第76話 上杉さんの婚約指輪をまずは見に行ったよ
さて、今日は土曜日で、上杉さんの婚約指輪とウエディングドレスを見に行く日だ。
ちなみにこの頃の大学はまだ土曜日の午前に普通に授業があるので、買い物はそれが終わったあとだけど、高校までと違い必修でなければ講義を受けないことは可能なので10時くらいには出かけられると思う。
で、一限目の講義が終わって一息ついたら上杉さんと合流だ。
今日は北条さんたちはテニパの練習に参加したあと、上杉さんの後任になるかもしれない新しい運転手の人にリムジンで迎えに来てもらうようだ。
まあ、運転手要員が複数いたほうが、こう言うときには助かるよな。
そして上杉さんが乗り付けてきたのは日三マイフェアレディZの300ZX Z31型で、気合の入ったおめかしをしてサングラスを掛けた上杉さんはすっごくカッコいいおねえさんに見えるな。
車のデザインも俺はかっこいいと思うし、こういう点では日三は決して悪くはないと思うんだ。
「さて、またせたな」
「いえ、待ってませんので大丈夫です。
では、まずは婚約指輪を見に行きましょうか。
宝石なら銀座か御徒町がいいと思うけど上杉さんとしてはどっちがいいかな?」
もともと御徒町は神社や仏閣でつかう金具の加工技術を持った人たちが多く集まる職人の街かつ問屋街で、その加工技術を宝飾品にも活かしたことから、御徒町には宝石の問屋が多い。
問屋なので小売の分の人件費や土地代・家賃がかからないだけだいぶ安いが、問屋なので日曜・祝日は休みで土曜日も午前中しかやっていない場所も多いが見ておく価値はあると思う。
「ならばまずは御徒町に行くとしようか」
上杉さんがそう言うので俺はうなずく。
「了解。
御徒町は宝石の卸問屋がいっぱいあるから、安めでいい宝石が手に入る可能性が高いからね。
まあ、問屋だから開いてない場所も多そうだけど」
「そこで開いている店に気に入るものがなければ、銀座に行けばいいだろう」
というわけで俺たちは御徒町へ車で向かう。
婚約指輪にダイヤモンドを贈る習慣が定着したのはわりと最近で1970年代に、ダイヤモンド販売世界最大手のアメリカデビアース社が”婚約指輪は給料3か月分”をキャッチコピーに掲げた広告を展開したことで、そのイメージは瞬く間に浸透し、ダイヤモンドリングはエンゲージリングの定番になった。
「婚約指輪は給料3か月分って言われてるけどそうすると俺はいくらのダイヤを送ればいいんだろう」
俺がそういうと上杉さんは呆れたように言った。
「あほう、せいぜい、100万くらいにしておけ。
だいたいお前の婚約者には全員平等じゃ無いといけないんだろうが」
「確かに、1000万円のダイヤを何個も買うのはちょっとかなぁというきもしますしね」
「そんな高いものをおちおち身に着けられるか」
その前はルビーやサファイヤ、エメラルド、翡翠やラピスラズリなどの色石のほうがメジャーで岩戸景気の昭和33年(1958年)から昭和36年(1961年)あたりはそういった宝石はかなり売れたらしい。
ダイヤモンドは工業用、アクセサリークオリティ、ジュエリークオリティ、そして資産用レベルの「ジェムクオリティ」に分かれるが、バブル期の前くらいまでは宝石といえば最低でもジェムクオリティかジュエリークオリティのものに厳選されていた。
バブル期にはダイヤモンドジュエリーのデザインが豊富になり、指輪だけでなく、ネックレスやブレスレット、ピアスを身に付ける人も増えたが、宝石の価値がわかる人間ばかりが買っていくわけではなくなったため、値段が高いだけのデザイン的には不出来な商品も多くなった。
そして、バブル崩壊後は宝石ではなくアクセサリーとしか言いようがない低品質な薄く色のついた石の物が増えていったりした。
そういうこともあって宝石業界はバブル崩壊後はかなり低迷して復活することもなかった。
まあ、宝石なんて家や車のように生活に絶対必要というわけではないしな。
さらに少子化と非婚化も進んだ上で、結婚するにしても高価な婚約指輪を送ったり、豪華な披露宴を開くようなことも減っていくから宝石業界はそりゃ衰退もする。
まあそれはともかく現在の東京の御徒町は、どこをみても宝石関係の業者の店ばかりで景気が良い。
しかし、バブルが崩壊して宝石が売れなくなると宝石店だった所は飲食店や美容院に取って代わられ、宝石店であっても安い淡水パールや半貴石の連を取り扱った店がふえていく。
まあ現状でも、新卒のOLが初任給で『ファーストジュエリー』と称してジュエリーを買ってはいるが、物品税という高額商品にだけかかる税金があるため、この税金の掛からない37500円以下の安いジュエリーばかりが売れるらしいけどな。
「やっぱり、しまってる所も多いかな」
「まあ、開いている場所もあるし、中にはいって見てみようじゃないか」
というわけで開いている宝石店へ入ってみる。
「いらっしゃいませ。
何をお探しですか?」
愛想よく笑顔で俺たちに声をかけてくる女性の店員さんに俺は答える。
「この人に合う婚約指輪を探しているんだけどありそうかな?」
俺がそういうと店員さんはこくこくうなずいて言う。
「とても素敵な女性ですね。
無論ございますよ。
ではどうぞこちらへ」
と俺達は店の奥へ案内された。
奥には様々な大きさのダイヤモンド付きのリングがおいてあった。
「エンゲージリングですとこんな感じですがいかがですか?」
「1カラットで50万円くらいなら価格も良心的だし、上杉さん的にはちょうどいいかな?
多分ブランドの小売店で買えば100万円はすると思うけど」
それを聞いて店員さんが言う。
「ええ、うちは家族経営なので人件費はやすいですし、家や土地も昔から持っているものなので、地代家賃もかかっておりません。
流石に加工費用や販売手数料はかかりますけども、かなりおお得かと思います。
むろん4Cの品質鑑定証明書もおつけしますよ」
そう御徒町のダイヤが激安なのは、それが本来のダイヤの値段に加工料などを乗せた価格であって、むしろ小売店のブランド品がぼったくり価格だったりする。
ちなみにカラットは大きさではなく重さで1カラットは大体0.2g程度。
「そうだな、まあそのくらいなら普段遣いでもなんとか行けるだろう」
「俺的にはもう少し大きくても、いいと思いますけどね」
俺のそのセリフを聞いた女性の店員さんは目をキラッと輝かせて言った。
「もっと、大きなものがお好みでしたら、奥から持ってきますがいかがでしょうか?」
「ああ、高額商品は通常は展示してないんだ。
できれば見せてほしいかな」
「では只今お持ちしますので、しばしお待ち下さい」
としばらくして持ってこらえたのは確かに二周り以上大きなダイヤモンドだった。
「こちらはソ連から取り寄せたダイヤモンドで、ノーブランドながら5カラットで、お値段は1000万円程ですがいかがですか?」
「5カラットで、1000万円はノーブランドの問屋価格でもたしかに安いね。
婚約指輪じゃなくていざというときに換金できる財産として、持っておいても悪くないかも。
これくらいの値段だったら売っても値段はそんなに下がらないでしょ?」
俺がそういうと店員さんはニコニコと答えてくれた。
「ええ、小売店で100万円程度の指輪ですと、希少価値などもありませんし、値段の殆どは流通や加工費用などの人件費ですので、売っても20万円程度にしかなりませんが、この店で1000万円のダイヤモンドでしたら資産としての価値はさほど目減りしないと思いますのでいいと思いますよ。
小売店で買えば2000万円位は取られると思いますし、売っても1000万円以下にはならないと思いますよ」
そして上杉さんも言う。
「私はそんなにでかい宝石は別に要らないが、お前が資産として持っておきたいと言うなら買っておいたらいいんじゃないか?」
「じゃあ50万円の婚約指輪をオレと彼女用で合計2つ。
あと5カラットで、1000万円の奴も2つください」
「はい、お買い上げありがとうございます。
お支払いはいかがなさいますか?」
「クレジットカードが使えればそれで、使えなかったら小切手でもいいけど。
どっちも無理なら銀行でおろしてくるしか無いけどな」
「あ、はい。
クレジットカードもお使いいただけますよ」
「じゃあ、これで」
と、俺はプラチナムのクレジットカードを渡す。
「では、少々お持ちください」
と、奥でクレジットの照会を電話でやっていたがそれも終わって店員さんは戻ってきた。
「お買い上げありがとうございます。
ぜひとも今後も当店をご贔屓にお願いしますね」
と彼女は上機嫌だったが俺としても5カラットのダイヤが1000万円で買えるならだいぶいい買い物だったと思う。
この次はウエディングドレスだな。
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