滋味

惟風

滋味

「子供なんて生むもんじゃないよ、やめときな」


 私が来月結婚するという話をすると、和子さんは大根を厚めに切りながらそう呟いた。

 彼女は私がヘルパーとしてサービスに入っているお婆ちゃんで、九十も近い年齢だけど矍鑠としていてチャキチャキしている。

 でも寄る年波には勝てなくって、一人で家事をするのがしんどくなってきたから手伝ってあげてほしい、ということで息子さんがヘルパーを頼んだのだ。

 今日は一緒に料理をしている。


「子供なんていたって、大きくなって離れて暮らしてしまった日にゃそれっきり。滅多に帰ってきやしない、なあんにもしてくれない」


「ヘルパーを頼んだのは息子さんじゃないですか。和子さんのことすごく気にかけていらっしゃいますよ」


「たまに顔を出したと思っても、ろくに話もせずに『じゃ、またな』よ。アンタの方がよっぽどアタシのお喋りに付き合ってくれるし、家事は行き届いてるし。今の時代、子供なんていたってアテになんないのよ」

 ボヤき続ける和子さんだけど、今作っている大根の煮物は息子さんの大好物で、明日は彼の誕生日だということを、私は知っている。

「アンタも試してみな」と教えてくれたその味は、とっても美味しかった。

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滋味 惟風 @ifuw

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