第69話 ハブ港とハブ空港の整備は急務だな

 さて、高校時代の初期の方のゲーム制作部メンバーという懐かしい顔ぶれがそろった所で、北京料理店でみんなで食事をし、北条さんが買収した会社の経営権や人事権をメンバーに託すという話はおおよそついた。


「俺や北条さんは再生工場都市計画みたいな、地方の再生をメインとした日本全体の経済対策を進めたいからみんな頼んだよ」


 俺がそういうと北条さんが首を傾げた。


「地方の再生をメインとしたというと他にもなにか有りますの?」


「ああ、瀬戸大橋が開通したことで北海道・本州・四国・九州は鉄道で繋がったし、廃車や廃材、粗大ごみの廃家電、家具などの輸送のメインには貨物船とともに貨物列車を使う予定だから、北海道の札幌から九州の鹿児島までを新幹線でつないでしまい、現状では運行スケジュールが過密すぎる東海道新幹線のバイパス路線として北陸新幹線を京都や新大阪ともつなげてしまい、上越新幹線も新潟から秋田を経由して青森まで延長したいと考えてる。

 それらが開通すれば新潟や福井の再生工場都市も新幹線が通ることになるし、日本海側の活性化にもつながるだろうしな」


 俺がそういうと北条さんはうなずいた。


「確かに現状工業地帯として栄えているのは東海道山陽新幹線の沿線が多いですし、そのせいで過密すぎる運航スケジュールによって新幹線の線路を流用した高速貨物を走らせるという話は、実現していませんから、早めにその他の場所も新幹線を開通させたほうが良いのでしょうね」


「うん、後は雇用の確保のためにも諸外国とのハブになる空港と港の整備だね。

 ハブ空港は成田空港の滑走路やターミナルの造成を早めるとしても、問題はハブ港なんだよな。

 個人的には佐賀あたりが良いかなと思ってるんだけど」


「ハブ港ですか?」


「そう、鉄や銅、アルミなんかを精製工場でリサイクルすると言っても、全数を賄うことははできないだろうし石油とかその他のエネルギーもそうだしね。

 逆に輸出をする場合にしても大型船で運んだほうが結果としてはコストは安くなるはずなんだ。

 そのためには色々な整備や投資も必要だけどね。

 このあたりはシンガポールを参考にしたほうが良いと思う」


「なるほど、たしかにそうかもしれませんわね」


「でも現在の日本は正反対の方向で進もうとしてるんだ」


「どういうことですか?」


「シンガポールや韓国、中国は超大型貨物船を呼び込むためにそういった船が寄稿できる港を整備してるけど、日本は地方の小さい港の整備に金を振り分けようとしてるんだよ」


「それは……大問題ですわね」


 実際に日本の港湾政策は大失敗で1980年には神戸港のコンテナ取扱量は世界3位を記録し、太平洋航路の玄関口として不動の地位を築いていた。


 しかし、その後、神戸港の繁栄は見る影も無くなってしまい、2020年代では東京港がかろうじて世界ランキングで46位に入れる程度まで下がってしまって日本の主要港湾である東京、横浜、名古屋、大阪、神戸への基幹航路の寄港数は、1995年の143便/週から2021年には31便/週と大きく減少している。


 その一方で上海港は1便/週から66便/週へ大きく増え、釜山港は27便/週から53便/週へとこちらも増加している。


 神戸港の凋落の原因の一つは阪神淡路大震災であることは事実なのだが、震災が起きるよりも前から神戸港の貨物量は滞り始めていた。


 貨物船はコンテナ1万4千個積み規模を大型と呼ぶが、メガは2万個積みで、メガコンテナ船は日本国内には2020年代ですら入港できる港がない状態だった。


 これはなぜかと言うと港の水深の問題で、釜山港は18メートルの岸壁を保有しており、マレーシアのジョホール港の水深が19メートルあるのに対し、日本の港は水深14メートルしかなく、これでは日本に大型船が来航出来ないのは当然なんだ。


 しかも瀬戸内海は大小たくさんの船舶が行き交うが、隣接した島々の間の狭い瀬戸は、海上交通の難所と呼ばれるところが

 数多くあり、潮の干満の差によって激しい潮流が生じまることもあって。メガコンテナ船が通過するには向いていない。


 しかし世界の貨物船の潮流は90年代の時点で大型化の方向で進んでいて、コンテナ自体もコンテナ船自体も大型化していたから、ハブ港として水深の深いメガコンテナ船を受け入れられ、なおかつクレーンも大型コンテナに対応したものが必要だったのだ。


 しかし、日本は世界の潮流に逆行して阪神淡路大震災を切っかえにして”リスクを分散する”という名目で、日本各地の中小の地方港の整備を始めてしまった。


 その結果として博多港や横浜港から釜山港をハブ港として利用し積み替え作業を行って海外の国に運ぶ羽目に陥ってしまった。


 バブル期はテーマパークや地方空港なども数多く建設され、それは地方在住者にとっても、また地方の政治家にとっても、そして工事を請け負うゼネコンにとっても大変喜ばしいものと思われていた。


 たしかに一時的には建設業界などは潤ったが、利用客は集まらず施設は赤字を垂れ流し、総合的にみても日本への大型船の寄港は更に減り、日本は中国や韓国などアジアの他の港湾に主役の座を明け渡すことになってしまった。


 実際の所、海運と港湾は非常に重要で、製造業が原材料やエネルギー元を輸入するにも製品を輸出するにもその殆どは海運が利用される。


 だからこそ早くからメガコンテナ船を寄港させることが可能で、大型コンテナの積み下ろしが可能なクレーン施設を持つ大型の港湾に投資・整備を早めに行うのは大切なんだ。


 まあ、その他にも港の稼働時間が日本では8時間しかないのに海外にハブ港は24時間365日稼働しているとか、港湾の仕事がは細分化され、それぞれ別個の業者が取り仕切っていてそれぞれが利益を求めるため馬鹿みたいに高いという問題も有る。


「では、そのあたりのことを新聞やテレビで報じていくとしましょうか」


 北条さんがそう言うので俺はうなずいた。


「ああ、結局日本人ってテレビとかを見てようやく問題を認識するところがあるからな」


 地方のテーマパークにしても、空港や港にしても、宿泊施設にしても作れば需要が喚起されるわけではないということを国民自体が理解していくべきだと思うんだが難しいかもな。


 舞浜のあれが入場者数が異常に多いのは広告代理店とテレビによる宣伝のゴリ押しによるところが大きかっただけで、テーマパークという物自体が人を呼べるわけじゃないんだ。

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