第66話 サークルの模擬店は時間帯で出すものを分けようか、俺達が山田を買収したことで豊畑が大変なことになったらしい

 さて、地方学生サークルはそれぞれの都道府県の名産品を売り出すことで決まりそうだ。


「さて、みんなが地元の名産品をぜひともアピールしたいのはよくわかったけど、流石に全部いっぺんに売るのはスペースとかの関係で難しいと思う。

 あとご飯や乳製品は食中毒が怖いしね。

 だから鰻丼弁当や豚焼肉弁当、かに飯弁当とジャガバターなんかは午前中から13時まで、残りは午後に販売するって感じでどうかな?」


 俺の言うことに真っ先にうなずいたのは理Ⅲで和歌山出身の多賀さんと理Ⅱで福井出身の深美さんだ。


「確かに米飯はセレウス菌による食中毒が怖いですし、ウナギや豚肉もボツリヌス菌が繁殖する可能性があります。

 チーズでもリステリアによる食中毒の可能性はありますから、数を絞って昼過ぎまでにすべて完売できるようにしたほうが良いと思います」


「とはいえ、水飴でもサルモネラ菌やボツリヌス菌により食中毒を起こす可能性はありますから注意は必要ですが」


 二人の言うことに俺はうなずく。


「さすが薬学や医学を修めようとしているだけあって二人は詳しいね。

 本来であれば保健所での飲食店営業許可の取得が必要な所を学園祭・文化祭だからと特別に素人が飲食物の提供を許可されてるだけだから、学園祭とかの模擬店は色々制約が厳しいんだけど、結局は食中毒が一番の問題なんだよな。

 実際に県によっては保健所による指導で文化祭や学園祭ではごはん、サンドイッチ、おにぎり、弁当などは加熱しても食中毒の危険性が高いという理由で提供は禁止されてる場所もあるくらいだし。

 なんで鰻や豚焼肉は蒲焼や味付けして加熱済の状態で冷凍した真空パックのものをそれぞれ取り寄せて、弁当として出す時に軽く湯煎して解凍してから、鰻はオーブンレンジで軽く炙って、豚焼肉はホットプレートで軽く焼いて、炊飯器で保温したご飯の上にのせて提供しよう。

 それと調理や販売をするスタッフの衛生意識は大事だ。

 五月祭では大量の水が使えないから、手指はこまめにアルコールで消毒したり、仕込みの時とかは髪の毛が食品についたりしないように髪の毛はまとめたりちゃんとしないといけないな。

 その前に学校への申請や食品・機材の調達については北条さんにお願いしていいかな」


 俺がそう言うと北条さんは肩をすくめて言う。


「はいはい、そのあたりはいつものことなので構いませんわよ」


 北条さんが引き受けてくれたので俺は話を戻す。


「というわけで、みんなはそれぞれ地元に連絡して試食品を真空パックの冷凍なり、缶詰・瓶詰めなりで送ってもらってほしい。

 そのあたりのかかったお金は俺達に請求してもらえばちゃんと支払うし、冷凍での配送は俺達に会社のコンビニ部門に任せてもらってもいいから。

 あと当日の客引きは斉藤さんが着ているような普段着和装でやろうと思うんで売り子や客引きをしたい人は申し出てくれな」


 俺がそういうとみんなうなずいた。


 自分達の選んだものが地元の評判そのものになるわけだからまあ真剣にもなるだろう。


 そんな感じで今回の集まりは終わった。


「本当東大は入学直後に行事がギュウギュウ詰めだよな」


 俺がそういうと北条さんが苦笑して言う。


「東大は入学式も遅いですから、仕方がありませんわね」


 そして北条さんが真面目な顔で言う。


「それと話は全然変わりますが、私達が山田を買収したことで豊畑が少し困ったことになっているようですわね」


 北条さんの言葉に俺は少し驚いた。


「え、そうなの?」


 北条さんはうなずいて言葉を続ける。


「ええ、山田と豊畑は1967年発売の「トヨハタ2000GT」を共同開発して以来、高性能エンジン及び周辺機器の開発・生産を始めとした幅広い分野において密接な協力関係を築いて居たわけですが、私達が山田を買収したことでそれができなくなったようでして」


「ああ、豊畑は別に高性能なエンジンを作れない訳では無いにせよ、そのほうが安上がりだからって山田と協力体制を築くにとどめていたんだっけ。

 元々は日三と山田のほうがニッサン2000GTでの業務提携は早かったみたいだけど、日三が業務提携を解消しちまったんだよな。

 もったいない」


「ええ、ですが最近は山田単独でのレース活動と市販車両の開発も進めておりまして、必ずしも密接とは言えない状況だったようではあります」


「となると高性能エンジンを豊畑は今後は自社で作らないといけないけど、さすがにすぐには難しいって感じかな」


「ええ、そのようですわね」


「まあエンジンの製造自体は豊畑自動織機でも作っているはずだから、大衆車レベルでは問題ないんだろうけど、高性能なエンジンが必要な高級車がやばいって感じかもな。

 まあ、合理的選択が必ずしも良いことになるとは限らないってことでも有るんだけど。

 ああでも、ヤマダの超高級スポーツカーのOX99が開発製造されたら一台ほしいかもな」


「日本では走らせる意味がないのでは?」


「そういうのはロマンなんだよ。

 スーパーカーといえばイタリアの車ってイメージだけど日本も負けてないって証明したいじゃないか」


「そういうのはよくわかりませんわね」


「まあ、豊畑は当面苦労するかもしれないけど、自動車のエンジンは心臓部なんだし、日三も他の自動車メーカーも高性能なエンジンの開発には苦労してるわけだし、頑張ってもらうしかないよ」


「まあ、そうですわね」


 俺は別に豊畑を苦境に立たせるために山田を買収したわけではないのだが、結果としては豊畑にとっては致命傷になる可能性も有るかもしれないのだな。


 もっとも”前”はバブル崩壊での大幅な経営悪化で山田が自動車で独り立ちすることとはできなかったわけだが、バブル崩壊がなければそれも起こり得るのかもしれない。


 そして消費税が平成元年(1989年)年4月1日に施行されたときは、バブル景気もあってそこまで影響が大きく見えなかったが、平成9年(1997年)に消費税が5%に増税されるとせっかく立ち直りかけていた景気は明らかに低迷したしそのあたりはなんとかしないといけないだろう。


 結局消費税を強引に推し進めたのは経団連だしな。

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