第5話

「いいわ」

彼女は少ししてどこか遠くから帰ってきたみたいな

顔をして、ボクを見た。

「そのかわり、わたしからも条件を提示するわ」

「何だい」

「もしも他の男の指紋が採取されても気にせずに

無視すること。それが条件よ」

酷いとボクは思った。

それなら彼女一筋に

愛してきたボクの純情はどうなるんだと

(それは大袈裟か)思ったからだった。

「他の男の指紋が採取される事態も考えられる

わけなのかい」

「ないわ」

彼女は自信満々に断定するように言った。

「例えばの話よ。それは例えば父親の指紋かも

しれないし、パソコンを修理に来た電気屋の

それかもしれないし、つまりそういうことよ」

彼女は必死に言い訳をしている、としかボクには

聴こえなかった。

だが、ボクとしては彼女の条件を呑むしか

道はないわけだった。


















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