると、隣の彼も笑みを返してくれた。
ああ……この人と出会えてよかった。
この人となら、どこへだってどんな世界だって行ける――――。
朝日が差し込む壊れた壁へ、2人並んで仲良く歩いていく。その後ろをルシファーの姉アグラット、妹ナアマが歩いていく。先頭を歩く2人は幸せいっぱいの笑顔を浮かべていた。
その途中でアドヴィナはふと思い出したかのように、後ろに顔を向け。
「では、皆様。次また会う時は戦争で。ごきげんよう――――」
最後の挨拶をし、空へ飛んだ2人の姿は
おわり
――――――――
最後までお読みいただきありがとうございました!
こんな流行りにも載っていない、作者の好みを全力で突き通したこの作品を読んでいただけて本当に大感謝です。最後まで書けたのも読んでくださった皆様のおかげなので、感謝が尽きません。
今後の予定としては前日譚を書いていきます。魔王ルシファーとのイチャイチャを書きたいという作者の願望の元書いていくつもりなので、ジャンルとしては思いっきり恋愛です!
ご興味がありましたら、ぜひ読んでいただけたらと思います!
公開日は未定です! すみません!
続編については構想を練っている段階ですが、セイレーン、大天使ミカエラ、などなどまだ語っていないことがあるので、いつか投稿できたらと考えております。(1年以内にできたらいいなぁ………)
こちらも公開日は未定なので、近況報告などでお知らせしたいと思います!
また、作者のお気に入りをしてもらえれば、報告は分かりやすいと思うので、良かったら登録をお願いしますっ!
最後に…………この作品を見つけてくださりありがとうございました!
読んでくださりありがとうございました!
またどこかでお会いしましょうっ! ではっ!
悪役令嬢のデスゲーム ~婚約破棄の時、それは復讐の始まりです~ せんぽー @senpo
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