第12話

「変わったブレスレットだなあと思っていたが、数珠だったのか。まあ来年は、蓮子は都会の大学に行く予定だから、そうなるとこの家は無人になるな。あの人たちが戻って来ても分からない」

「私は和尚さんから、困ったときは相談に来るように、と言われているから、そのときはまた和尚さんに相談するつもりよ」

「ああ、それがいいだろう。俺に電話してくれてもいいが、遠いからな、すぐに対処できない。それにしても、蓮子はよく夜中の蓮田に入れるな。俺はこの歳になっても、夜の蓮田に入るのは御免こうむりたい」

 兄と妹、久しぶりに夜遅くまで語り合った。

 しかし翌日、郷里に未練の無い兄は墓参りなどをして、早々に都会に戻った。


 女学生には珍しく度胸のある蓮子だが、あの二人の存在が常に頭のどこかにあり、夢に出てくることも多い。

 たとえば、こんな夢を見た。──

 蓮子は学校にいて、級友から、「蓮子、あなた妊娠したの?」と聞かれる。蓮子は驚いてお腹を見る。たしかにスイカを丸のみしたように膨らんでいる。

 このところ毎晩、あの男が龍となって、蓮子の部屋の窓を叩く夢を見ているが、その延長でそんな夢を見たのだろう。

──聖母マリアは処女のまま懐胎したと言う。龍も霊的な存在である。蓮子は和尚から貰った数珠を、たった一度、寝ている間に外していたことがあった。今となってはもうどうすることもできないが、もしも本当に妊娠していたら、と懸念する。──だが、蓮子はいつもの暢気さで、そのときはそのときだ。ここは田園の中の一軒家。この家でこっそり産んで、蓮田の底に埋めればいい。誰も見ていない。それは蓮子がこれまでしてきたことなのだ。苦悩が訪れるたびに。

 蓮は喜んで、それを吸収してくれる。

                   了

 



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ロータス・ガール(白蓮少女) 有笛亭 @yuutekitei

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