ダンジョン出現!?えっ、ヒロイン最強!

@chocota0987

ダンジョン出現

「ねえねえ、あそこでクレープ買わない?」


 唯一の女友達である鬼笠凛さんが僕に笑顔で話しかける。

 彼女の茶髪でショートカットの髪先にはパーマがかかっている。

 顔立ちも整っている。

 さらに微笑みを浮かべると八重歯がかわいく主張してくる。

 反則だ。

 思わずクレープをおごってあげたくなるがぐっとこらえる。

 そんなにお金に余裕はない。


「うん、そろそろおやつの時間だし行ってみようか。」

「やった!!」


 無邪気に喜んでいる姿はとても愛おしい。

 いつまでもこの時間が続けばいいのに。

  

 ダメだ。

 彼女に僕は不釣り合いだ。

 僕には何の取り柄もない。

 友達であること自体不思議である。


 クレープのキッチンカーへと向かう。


「東京タワーからの景色きれいだったね。また行こうね。」

「そうだな~。今度はスカイツリーとか渋谷とかに行きたいな。」

「いいね!渋谷でウインドーショッピングとか。」



  

 彼女とはおよそ1年前、僕が大学1年生の時に出会った。


 昨年の1月、世界を揺るがす大事件が起こった。

 ダンジョンの出現だ。

 東京にも3個のダンジョンが同時に現れた。

 池袋と築地、そして浅草だ。


 ダンジョンができる急性期には魔物がダンジョンからあふれ出してくる。

 幸い、東京に出現した魔物は戦車は必要なく、小銃などの銃火器で倒すことができた。

 だが、魔物の何十万という数の暴力には自衛隊も対応できなかった。

 都内だけで死者・行方不明者は5万人を超えたと言われている。


 被害は都内全域に及び、自衛隊と消防だけで瓦礫に埋もれている生存者をるするのは困難だった。

 そこでボランティアが募られた。


 僕は普段はボランティアなど興味がない。

 だけど、この時だけは妙な胸騒ぎがした。

 居ても立っても居られなくなり、ボランティアに参加した。


 その時、瓦礫の下から彼女を見つけた。

 ダンジョン出現から4日後、彼女が生きていたのは奇跡だった。

 今日のような快活さはなく、ひどく衰弱していた。


 1週間ほど経った時、仮設病院から、彼女が助けてくれた人に会いたいと言っている、という連絡が来た。

 会わせてください、僕は即答した。


 彼女に会えば、大げさかもしれないが、自分が生きている意味が分かりそうな気がした。

 その時僕は失敗続きで失意のどん底にいた。

  

 お見舞いにガーベラの花を持って病室に入るも、挨拶を交わしただけで会話は続かない。

 彼女が可愛すぎて、緊張したのも理由の1つかもしれない。

 その日の彼女の髪は今よりだいぶ長かった。


 沈黙を破って彼女が発した言葉は今でも鮮明に思い出される。


「ありがとう。私、この世界、あなたにもらった命で精一杯生きる。」

  

 ボランティアをしてよかった。

 これからも人を助けることをしていきたい、そう思えた瞬間だった。


 その後、彼女と夕方まで話しこんだ。

 どうやら彼女は事件の前の記憶がないようだった。

 家族、親戚は見つからず、彼女を戸籍上で見つけることも不可能だったらしい。


 幸い、ダンジョンなんとか措置法によって、彼女は戸籍を手に入れ、給付金も受け取れるよう  になった。

 なぜ鬼笠という名字にしたのかは教えてくれなかった。


 彼女は僕の家の近くに住み始めた。

 最初のほうは生活のいろはを教えた。

 最近は半月に一度くらいの頻度で一緒にお出かけしている。




 という風にして今に至るわけだ。

 今では友達、というより親友である。彼女のフレンドリーさのおかげだ。


  

 寒くてあまり人が出歩いていないからだろうか、クレープのキッチンカーには人が並んでいない。

  

 チョコレートは……。

 あった。

 チョコには目がないんです。

 僕の家にあるお菓子には全て何かしらの形でチョコが入っている。


「デラックスストロベリー1個。」

「僕はバナナアンドチョコでお願いします。」

「分かりました。890円です。……。確かにいただきました。少々お待ちください。」


 ちなみに鬼笠さんは大の赤いもの好きだ。

 イチゴにトマトにケチャップに……。

 ケチャップとトマトは同じか。

 とにかく、赤いものをよく食べる。

  

「お待たせしました~。こちらデラックスストロベリーとバナナアンドチョコです。」

「ありがとうございます。」


 デラックスストロベリーでかっ!

 イチゴ何個入っているんだろうか?


「公園のベンチにでも座って食べようか。」

「確かに、立って食べるとこぼしそう。」


 公園の緑地と東京タワーを眺めることのできるベンチに腰掛ける。


「おいしそう。いただきま~す。」


 彼女は本当に美味しそうにクレープを頬張る。


「ん~。最高。」


 見とれていないで僕もクレープを食べることにする。


「いただきます。……。すごいおいしい。」

「よね。至福のひと時。天国みたい。」

「うん、ほんとそう思う。」


このクレープの美味しさも彼女との時間も天国のようだ。


お互いにあーん、などをするはずもなく、それぞれのペースで食べ終わる。


「おいしかった~。」

「本当においしかった。ごちそうさまでした。」

「でした。」


彼女は突然姿勢を正し、畏まった様子になる。


「……。それで、颯太くん。あの。……!」


ガタガタガタ


突然大きな地鳴りの音と共に地面が揺れる。地震ではなさそうだ。

まさか……。

嫌な予感は的中する。


めきめきと目の前に広がる芝生の中央付近に縦10m×横10m程の岩が出現する。

テレビで何度も見たことがある。ダンジョンの入り口だ。

嘘だ。

僕達はここで死ぬのか?




~Side鬼笠凛~


嘘だ。

芝生の真ん中には大きな岩と鉄の扉。

ダンジョンが発生したようだ。

ということは今は急性期。

ダンジョンから大量の魔物が出てくる。


ギギギーー


鉄のドアが徐々に開いていく。

ダンジョンから最初に出てきたのは赤色のドラゴン。

その後ろには大量の魔物の影が見える。


ゔあーー~~


ドラゴンが炎を吐き、翼を広げながら咆哮を上げる。

恐らく地球に現れた魔物の中で過去最高クラスの強さだろう。


ふと颯太君のほうを見ると、ベンチに倒れている。

私は思わず彼に駆け寄る。


「大丈夫、颯太くん?」

「大丈夫だよ、ぎりぎり意識は失ってない。それより凛さんは?」

「私は元気だよ。」


初めて私のことを名前で呼んでくれた。

だけど、その余韻に浸る暇はない。

普通の人間ならばドラゴンの咆哮だけで意識を失いかける。

このままだと颯太は確実に死ぬ。


颯太を守るには。

手段は1つしかないのは分かっている。

でも……。

またあの世界に。

覚悟を決めろ私。

覚悟!

助けて貰ったんだ。

次は私が颯太を助ける番だ。


能力を解放することにする。

歯を元に戻す。


「ねえ、颯太くん。実は私、ごめんなさい。私、実は吸血鬼なの。」

「……。」


颯太は驚きと恐怖からだろうか、言葉を発することが出来ずにいる。


「私のことを嫌いになってもいい。だけど、今回は私が颯太を守る番。1度だけ力を貸して。」


颯太は何も言わない。やっぱり私の事を恐れているのだろうか。


颯太の首に2本の犬歯を突き刺す。

実はね、私、八重歯じゃないの。

吸血鬼は犬歯が突き出ている。

その歯を隠したらたまたま八重歯になっただけ。

颯太くん、騙してごめんなさい。

  

1年ぶりの血の味。

本来なら凄く美味しいはずだ。

でも、今吸っている血は苦く感じる。

颯太君には嫌われてしまったし、もう彼に会うことも出来ない。

悲しさと切なさで胸が押しつぶされそうだ。

押しつぶされる程大きくはないか。


「ごちそうさまでした。」


彼の血を吸い終わる。

ドラゴンのほうを向く。

ドラゴンも私を見つめる。

私から強者の気配を感じ取ったのかもしれない。


「り、ん……。」


後ろから颯太君の声が聞こえる。

彼は今どんな心情を抱いているのだろうか。

私は未練を断ち切り、ドラゴンへと意識を向ける。


亜空間(4次元のポケットのようなもの)からゆっくりと長剣を取り出す。

柄は金色、刃は銀色に輝いている。


「転移。」


ドラゴンの首元へと転移する。

ドラゴンは反応することすら叶わない。


一閃


ドラゴンの首は胴体から離れ、地面に落ちる。

1拍遅れてドラゴンの胴体が地面に叩きつけられ、巨大な音を響かせる。

ドラゴンは倒した。


「転移。」

私は先程のベンチのそばへ戻る。

ドラゴンが倒されたと分かると、大量の魔物が一斉にダンジョンの扉から出てくる。


私は左手を高く上げる。


「短剣の舞。」


左手を素早く振り下ろす。

全ての魔物は揃って動きを止める。

心臓を1突き。

どの魔物も心臓を真っ赤な短剣で貫かれている。


広範囲魔法、短剣の舞。

魔物12万5114体を殲滅した。


これで私の役目は終わった。

体がだんだんと薄く、透明にになっていくのがわかる。

もうこの世界にはいられないようだ。


颯太君のほうを顧みる。

驚いて思考が整理出来ていない、というような表情だ。


「黙っててごめんなさい。私は吸血鬼。私の事、嫌いになってしまったかな。でも、颯太くんを守れてよかった。最後に1つだけ、ずっと伝えたかったことがあるの。実は私、颯太くんのことが……、好き。今までありがとう。」


「そんな……。消えちゃだめだ。そんなことで俺は凛のことを嫌いにならない。俺は、俺も実は。」


私のこと嫌いになってないんだ。

嬉しい。

もっと颯太と一緒に過ごしたかった。

私は一筋の涙を流す。

しょっぱい。

最後、なんて言おうとしたのかな。


地球から消えた私。

今、私の目には見渡す限り青々とした草原が広がっている。

上空から真っ暗なドラゴン、いや、龍が降りてくる。

体長15mといったところだろうか。

先程の赤いドラゴンより一回り大きい。


「黒龍様、私は……。」




1年前、私は苦しんでいた。

最強になってしまったからだ。


幼少期の私は、少しでも強くなって周りの人々に認められたかった。

毎日鍛錬を一生懸命頑張った結果、戦いで私に勝てる人はいなくなった。

みんな私を恐れ、私から避けるようになった。

親しくしていた友達までも私から離れていった。

強者故の孤独。


そんな時に黒龍に出会った。

彼は私の苦悩を真剣に聞いてくれた。

そしてある提案をした。

他の世界に転移しないか、と。

私は喜び、転移をお願いした。

但し、転移先で私の能力を使った場合は強制的に元の世界に帰還させるという条件が付いていた。


他の世界、地球に転移した日は運悪くダンジョン事件が起こった日だった。

私は瓦礫の下に転移した。

だが、決して能力は使わなかった。

辛い日々が続いた。


だけど、何日か経った時、颯太君が私を見つけてくれた。

嬉しかった。

そして彼は優しかった。

地球の常識を知らない私に彼は色々なことを手取り足取り教えてくれた。

私はだんだんと彼のことが好きになっていった。

彼と過ごす私の日々はとても色彩に満ちていた。


幸せな日々は突然と終わりを迎えた。

ついさっきのダンジョンの出現だ。

本当は地球にいたかった。

元の世界に戻ってきたくなかった。

元の世界に待っているのは孤独だけ。


でも、私は自身の能力を解放し、魔物を倒した。

彼を守りたかった。




黒龍は今から私を元の世界に送り返すのだろう。


「そんな暗い顔しなくともよい。」


そんなこと言われても。この感情は抑えようがない。


「……はい。」

「何で能力を使ってはいけないと言ったか分かるか?」

「……、分かりません。」

「お前が能力を使って悪いことをする可能性もあったからだ。」

「……はい。」

「でもな、今日のお前の行動を見て、率直に言って、感動した。自らの幸せを犠牲にして他人を救った行為。お前は悪事に能力を使うことはないだろう。これからは今の世界でも能力を使って貰って構わない。大切な人を守る為に。そんな顔をしてたら駄目だ。彼を笑顔で出迎えるように。」

  

さっぱり何を言っているか分からない。黒龍は自分の頭の中で勝手に話を進めがちである。


「いいな、転移で地球に戻すぞ。」

「あの、どういうこ……。」


言い切る前に目の前の風景が切り替わる。

転移した?

家の中?

それにしても黒龍はせっかちすぎる。




~Side颯太~


凛は僕を守る為に……。

絶望が頭を埋めつくしている。


いつの間にか家の前に立っている。

凛が消えた後、どうやって家の前まで帰ってきたのだろうか、あまり記憶が定かでは無い。

何も考えることは出来ない。

喪失感が身体中を支配している。


家のドアを開ける。

鍵が掛かっていない。

掛け忘れたのだろうか。

取り敢えず中に入る。


「颯太!!」


人間が抱きついてくる。

仄かな香りが鼻腔をくすぐる。


「凛!!」


凛だ。

奇跡が起こった。


今言わないとまた彼女はどこか遠い所へ行ってしまいそうだ。


「凛、こんなところで今言うことではないけど、」


彼女は僕の胸から顔を離す。

不思議そうに僕のことを見ている。


「好きです。付き合ってください。」

「私、吸血鬼だよ。また血、吸っちゃうかもしれない。」

「些細なことだよ。」


彼女は満面の笑みを浮かべる。


「ありがとう、颯太。これからもよろしく。」

「こちらこそよろしく。」


真っ赤な夕日が僕達を照らしている。

まるで祝福してくれているかのようだ。








処女作でした。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

評価や感想をお寄せ頂けるとありがたいです。

1月末に約3万字の短編を投稿する予定なのでそちらもご覧頂けたら嬉しいです。

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