第73話 地方再生のためにも日本はもっと農家を保護するべきだろう

 さて、北京料理店での懐かしいメンバーとの会食もそろそろ終わりかな?


 と思ったら明智さんが唐突に聞いてきた。


「でも、なんで部長は青森とか佐賀とかそういった地方に工場やハブ港をつくろうとしてるんすか?

 もっと人の多いところに作ったほうがいい気がするんすけど」


 それに対して俺は答える。


「そろそろ大都市圏が地方の若い人間を吸い上げる構造をなんとかしないと、将来的に少子高齢化が進みすぎて日本がたちいかなくなるからね。

 実際に地方から大都市圏への人口移動としては1960年代から70年代の高度成長期が一番大きいいんだ。

 実際に1960年代初頭までは、日本の人口の約半分は農村地域に居住し、全世帯の半分が農業を営んでいた。

 けれども経済の発展につれ産業構造が第一次産業から第二次産業,第三次産業に重心が移っていき都市圏における所得水準が上昇したことから、より良好な雇用機会や賃金水準を求め、地方部から大都市圏への人口移動が進んだんだ」


俺がそういうと明智さんが思い出したように行った。


そういえばご近所さんは実家は地方って人結構いるっすね」


「そうだな。

 けれどもオイルショックで高度経済成長が終焉を迎えた、1970年代に入ると、都市圏と地方圏との所得格差が縮小したというか大都市圏での就職難もあって、地方から大都市圏への人口移動は減少した。

 だけど1980年代からは、景気拡大を背景に首都圏への人口流入が再び増加して、昨年の1987年には転入超過数が16万人を超えてるんだ。

 東京をはじめとする大都市における合計特殊出生率は低いからこれはいいことじゃないんだよね。

 まあ、これは江戸時代からそうだったんだけど」


 俺がそういうと明智さんは首を傾げた。


「なんでそうなるんすか?」


「基本的には大都市は大学が多くて高学歴な人間が多くなりやすいけど、そうすると結婚が遅くなりやすいからと言うのは大きいね。

 後は大都市は娯楽や商業が盛んな上に家賃が高いんで生活のためのコストが高く付きやすいというのもあると思う。

 単純に結婚するより楽しいことが多いっていうのもあるかも。

 あと60年代に地方から大都市圏に人が大幅に移動した理由は国民所得倍増計画でインフレが進んでもそれに対応するほど農作物の値段は上がらなくて農業が儲からなくなったというのもあると思う。

 このあたり日本の農家は保護されすぎってマスコミが叩くけど、欧米はもっと農家に対して手厚い保護をしてるんだよ。

 欧米は政府が農家に直接的に補助金を支出し、農家は肥料や農薬などに必要な代金を払って、安めにコムギを売っても所得が手元に残る仕組みをちゃんと機能させているんだ。

 特にフランスはフランス革命があったしね」


 俺がそういうと明智さんが言う。


「マリー・アントワネットのパンがないならケーキを食べればいいじゃないってやつっすね」


「ああ、それってマリー・アントワネットが言った訳では無いし、Qu'ils mangent de la brioche !ていうのはブリオッシュを食べればいいじゃないの意味だけど、ブリオッシュは、ケーキではなくって、フランスで当時販売されていた普通のパンよりも等級が落ちる安い小麦を使った半額の安いパンのことなんだ」

 

「そうなんすか?」


 明智さんがそう言うので俺はうなずく。


「大体その時マリーアントワネットはまだ9歳だって言うしね。

 まあそれはともかく逆に農業に対して適正な財政負担が行われれば、国民は安定して安く国産の農産物を食べられるはずなのに、例えば米の減反は税金で補助金を出して米価を上げ消費者負担を増加させるという異常な政策なんだよね。

 日本政府としてはアメリカの意向に沿ってパン食の普及を進めるために主食の米の価格を上げようとしてるんだろうけど減反は経済学的には最悪の政策といえるんだ」


 まあ、2020年代の欧米はコオロギを食えとか言い出したように狂ったような政策を連発するになっていたからあれだけど。


 俺がそういうと北条さんがため息をつく。


「それは困ったものですわね」


「ああ、日本のマスコミは事実を歪曲して伝えることが多いからね。

 このあたりも俺たちは新聞やテレビで欧米の本当の農業政策を伝えていくべきだと思う」


 俺がそういうと北条さんはうなずいた。


「たしかにそうですわね」


「そもそも地方に再生工場都市をつくるというのは安定した雇用を地方に作りつつ、工場や社員寮の食堂の食材を農家と直接契約して農家を保護するための方策でもあるからね。

 林業の保護のためにも家具の会社や木質ペレット工場を買い取って火力発電燃料なんかも木質ペレットで補えるようにしていく予定だし。

 あとは第1次石油ショックのときに、不安定な化石燃料に頼るばかりでなく、バイオ燃料の開発を進めようと、アメリカのエネルギー省が藻類からバイオ燃料をというプロジェクトを立ち上げてるけど、下水での培養藻類による藻類を原油化することもできれば進めていきたいね。

 まああくまでも材木とか木炭生産という稼ぎを失った地域の林業保護を優先するけど」


 俺がそういうと北条さんはうなずいた。


「日本の国土の多くは山林ですからね。

 それを考えると林業を再び一生食べていける職種にするのは大事かと思います。

 しかし下水での培養藻類による藻類を原油化などということが出来るならばそれもやったほうがいいですわね」


「ああ、そうだな藻類バイオマスは下水を浄化したうえに原油という燃料になるというのはやっぱり魅力的だと思う」


 本来は筑波大学の研究なんだが東大でも提案すればやれないことはないだろう。


 原油に出来る藻には、光合成で増える藻、光合成ができなくなり有機物から炭素源を摂って増える藻、そして、その両方を行う藻の3種類があるが増殖能力が高く、オイル生産も高い藻は下水という環境では環境の変動により好ましくない環境になりやすく藻の増殖が安定しないが、その下水処理場に元々住んでいる、土着の藻類を混ぜると生産は非常に安定して行くはずなんだよな。


 無論すぐに普通の原油から入れ替えるほどの量は生産できないだろうけども、やる価値はあるだろうな。


 鉱物資源も燃料資源も農作物も可能な限り自国内で自給自足できるように進めていくべきだろう。


 というわけで後日テレビで農業保護や減反政策についての問題点を放送した所、一部の政治家や農林水産省・外務省などの官庁、さらに農協の上層部などが一斉に雲隠れし二度と姿を表さなく成ったらしい。


 そして減反政策の取りやめや農家に対する肥料や農薬などのくわえて、トラクターやコンバインのリース代金に燃料代の補助も行われるようになり、米や麦、野菜などの価格は安くなるようだ。


 衣食足りて礼節を知るというが食糧を安く安定して確保できるように国が取りくむのはむしろ当然なんだよな。

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