エピローグ:Save and Road / きっと二人が救われるまでの道のりを

7/21 10:08

「長、かっ」


 夏休み初日、深夜三十四時……もとい朝の十時。


「たぁー……」


 俺は彼女から借りていた乙女ゲームとの長きに渡る戦いに、終止符を打った所だった。


 徹夜で、寝ないで、昨日の夜から脇目も振らずにぶっ続けで。眠い、疲れた、腹減った。そういう生理的な感情を押しのけて、心の中には別の感情があった。


「……結構面白かったなぁ」


 いやまぁ、最初は微妙だったんだ。そりゃ転校生の聖女様がイケメン王子の恋愛を見続けて楽しい男子高校生がいるかって話だ。まぁいるかもしれないが、少なくとも俺はそうじゃなかった。だから王子様二人を攻略したところでコンビニでも行こうかと思ったのだが。


「確かに隠しキャラのシナリオが良かったわ」


 良かったというか、むしろこれが本編だった。むしろ王子二人のシナリオは前フリで、オープニングも二回流れて、主人公も交代して――。


 まぁとにかく、乙女ゲームに何の興味もなかった俺が夢中になるぐらいには面白かったという訳だ。いやぁ夏休み初日をいい気分で迎えられたぜ良かった良かった……じゃなくて。


 ゲーム機の電源を切って、脇においていた携帯に手を伸ばす。そう、俺がこのゲームを遊んだのは何も乙女ゲームに興味があったからじゃない。




 夏休みの間会えない彼女と、少しでもいいから話題が欲しかったからじゃないか。




 いや、でも初日だぞ?


 引かないか?


 えっ何徹夜で乙女ゲームやってんのキモっとか言われないか?




 ――いや。


 行くんだ明人、今日ここで。中学の頃からずっと好きで、せっかく同じ高校に通えたってのに進展がなくて。高二の夏休みまで来たってのに何もないのは、全部俺がヘタレだったせいじゃないか。そうだ行け、乙女ゲームで乙女心を学んだばかりの俺ならできるだろう……できるのか?


 俺は携帯に震える手を伸ばし、彼女に宛てて電話をかける。


 え、電話、いきなり? こういうのって簡単なメッセージとか送った方が良いんじゃないか? 徹夜で乙女ゲーやったくせにこんな選択肢を間違えるのか? いやでも彼女は毎年祖父母に会いに外国に行ってるし、夏休みだってずっと居る訳じゃないし。


 なんて考えている間に、呼び出し音がすぐに途切れる。聞こえてきた彼女のいつもの声に安堵しながら、小さく咳払いをしてから。




 彼女の名前を――何度も何度も繰り返した、大切な人の名前を――呼んだんだ。


 もう一度全部を、この瞬間から始めるために。






「あ、もしもしクリス?」

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乙女ゲーム世界のセーブ&ロード ああああ/茂樹 修 @_aaaa

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