第67話 感謝の意を捧げるためにも神社の分祀をしないとな

 さて、東大地方女子サークルの五月祭の模擬店については、それぞれの地元の名産品を午前と午後でわけて販売することで決まった。


「それにしても思っていたよりも、ずっとみんな地元の人口減少に危機感を持ってるみたいだな」


 俺がそういうと北条さんはうなずく。


「そうですわね。

 千葉県は銚子市のように千葉市より東や南の太平洋側は過疎化が進んでいる場所はありますが、北西部や東京湾側はむしろ人口が増えているので過疎化は認識しづらいです。

 ですが、終戦直後のベビーブームも含め、1950年代までは日本全国どこにおいても人口増だったのが1960年代に地方から中央への、農山村から都市への急激な人口流出により、各地域で急激な人口減が生じ、60年代から70年代に廃校になった小学校は地方ではかなり多かったはずですから、子供が減っていることを肌で感じているのだと思いますわ」


北条さんの言葉に俺はうなずく。


「ああ、ちょうど自分が小学校に上がるくらいにクラスが合併になったり、学校がどんどんなくなっていったら危機感も覚えるよな」


 たしか全国の市町村1799のうち、896の市町村が2040年までに消滅する可能性があると推計されていたはずだが、そもそも合併特例法の改正に伴い1999年4月から始まり2010年3月まで11年間にわたって続いた市町村合併である平成の大合併で全国の市町村数は3232から1799までに減ったはずだったりする。


 バブル崩壊後は地方の過疎化はかなり深刻になるんだよな。


「ええ、特に佐賀県は炭鉱業が衰退したあと、その代わりに雇用を確保できるような産業がなかったようですので」


「なるほど、佐賀出身の松平さんが佐賀牛ブランドの確立に必死な理由もそのあたりにあったのか」


「おそらくそうだと思いますわね。

 何れにせよ地方の過疎化を食い止めるためにも再生工場都市計画はきちんと予定どおりに1992年までには進めないといけませんわね。

 まあ、東大へ地方女子を呼ぼうという計画とは矛盾する気もしないでないですが」


「そうでもないよ。

 ちょうど俺達は第2次ベビーブーム世代で昭和46年(1971年)から昭和49年(1974年)頃に産まれてるから大学も増員されてるけど、今後は18歳人口は減少するからね。

 優秀な人材は女子から引っ張り出す必要性は十分あることになる。

 それとは別に平凡でも真面目に働けば普通に結婚して子供を産める環境を地方に整えて、過疎化に歯止めをかけないといけない」


 本来であればそろそろ第三次ベビーブームで出産数が急増するはずなのだが、バブルでの恋愛・結婚コストの高騰に加えてバブル崩壊での就職難や若者の非正規社員の増加による収入の低下による晩婚化・非婚化が進むことでベビームームは来ないまま終わり、出生数は減少を続け、高齢者の死者が増えると人口ぞのものの減っていくに至った。


 そのために”前”は年金や医療などの日本の社会保証制度が崩壊に至ったわけだが、それを防ぐためにも最低限少子化は食い止めないといけない。


 まあ、高齢社会については高齢者が長く健康で生き続けられるような健康づくりの総合的推進として病院へ行かせるよりも、公共プールやジムなどの運動環境の無償での提供を行って、体力の低下を食い止めるとともに、囲碁将棋のような頭と指先を使う趣味を勧めて行くとともに、痴呆の対策として医薬品の開発も進めるなどして医療費や介護の問題を少なくするしかないとは思う。


「そういえば俺達がここまで成功できたのは伊邪那美様のおかげだと思うし、伊邪那岐様と伊邪那美様を祀ってる神社から分祀させてもらってライジングの新宿本社とか駒場キャンパスの空きスペースに参拝できる社を作れないかな」


 俺がそういうと北条さんは大きくうなずいた。


「ええ、私達がここまで成功できたのも伊邪那美様のおかげですし、そういたしましょう。

 ライジングの新宿本社に神社を作るのは当然やりますが、ぞれには時間もかかりますし、まずは神棚に伊邪那岐様と伊邪那美様を祀って感謝の気持ちを捧げるのが良いかと思います。

 伊邪那岐様と伊邪那美様、日本で初めて男女の結婚の道を興された”結びの神”でもありますしね」


「そのあとだと須佐之男様と奇稲田姫とかだしな」


「伊邪那岐様と伊邪那美様を祀っている神社でこのあたりの近くですと新宿の夫婦木神社めおとぎじんじゃでしょうか。

 縁結び・子授け総本社として有名ですわね」


「そうしたら上杉さんのために御祈祷もお願いしたほうが良いかもしれないな」


「ぞれはまた随分気が早い気もしますが、それも良いかもしれませんわね。

 上杉さんくらいの年齢ですと初産にはちょうどよいでしょうし、あなたへの夜の営みの教育だけではなく、私達への妊娠中や出産後のアドバイスも貰えるようになれば私達は心強いですし」


「まあ、そうだよな。

 出産自体は産婦人科に入院すればいいとしても、その前や後については知ってる人が身近にいるに越したことはないと思うし、なんなら俺とか上杉さんのお母さんに来てもらってもいいと思う」


 徳川家康などは側室は未亡人で出産経験者で固め、ともかく子供が確実にできることが優先だったらしい。


「では早速上杉さんに迎えに来てもらうついでに、新宿の夫婦木神社めおとぎじんじゃに参拝して御札を頂いてくるとしましょう」


 北条さんの言葉に俺はうなずく。


「ああ、そうだな」


 というわけで、公衆電話から上杉さんに電話して俺達を迎えに来てもらう帰りに新大久保にある夫婦木神社めおとぎじんじゃに参拝することになった。


 いつものとおりリムジンで上杉さんが送迎に来ると車の中に俺達は乗り込んだ。


「上杉さん、今日はあなたと彼の子授け祈願のために新大久保にある夫婦木神社めおとぎじんじゃに参拝しますのでお願いしますわ」


 北条さんがそう言うと上杉さんは流石に苦笑していった。


「相変わらず唐突だな。

 まあ、私が妊娠している可能性は低くないとはいえまだわからないのだが、子授け祈願をしてくれると言うなら喜んでいくとするが」


 そして俺も上杉さんに言う。


「あ、あと今回の5月祭の模擬店で出す食品の味見もお願いしたいんですが」


「ああ、そのくらいは給料のうちだしいいぞ」


 上杉さんがそう言うと北条さんが少し困ったように言った。


「しかし、妊娠すると味覚が変わるとも聞きますし、早めに後任の方を見つけていただかないといけませんわね。

 運転手にしても、グルメ評価についても」


「そうだな、運転手の方は北条に選抜を任せるにしても、グルメの方は早めに後任を見つけておくよ。

 そうでないとおちおち妊娠もできんしな」


  そんな事を言っている相手に神社の前に到着したようだ。


「では、私は車の中で待っておりますので二人は子授け祈願をしたあと、祈祷の依頼をしてお札をいただいてきてください」


 北条さんがそう言うので俺はうなずく。


「了解。

 じゃあ行きましょう」


 俺は車を降りて上杉さんと手を繋いで、まずは神職の住居でも有るらしい社務所に挨拶をする。


 ここはもともとは同じ新宿に有る”皆中稲荷神社”の神職が住む住宅だったが、空き家になった際に神社が置かれたのだと云う。


 昭和40年(1965年)に、淡路島の「伊弉諾神宮」より御分霊を勧請し、昭和48年(1973年)、宗教法人の認証を受けたばかりなので新しいといえば新しいのだが、ご利益はあるらしい。


 山梨の昇仙峡にも夫婦木神社は有るが、こちらも昭和33年(1958年)に社殿が建立され、夫婦木神社として祭祀を開始したということでやっぱり新しいんだよな。


 熊野神社もたくさん有るが実は明治以前から有るようなところはかなり少なく、神仏分離廃仏毀釈で名前や場所が変わった所も多いらしい。


 で、社務所にて初穂料を渡し、巫女さんに伊邪那岐様と伊邪那美様の御札がほしいことと、子授け祈願祈祷をしてほしいことを伝え、神主さんが今日は簡単な祈祷を行うが後ほど時間をかけて正式な祈祷をしたいとのことだった。


「俺達はそれでかまいません」


 俺がそういうと上杉さんも言う。


「今日は取り急ぎできただけだし、正式に神社にふさわしい装いで着直しをしたほうが良いだろうしな」


「では、よろしくお願いいたします」


 というわけで社務所の二階に当たる場所にある社殿で参拝しつつ、簡単な祈祷を受け、御札と一緒に勧められた御朱印やお守り、破魔矢などももらって神社をあとにした。


 その後神具専門店に立ち寄って神棚やお皿や瓶子・水器など神棚に関するものを一式揃え、お供物なども購入して神棚を設置してお祈りもした。。


「ライジングの神社については淡路島の伊弉諾神宮より御分霊を勧請したりしたほうが良い気がするな」


 俺がそういうと北条さんはうなずいた。


「そうですわね」


 また、谷津遊園の中に熊野神社と金山神社の分社を分霊・勧請して分社を設立するために2億ほど使って宗教法人を買い取って正式に神社本庁へ加盟を行なったときはここまでする必要はありますので? と言っていた北条さんだったが、実際に現物の金を持ってくる存在が現れるとは思ってなかったろうな。


 まあ、実際には伊邪那美様の金塊は、ほぼそのまま貯め込んでは有るんだが。


 谷津の熊野神社では無人になった神社の建物や施設をお祓いなどをしてから一旦分解して運んでもらい、礼拝の施設である、本殿・幣殿・拝殿、鳥居・賽銭箱・手水舎、社務所、舞殿、祈祷殿、神楽殿、神饌殿、参集殿、絵馬殿、神輿殿などの建物も持ってきてもらい修繕が必要なものは宮大工さんに修繕してもらって分霊・勧請を行い、谷津遊園のお祓いもしてもらい、新しい場所の神社で神様を祀るために神様の神霊を分けていただき、迎え入れ、この先ずっと人々を救っていただくように真摯にお願いをするという手間をかけたが、新宿のライジング本社や駒場キャンパスに社を作る場合は、そこまではしなくても良さそうだと、新宿の夫婦木神社に行って知ることができたのも行幸だったかもしれない。


 まあそれはともかくライジング本社に神棚を備えて各自でお祈りをする。


「伊邪那美様、どうか今後も俺たちをお守りください。

 伊邪那岐様は伊邪那美様と仲直りをしていただければ」


 会長はやっぱり必死に金運アップをいのってる。


「どうか私たちのお金をもっともっともっとを増やしてくださいませ、是非是非是非!」


 そして上杉さんは真剣に子宝を授かるように祈っているようだ。


「どうか無事に子宝を授かり、健やかに育ってくれますように」


  まあ、何をするにしてもお金は本当たくさん必要だし、子供が産まれてくれるのも大事だし二人の願いが叶うと良いな。


 ・・・


 その頃冥界の伊邪那美はやたらと強い思念というか祈念を感じたためその方角の地上の様子を見た。


 そして前田健二たちの姿を見つけた。


「ふむ、ようやく子宝を望む女が見つかったようだな」


  その時この世とあの世の境界線となった千曳の岩がどかされた一人の男性が伊邪那美の前へと立った。


「久方ぶりだなわが愛しき妹よ」


 その男とは伊邪那岐であった。


「たしかに、随分と久方ぶりだ兄上。

 して、一体何しにここへ来たのだ?」


「無論君を連れ戻しに。

 と言いたいところだが、完全に君を地上に戻すのは難しそうだ」


「で、あろうな。

 黄泉戸喫よもつへぐいすなわち黄泉へ留める契はそうゆるくはない」


「そうだな。

 だが一年のうちの半年ほどであれば戻れる方法はあるだろう」


「ほう、どのような方法だ?

 兄上」


「それは、君が食べたものの半分を私が吸い出すことで分け合うことだ。

 そして君には命の実と命の水を与えることで半年は地上へ戻れるだろう。

 私も半分は冥界に来る必要ができてしまうがな」


 黄泉戸喫、すなわち死者の国の食べ物を食べると現世に戻れないというのは、一緒のものを食べる、生活をともにするという行為自体が同じ集団に属する儀式のようなものだからだ。


「なるほど。

 で、具体的にはどうするのだ?」


「こうするのさ」


 と伊邪那岐は伊邪那美の唇へと自分の唇を重ねた。


「む?」


 二人はしばらく唇を重ね合い、伊邪那岐は伊邪那美の体液を吸い上げていたがやがて離れた。


「くう……」


 伊邪那岐の体はシワだらけになり急激に老化したように見えた。


「大丈夫か?

 兄上」


「まあ、大丈夫ではないがなんとかなる」


 そして伊邪那岐は桃と水が入った竹の水筒を取り出した。


「さあ、これを食べ飲むのだ、妹よ」


「やれやれ、相変わらず勝手気ままに振る舞うな、兄上は」


 二人が桃を食べ、水を飲むと、伊邪那岐は元のように若返り、伊邪那美も生前の美しい姿を取り戻した。


「おお、まさか元の姿に戻れるとは……」


 そして伊邪那美に付き従っていた黄泉醜女の姿も若返って美しい乙女の姿となった。


「愛しき妹よ。

 一度は事戸ことどわたしたが、再び夫婦となろうぞ」


「ええ、人は私達を仲の良い夫婦と思って居るようですし」


 そして二人は夫婦としての営みを行った後で言う。


「私はあなたの行いによりあなたの国の人間を、一日に千人絞り殺してきました」


「私は一日に千五百の産屋を建ててきた。

 しかし、これはいかにも正しいことではないように思う。

 ゆえにに年老いた者の命を刈り取るのは私の役目としよう」


「では、私は今後は子を生むための産屋を建てますわ」


 これによりじわじわとでは有るが日本では子供が生まれやすくなり、また老人はボケたり寝たきりになることなくピンピンコロリで死んでいくものが増えていくのである。

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