第148話 敗者は嗤い、勝者もまた笑う


「真珠が時と共に劣化し、買い時と比べて売り時に二束三文にまで落ちぶれてしまうのは紛れもない事実ですわ。一般的な真珠の寿命は精々が二十年……それ故に、ダイヤやルビーとは異なり、生きた宝石とも称されます。そうですわね、クヌム様?」

「……え、ええ。確かに。仰る通りにございまする」


 声をひくつかせながら頷くクヌムの様子に、アヴァルは娘が彼のなにか痛い所を突いたという所までは辛うじて理解出来ていた。

 しかし肝心の、オーレリーがなにを見逃さなかったのかについては今ひとつ見つけ出せず、眉間の皺をいっそう深くする。


「なんだ、それがどうした?」

「これが重要なことなのですよ、お父様――この【女王の白真珠パトラ・ペアルズ】の銘の元となった女王、パトラについてはどれほど御存じでしょうか?」

「女王パトラについてだと? ……確か学生時代、同期が世界の美姫について騒いでいた。パトラとは、珍しく女の身で王となった、類稀なる容貌を持った異国の美女だと」

「ええ。そして、その美しきパトラ女王陛下の為政時期については?」

「為政時期? ……どうだったか。昔の人間だと言うことは分かるが、具体的にいつだったか……。他国の人間のことなど、どうでも良かろう。お前は何が言いたい、さっさと話すべきことを話せ」


 そうして急かすアヴァルを抑えるように、彼女は執務机の前方へと妖精のように躍り出た。

 心の内から漏れ出る焦りを覆い隠そうと、クヌムは商人としての笑顔を一層厚く被ろうとする。そうして不自然に硬直した彼の顔に正面から向き合って、彼女は求められた通りに己の知識をさらけ出した。


「それが、そうでもないのですわ。女王パトラとは、かつて人と魔族が覇を争った【人魔大戦デストラクト】の後に訪れた、各地に乱立した小王国群の一つを治めていたとされる女王になります。彼女の死によって乱立国家群に統一の兆しが生まれ、群雄割拠の時代に突入。我がユースティティアの初代国王となる、【英雄ブレイブス】を従えた祖王陛下もこの辺りの人物ですわね。本来ならばかの女王の政治手腕について小一時間ほど語らせていただきたいのですが……」

「長い」


 アヴァルが苛立たしそうに机を爪の先で叩いた。


「申し訳ありません。では、それらはここでは割愛させていただくとして。さてお父様、今のお話を総合すれば、一つ、不可思議な点が見えてきませんか?」

「なんだ? 真珠と女王の時代の話に、なんの因果関係がある?」

「……【人魔大戦デストラクト】が起きたのはおよそ八百年前ですわ。そして、真珠の寿命は二十年。本当に、おかしいとは思いませんか? 」

「――そういうことか」


 具体的な数字を示されて、ようやく彼もオーレリーの抱いていた違和感を察した。

 本来ならば彼の言う学校――王都に存在する英雄育成機関で勉強したはずの内容だが、市民を含めた世間一般の例に漏れず、彼女の父もまた興味のないことは記憶から消去する性質のようだ。

 肩を竦めたくなるのを場にそぐわないと抑えながら、オーレリーはアヴァルの悟った答えを待つ。


「寿命の約四十倍近くの時を経てもなお、その真珠どもは現存している。本来ならば二十年が寿命の真珠が、七百年もの間現存していると言うことが不思議なのだな?」

「ええ。そして、その奇跡こそが、このお話の肝なのですわ」


 彼女は【女王の白真珠パトラ・ペアルズ】をハンカチで包んだ状態で、アヴァルの前に移動させる。

 そしてもう一つ、恐らくは母か姉の持ち物であった普通の真珠も比較対象として隣に並べた。

 かつては淡い純白の輝きを抱いていたであろう首飾り型の真珠の加工品だが、今では残念なことに、艶を失って黄ばんでいる。


「真珠の劣化は、含有する不純物によるものなのです。一般の真珠に含まれる邪魔物はほんの僅かなものですが、たったそれだけのために数年でこの乳白色の輝きが失われてしまいます。――対して、この【女王の白真珠パトラ・ペアルズ】はどうでしょう?」


 確かにこの巨大な白真珠は、商人クヌムの言う通りにくすんでいるように見える。

 しかし、同時に並べられた真珠と比べれば、まだまだ真珠としての価値は鈍っていない。

 その処女雪の如き白さは表面の曇りの隙間からも垣間見え、宝石として認められなくもないのではないか――と、アヴァルは目を細めながら考えた。


「この【女王の白真珠パトラ・ペアルズ】は、不純物がほぼ存在しない奇跡の真珠と言われております。劣化が約束されているにも関わらず、時間が経とうと色褪せない、美の象徴たる魔性の宝石。だからこそ、女王も薬としてその内腑に納めるのではなく、永遠の美を体現した憧れの対象として傍に置くことを決めたのですわ。……とはいえ、さすがに数百年も経てば完全に劣化しないわけではありませんが」


 これ以上余計な光を浴びせないように【女王の白真珠パトラ・ペアルズ】の入っていた箱のふたを閉じて、オーレリーはクヌムの方へと振り返る。

 柔らかな娘としての表情から一転して、感情を思考から切り離した裁判官のように冷徹な瞳で、ここまでの話を隠匿していた彼を射抜く。


「それでも、お父様が購入されたのは恐らくここ二十年以内。たかがその程度で、この真珠の価値が大きく変化することなどありません。ええ、ここまで言えばお分かりになられましたか? この宝石に秘められた本物の価値は、貴方の仰るような一般的な常識よりはほど遠いのだと」


 オーレリーは一切感情を返事させない、平坦にして冷淡な声で審判を下す。

 その前に立たされた自分が今まさに窮地にあることを察し、クヌムは顔を青褪めさせる。


「そして、数ある宝の中から真っ先にそれを選んだ貴方が、まさかこの話を知らなかったということがありましょうか? ――無知は罪なり。されど、無知が既知へと転じた時、無知を利用し嘲笑っていた者はより大きな罪に問われるであろう。……さあ、弁解があるというのなら、是非とも聞かせていただけませんか。クヌム様?」


 クヌムが、なんとかして汗を隠しきれていない口を動かして反論を述べようとする。

 しかしそれよりも先に、アヴァルが怒りを剥き出しにする方が早かった。

 ――ばごんっ!


「もう良い。貴様のその顔を見ているだけで腹が立つ。財産は全て没収の上、街からの永久追放だ」


 殴りつけられた机は凹むどころか、めきょりと陥没してしまった。

 代替品とは言えそれなりに高価であったはずだが、それがもはや使い物にならなくなってしまったことにも構うことなく、アヴァルがふつふつと爆発寸前の声で呟く。


「貴様が見せしめとなれば、他の屑共もこちらを軽んじることはなかろう。これまでの奴らへの処遇は後に判ずるとして、まずはお前からだ。二度とその商会の名を名乗れるとは思うな――ッ! オーレリー! 兵を呼べ、この愚か者を地下牢へ連れて行かせろ!」

「お、お待ちください!」


 下手をうてば、このまま日の目を再び見ることすら能わなくなる。

 命の危機を感じたクヌムが、必死に抗弁しようと声を上げた。


「ヴェルジネア卿。貴方がたは随分と現金を集めることを急いでおられるご様子、本当に私にお売りにならなくてもよろしいのでしょうか?」

「この期に及んでなにを申すかと思えばそれか!? 貴様の如き者に売り渡す理由などどこにもないわ! オーレリーよ、疾く兵に剣を持たせて呼んで来い! この愚か者の首を即刻切り落とし、門の前に晒せ!」

「……いえ、それは……」

「なにを迷う!」


 判断の早すぎるアヴァルに、オーレリーはついていくことが出来なかった。

 商売での騙し騙されは、彼女の判断基準からすればそれほど重要な罪ではなかったからだ。

 むしろ、ここからが腰を落ち着けて駆け引きを行う重要な場面だと思っていただけに、三段飛ばしどころか階段そのものを破壊するかのようなアヴァルの突飛な暴論に硬直してしまう。

 そこに見えた二人の食い違い、今こそが自身の生きる道だと目を光らせ、クヌムが未だ自身の趨勢が完全に決着していない内に言葉を差し込んだ。


「他の方々とてどうせ大金貨十枚以上ではお買いにはなられませぬ、ヴェルジネア卿」

「――やかましい! ……いや、なにを言い出す貴様っ」

「商売の原則は、安く仕入れ高く売ることにありまする。故なれば、元の価格そのままに手に入れようとする商人など貴方様の集めた中にはおりませぬ。そのような者がいたとしても、早々に身の破滅を招いてしまいますのでな。この街では、生き残れませぬて」


 聞き捨てならないクヌムの言葉に、アヴァルは憤りを露わにしながらも耳を傾けざるを得なかった。

 それを良いことに、彼は話の流れを今度は自分が掴むべく、目の前のアヴァルに頭を下げた。

 ふとすれば、自分たちでは逆らうことの出来ない強大な魔法が飛んでくるかもしれない。その恐怖をズボンの膝を握ることで堪えながら、怒りは恐ろしいが逆に思考が単調になる、むしろここは付け入る隙なのだと己を奮い立たせながら、クヌムは素直に謝罪した。


「確かに、これは私どもの勉強不足でございました。栄えあるヴェルジネア卿の御心を傷つけてしまい、誠に申し訳ございませんでした。――その謝罪の証として私めどもに、その宝石を大金貨九枚で買い取らせていただけないでしょうか」

「よくも、都合のいいことをいけしゃあしゃあとっ……オーレリー! なにをしているっ!」


 しかし、彼女は先ほどまでの雄弁さとは裏腹に、固い顔で沈黙を保っている。


「ええ、お嬢様はお分かりになられたようで。貴女様の宝石のように美しき審美眼も重要ですが、この場は鑑定の場であると共に商売の場でもありまする。……もしここで私めを罰すれば、他の商人も及び腰となって、積極的な買いに動くことは無くなるでしょう。そうなれば、どれほどかは知りませんが、早急に辿り着きたい目標額にはたどり着けないのではありませぬか?」


 クヌムは、ちらりと宝とは逆の方向に積まれた金貨の山を見やる。

 既に大金貨にして百枚に少し足らない程度が集まっているが、それでもアヴァルはまだまだ焦っている様子だ。

 彼はまだまだ金を回収しなければならない――そのような中で商人を下手に軽んじるようなことがあっては、計画にも支障をきたすだろう。

 そう、相手の危機感を煽るように訴えかけるクヌムに、アヴァルは額に血管の筋を複数浮かび上がらせる。

 どうやらこちらの口車にうまく乗ってくれたようだと少しばかり安堵しながら、彼は再び狸のように見える笑みを浮かべ直した。


「正当な価値がそこにあるとして、そのまま売り買いされることなど有り得ないのでございます、アヴァル・ヴェルジネア様。……それで、どうされますか? このまま私めを殺して他の商人の不興を買うか、原価に限りなく近い値段でお売りになり、寛大な心を見せていただけるか」


 オーレリーの方をふと見れば、どこか口惜し気な顔を浮かべている。

 知識こそ深けれど、まだまだ交渉人としては青い――未熟な果実を内心でせせら笑いながら、クヌムがアヴァルに迫る。


「……くっ。しかし、まだ足りん! 大金貨九枚と、小金貨九百九十九枚だ!」


 ビタ銭一枚としてまからないという強い意志を見せるアヴァル。

 だがその言葉の勢いはすなわち、このまま押し切ってしまいたいという焦りによるものだとクヌムは見通していた。つまり、彼はクヌムとの売買交渉の机に座ったことを意味する。

 もはや首の皮は繋がったようなものだと確信しながら、彼は首を振った。


「まさか小金貨一枚まで拘りなさるとは。しかし、それではあまりにもこちらに儲けが無さすぎます。もう少しお慈悲をくださいませんか……大金貨九枚と、小金貨三百枚で」

「やかましい、本来ならば貴様は打ち首なのだぞ! それを見逃してやろうというのにまだ交渉の余地があるつもりか!?」

「ここで打ち首にしては、他の商人もなにかと渋るでしょうな。大義を前にして、些事に足元をすくわれたいのでしたらどうぞそのようになされてはいかがか」


 皮肉気なクヌムに大きく舌打ちしながら、アヴァルはそれでも交渉を止めようとはしなかった。


「くっ、ならば小金貨は九百枚だ!」

「いえ、四百枚で」

「――八百枚!」

「五百枚」

「――ええいっ! まどろっこしい……七百枚だ! これ以上は絶対に譲らんぞ!」


 アヴァルに自身を殺すつもりがないと理解したクヌムが中々折れないのを見て、彼はついに、その言葉と共に右手を前に突き出した。

 その手の中に、アヴァルの魔力の光が宿る。クヌムには魔法の素養がないために見ることは出来ないが、その威圧感に何らかの予兆を読み取ったのか、ここまでかと小さく縦に頷いた。


「分かりました。それではユースティティア大金貨九枚と、小金貨七百枚。それにて買い取らせていただきます」

「――ふんっ!」


 手のひらをゴマを擦るようにこすり合わせて満足げな顔を浮かべたクヌムに、アヴァルは鼻息を荒くしながらも【女王の白真珠パトラ・ペアルズ】の入った箱を投げ渡した。


「おおっと……落ち着いてくださいよ、ヴェルジネア卿。まだ取引は成立していないのですから、これが万が一にでも割れていたりすれば、お金は渡されないのですよ?」

「やかましい! さっさと証文を用意しろ!」

「はい、直ちに作らせていただきますね」


 クヌムは懐から取り出した紙にすらすらと売買契約の文句を書き連ねていく。

 その滑らかな手つきにひくひくと鼻の頭を動かしながら、アヴァルは彼の一挙一動に腹立たしそうに歯を食いしばっていて。


「それでは、こちらに署名をお願いいたします」

「ちっ。……オーレリー、インクを持ってこい!」


 当初の予定よりは買い取り価格は上がったとはいえ、今の話を聞く限り、結果的に損をしていることは否定できない。

 何も知らなかった時よりも、事実を知ってしまった時の方が、目の前の狸顔に一杯食わされたという思いが強くて、アヴァルは羽根ペンをへし折らんばかりの勢いで二枚の紙の署名欄に自分の名前を書き入れた。

 最後に名前の横に家紋をぐりぐりと紙を破ってしまいそうな力で押印し、完成したうちの一枚をクヌムの顔に叩きつけた。


「うっ!? ……いえ、結構。それでは、これで失礼させていただきます。もう此度の手持ちは尽きてしまいましたのでね。それでは、こちらが代金となります」


 クヌムは勝者の余裕からか、証書を投げつけられたことを意にも介さない様子で、懐から出した大金貨を机の上に一枚ずつ並べてみせた。


「小金貨の方は後程部下に届けさせましょう。なにせ七百枚ともなれば、私一人では持ち運べませんので」

「ふん、もし一枚でも足りていなければ、その時点で貴様らの命はないと思え!」

「おお、恐ろしい。しかしこの街は私めにとってはまだまだ魅力的な市場なので、きちんと支払わせていただきましょう」


 途中には予想外の出来事で顔を真っ青に染めたとはいえ、最後にはほくほく顔でクヌムは去っていった。

 最後の扉が閉まる瞬間に、いけすかない狸面がにやりと笑ったのが見えて、アヴァルは怒りのままに娘を見た。

 そして、彼は驚くことになる。


「くそっ、結局損をさせられたというのかっ!? ……なんだ? なぜ笑っているオーレリー!?」


 先ほどまでに自身と同様に顔を無力さに顰めていたオーレリー。

 しかし彼女はクヌムの顔が見えなくなるなり、一転して花のような笑顔を浮かべていた。


「くっ、ふふふっ、うふふふっ……。だって、おかしくって仕方がないんですもの。これほどまでにおかしなことがあると思いますか、お父様?」

「おかしな、だと!? そんなに奴に得をさせたことが面白おかしいか!?」


 噴火寸前の火山の如き形相を見せるアヴァルだが、それとはどこまでも対照的に、オーレリーは口の前にそっと人差し指を添える。


「静かになさいませ。このままでは部屋の外で待っている他の方々にも丸聞こえですわ。……良いですか、なるべく驚くことなく聞いてくださいまし。損をしたのは私たちではなく、あの商人の方なのですよ」

「なんっ、……だと……?」


 その、先ほどまでの様子とは異なる言葉にアヴァルは愕然と顎を落とした。

 彼女の余裕ある笑みは決して、求められていた成果を出せなかったことを誤魔化そうとする類のものではない。

 クヌムのものよりも優雅な勝利者の微笑を、アヴァルは目の当たりにしていた。


「あの宝の本来の価値は、商人の方の仰る通り大金貨五枚なのです。お爺様の持っていた競売目録にもそのように記載されていましたから。故に、結果的に私たちは大金貨四枚とおまけに小金貨七百枚の儲けを得られることが出来たのです。喜んでくださいな」

「は? お前はなにを言って……大金貨十枚分の価値があるというのも、それ以外も全て、私に嘘をついていたのか……?」

「いいえ。その点以外については全て真実ですわ。ですが価格の点のみについては、あえて先に盛らせていただきました」


 彼女はクヌムとアヴァルの交わした契約書を、既に積み上げられていた山とは別の所に置く。


「今回お集まりいただいた商人の方々との売買履歴を軽く眺めさせていただいたところ、おおよそ本来の価格の半額が目安となっていることに気が付いたのです。だからあらかじめ最初から倍の金額を設定して、相手の基準を誤魔化させていただきました。……ふふっ、あの方も、このような小娘を出し抜けてさぞ気持ちよかったでしょうね。その内実も知らずに」

「……っ」


 その時オーレリーの浮かべた顔に、アヴァルは背筋にぞくりと凍るような錯覚を抱いた。

 数日前にプリミスとの前交渉で触った【雪銀剣アル・グレイシア】よりも遥かに冷たい、命の輝きすらも奪ってしまうような、降り止むことの無い吹雪のような微笑。

 民のためにと馬鹿馬鹿しく叫ぶ、愚かしくも可愛らしい感情豊かな年頃の娘然とした普段とは異なるオーレリーの見せた様子に、彼は思わずたじろいでしまった。

 娘から逃げるようにぎゅっと背中を椅子に押し付け、彼は乾きそうな喉で彼女の名を呟く。


「オーレリー……」

「はい。それで、どうでしょうかお父様。私はお眼鏡に叶いましたか?」


 すぐさま元通りの笑みを浮かべた彼女が、アヴァルへ向けて笑いかける。

 しかし、その笑顔の下では、先ほどのクヌムのように彼に対してなにを考えているかは分からなくて。

 それでもたった今見せた有用性は、手放すには惜しいように考えられて、彼は結局娘がここにいることを許容する選択肢を取った。


「……許す。今後もうまく金をもぎ取ってみせろ」

「ありがとうございます。とは言え相手方も百戦錬磨の方々ですし、そう何度もうまく行くとは思いませんが……微力を尽くして、お父様のために頑張らせていただきますわ」


 そうしてアヴァルの後ろと言う元通りの位置に収まった娘の顔を、彼は直視することが出来ない。

 ――その後ろで、オーレリーがどのような表情を見せているか。

 自分の娘のことであるのに何も分からない、その事が何故か恐ろしく感じられつつも、彼は迷いを振り払うように次の商人に入室を命じるのだった。

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