last order. アメリカンコーヒーとアイスカフェオレ
外は夏なのか、昼間から虫がうるさく鳴いている。
喫茶「ゆずみち」を覗いてみると、一人の青年がカウンターでうなだれていた。
「マスター。暑いよ~」
「勇者さん、マスターに話しても暑さは変わらないですよ~。はい、注文のアイスカフェオレ」
「柚乃ちゃんありがと!これだよこれ!!」
勇者は柚乃から受け取ったアイスカフェオレを一気に飲み干す。
その様子を横で見ていたイロナが勇者に話しかける。
「勇者さん、ずっと思っていたんですけど、そんな冷たい物一気に飲んでおなか壊しませんか?」
「イロナちゃん……アイスカフェオレはいくら飲んでもお腹は壊さない飲み物なんだよ」
「へぇーそうなんですか」
そこにマスターが現れる。
「勇者さん、嘘を教えるのは感心できないなぁ」
「え!嘘だったんですか?」
「イロナちゃんごめんよ……俺以外が飲むと、おなか壊しやすい飲み物かも。マスター、お代わり頂戴」
「あいよ」
マスターはお代わりのアイスカフェオレを作りに行く。
勇者は暇そうに空いたグラスのアイスをガシガシと噛んで食べる。
「それにしても暇だなぁ……」
「そんなこと言っていたら、また何か面倒なことに巻き込まれますよ~」
「そうだな。もういろんなことに巻き込まれるのはこりごりかも」
勇者はハァとため息をついて、さらにアイスをかじり始める。
すると、喫茶店の扉が勢いよく開いた
「暑いわ!!」
そこには魔王が立っていた。
そして魔王はすたすたと勇者の横の席に座る。
「おひさ~」
慣れた感じで勇者は話しかける。
魔王も慣れた感じで返事をする。
「久しぶりね。直接会うのは……そんなことよりマスター、私にいつもの」
「ホットで?」
「もちろん」
「了解。ちょいとお待ちを」
マスターは魔王のホットコーヒーも勇者のアイスカフェオレと共に作り始める。
魔王と勇者が慣れた感じで話しているのを見て、柚乃とイロナが珍しい顔で見て話しかける。
「勇者さんと魔王さんって、仲良かったんですね~。意外です」
「勇者さんと魔王さんって知り合いだったんだ……知らなかった」
その二人のコメントに魔王がつまらなさそうな顔で答える。
「こいつとは……ちょっとした腐れ縁よ」
その発言に勇者がかみつく。
「何が腐れ縁だ!!あんなに熱く燃え盛るような夜を二人で一緒に過ごしたっていうのに……」
「っ!!勇者さんと魔王さん……そんな関係だったんですか~」
勇者の発言に柚乃がびっくりする。
イロナは何を言っているのかわからないようだ。
魔王は呆れて声も出さずに勇者の方を見て……呟くように話す。
「初めて会った日のように……お前を燃やしてやろうか?」
「ごめんなさい。ふざけ過ぎました」
勇者はすぐに謝る。
「なーんだ……つまらないの~」
「何がつまらないんですか?意味が分からないのですが……」
「イロナちゃんはもう少し大人になってからしろうね~」
「???」
勇者の発言について柚乃とイロナは二人で仲良く話している。
その様子を横目に、勇者は魔王に話す。
ただ、二人ともカウンター奥のマスターの方を見て、互いの顔は見ていない。
「結局選挙はお前が勝ったらしいな。おめでとう」
「めでたいなんて思ってないでしょ」
「いや、思っているよ。人間と魔族が戦争しなくて済んだんだし」
「まぁね」
ここで一瞬間が開いた。
勇者がゆっくりと話しを続ける。
「これで、俺の夢も一歩近づいた」
「あれ、なんだったっけ?」
「はぁ……もういいよ」
勇者はため息をつく。
でも、その顔は少しにやけているようだ。
「この喫茶を教えたのが俺っていうのは忘れてないだろな?」
「忘れてないわよ」
「ならいいけど」
魔王も勇者との話が楽しいのか、顔が少しにやけている。
ただ二人とも顔を合わせず、ずっとマスターの作る姿を見続けている。
「この喫茶に出会たことは感謝してるわよ。特にアメリカンコーヒーに出会えたことは」
「アイスカフェオレを飲まないなんて……本当に信じられんな」
「好き嫌いの問題でしょ。私は冷たいものはそこまで好きじゃないのよ」
「だろうな。初めて俺に会った時は燃やしてきたし」
「そんなこともあったわね」
二人とも声をあげて笑う。
そしてマスターが飲み物を持って二人の元に来る。
「はい、魔王さんはアメリカンコーヒー、勇者さんはアイスカフェオレね」
マスターは二人の前に飲み物を置く。
魔王はソーサーを置いたままカップを持ち上げ、
勇者はコップごと持ち上げる。
そして二人ともお互いを見てから言った。
「乾杯!!」
ここは、勇者も魔王も仲良くできる喫茶「ゆずみち」
これまでのご来店、ありがとうございました。
異世界喫茶「ゆずみち」~勇者と魔王が異世界転生を愚痴っています~ 美堂 蓮 @mido-ren
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