第65話 東大目指す地方女子を増やすには東大が変わることをしっかり伝えてもらわないとな

 さて、地方女子が東大進学を目指すに当たっての障害はまず女子が東大に入学し、卒業しても男子に比べて就職先がなく、高卒や短大卒に比べ結婚もしづらくなるということで、そもそも入学するメリットが少ないことだ。


 それに対しては在学中からライジングでバイトを斡旋し、卒業後も就職や見合い相手を斡旋することで、在学中も卒業後も良い生活を送れるようにして解消していこうと思う。


 また親にとっては娘の一人暮らしが心配ということもセキュリテイが万全な女子寮を作ることで解消することにした。


 もっとも、女子は婚期がクリスマスケーキに例えられるようにこの時代は20代前半で結婚するのが当然という風潮もあって、地方だけでなく首都圏の一都三県でも女子は浪人してまで大学へ入るものではないという考えを変えるのは難しいだろうし、俺としても晩婚化は良いとは思えないのでそこはどうにもなりそうにはないけどな。


「とりあえず地方の女子が東大を目指す理由作りと一人暮らしへの不安解消はライジングでやるとして、その他に問題は有るかな?」


 俺がそう聞くと篠原さんが手を挙げる。


「やっぱり東京は色々とものが高いと思います。

 正直に言えば食費だけでも馬鹿になりませんし、飲み会や合宿にもお金は必要ですし、美容室やエステ、服を買うとかを全部自分でやるとなると正直きついと思います」


「ああ、金銭面の問題か。

 そもそも地方だとお隣さんや親戚の農家から食べ物をもらえたりして食費があんまりかからない場合も多いし、東京の飲食店や美容室は高いだろうしな。

 それに関してはライジングでのバイト代を上げるか、エステや美容室をライジングで買い取って、安く利用できるようにするとかしたほうが良いかな?

 食べ物は寮や学食が安く食べられるようにするとともに、ライジングで食べ物屋をやるからそこでまかないを食えるようにして食費が浮かせるようにするけど」


 俺がそういうと北条さんはうなずいた。


「そうですわね。

 実際に伊東の旅館ではグルメに加えてエステのサービスで、女性客や家族客を呼び込んで成功していますし、良いと思います。

 そして昔は旦那の経済力で嫁が綺麗になれるかなれないかが決まってきてしまっていたわけですが、現代では自分で稼いだお金で綺麗になれるのだということを親世代にもわかるようにしていかないといけないとも思います」


「だな。

 だからといって女が男に大金を貢がせるのが当たり前になってるのもまずいとは思うけど。

 実際、親世代もそうだし政治家や企業の上層部、東大の上層部なんかも古い価値観から変われないんだと思う。

 だから俺達ライジングで変えていくしかないと思うんだ」


 そして篠原さんが言う。


「あと、東大の構内には女子トイレなど女性用施設が少なすぎに感じます」


 それに対しては北条さんもうなずいている。


「確かに私達の出身高校は元々女子校であったこともあって、むしろ男性用トイレを増設しないといけませんでしたが、東大は女性用トイレが少ないですわね」


 二人の言葉に俺は苦笑する。


「女性を増やしたいのにそれは大問題だな」


 実際、東大が女子学生比率をあげようとインカレサークルの東大女子お断りに警告を出す、女子には家賃補助を出すなどをやり始めたのは2006年頃からのはずで、東大は2011年に2020年までに女子学生の比率を30%以上とする方針を打ち出していたが、2020年時点では4年生までの学部生の女子比率は19・5%と2割を超えず、その後、推薦枠では女子の比率は上がったが一般入試枠ではやはり2割を超えられないままだった。


 その他に地方学生が立ち上げたサークル生が地元の女子高校生に東大に来てほしいと伝えることもやっていたようだが、地方における家族や学校の教師といった周囲が東大進学を望まず、抑制するような意見が強いままではどうしようもないのだが、それ以前の問題として女子寮や女子トイレといった女性用の施設を拡充しようとしないのでは、そりゃ東大に入学する気になれないよなという気もする。


 まあ、若い人間が上京したまま地方には戻ってこない状況では老後の面倒を見させるためにも娘には上京させたくないと言うのも分からないでもないけどな。


 ちなみに早慶MARCHも80年代は女性比率は2割以下だったが、2020年代には女性比率は3~5割とグンと伸びていたりする。


 私立大学である明治大は1998年に新校舎であるリバティタワーを竣工したがこの建物は女子学生を意識したアメニティーが整備されており、トイレの個室や洗面台数がたくさんあるので混雑しない上に化粧室も設置されていて短大や女子大とくらべても、女性用施設に遜色がないことが女性入学者を増やしたと言われていたはずだ。


 まあ私大でも理数系の女子比率は低いままだったはずでも有るから、結局は理数系の大学を卒業してもろくに就職先がないという日本の問題は残ってるけどな。


「そうなると今の駒場寮の建物を潰して女子寮を建てるとともに、現状の東大の建物にも女子トイレを増築して、個室や洗面台を増やしつつ、化粧室も設置しないと駄目かな?」


 俺がそういうと北条さんは真剣な表情でうなずいた。


「ええ、それは絶対必要ですわね」


 周りの女子も皆が同意見のようで真剣な表情でコクコクうなずいている。


「学生だけでなく上層部や教員にも女性が少ないと、こういう問題も出てくるってことなんだろうな」


 俺がそういうと篠原さんがうなずいていった。


「ええ、そして地方の女子生徒が抱える問題については大学側はきちんと把握できておらず、だからこそ適切な対応にもつながっていないと思います」


 更に北条さんが言う。


「そもそも女子トイレや女子寮が十分に確保されていない時点で、東大が本当に女子を入れる気が有るのか疑わしくさえ思いますわね」


 二人の言葉に俺もうなずく。


「たしかにそうだよな。

 そうでなくても学校の公式行事に加えて、学生自治会によるオリエンテーション活動なんかの学校公認では有るが、公式行事でない行事の両方が入学直後に重なりすぎてて、大学生活のしおりなんかは入学式のあとに配られるけど、その時になって初めてオリエンテーション合宿のことを知っても準備が間に合わない場合だって有るだろうし」


 俺がそう言うと斉藤さんが呆れたように言った。


「まあ、私達はあなたが高校生の時、長期休みの前に突然泊まりがけで旅行に行こうとか言い出すのに散々つきあわされたから、泊りがけでも事前準備はできたけどね」


「あ、ああそれは確かにあったな」


 そして篠原さんは恥ずかしそうに言う。


「私は高校時代の部活動の合宿のように体育館でトレーニングやスポーツをするものだと勘違いしていたのでジャージでしたし、荷物もほとんど用意できませんでしたから前田さんが服を買ってくれたりしてとても助かりました」


 篠原さんが助け舟を出してくれたことに俺はホッとしながらうなずいて言う。


「まあ、俺もオリ合宿のことを前日に言われたから準備はそれなりに大変だったしな。

 そういう事もあるし、5月祭にはできればみんなの母校の後輩を親と一緒に招待してほしい。

 そして東大が変わることと入学直後に有ることを説明してあげてほしいんだ。

 もちろん俺達も元ゲーム部の仲間や後輩を呼ぶつもりだ。

 ああ、往復の交通費やホテルなんかの宿泊費は俺達が出すから安心してくれ」


 俺の言葉に北条さんがうなずく。


「十分な学力などの才能があっても、親の無理解で東大を受験することすらできないのはもったいないですからね。

 優秀な人材を確保するための先行投資は惜しみませんわ」


 北条さんの言葉に俺はうなずきつつ言う。


「まあ、結局は男尊女卑的な日本の社会構造そのものを変えていかないと駄目なんだろうけどな。

 いうほど簡単じゃないとは思うけど。

 あ、それとこのサークルはサークルで地方の名物料理みたいなものを売り出していこうと思うけど誰か地方の名産品をぜひ売りたい人はいるかな。」


 俺の言葉に手を上げたのは静岡出身の西尾さんだった。


「でしたらばぜひ静岡名物のウナギと緑茶を売り出していただきたいです」


「なるほど、静岡といえばウナギとお茶だもんな」


「ええ、ですが最近は安い中国からの輸入ウナギにおされていたり、コーヒーや炭酸飲料等との競合で、1人当たりの緑茶消費量は低迷しているので、静岡のウナギや緑茶の美味しさをアピールしたいのです」


 それに続いて手を上げたのは新潟出身の不破さんだ。


「ではご飯はぜひ新潟の誇るこしひかりを使ってください。

 緑茶と同様に米もパンなどとの競合で消費量がどんどん減っていることもありまして、ぜひお米の美味しさをアピールしたいです」


 そして更に手を挙げる女の子が居た。


 鹿児島出身の竹田さんだ。


「では鹿児島の黒豚の豚焼肉弁当もぜひお願いします。

 豚肉については、 牛肉と違い昭和46年(1971年)10月の輸入自由化によって安いカナダやアメリカ豚肉に押されつつ有るのもありますし、逆に安い肉として評判もいまいちぱっとしませんが本当はとても美味しいのだとアピールしたいです」


「なるほど、了解したよ。

 じゃあ、取り合えず静岡の緑茶とうな丼弁当セットと緑茶と豚焼肉丼弁当セットを売り出すでいいかな?」


 三人はうなずいたが更に手を挙げる人が出てきた。


 福井出身の深美さんだ。


「でしたら福井名物である越前カニのカニ缶を使ったかに飯もぜひに」


「なるほど、かに飯もカニ缶なら問題ないな」


 その次に手を上げたのが和歌山出身の多賀さんだ。


「ええと、お弁当とかではないのですが、和歌山名物のみかんの缶詰を使ったみかん飴の屋台を出すのは可能でしょうか?

 みかんというと愛媛というイメージですが栽培量では和歌山のほうが多いのです」


「ああ、それも問題ないと思うよ」


 俺がそういうと青森出身の寺西さんも手を上げた。


「みかん飴がいいならぜひ青森のりんご飴もお願いします。

 青森といえばやっぱりりんごですから」


「了解。

 みかん飴とりんご飴ってたしかに屋台だと結構定番だけど東大の5月祭だとそんなに扱ってなさそうだし良いんじゃないかな?」


 そこで福島出身の篠原さんも手を上げる。


「でしたら福島のイチゴを使ったいちご飴もぜひお願いします」


「なるほど、福島だと5月ぐらいでもイチゴが取れるのか」


「はい、遅いところだと6月くらいでも大丈夫ですよ」


 さらに島根出身の山崎さんも手を上げた。


「えーと、お弁当でもフルーツ飴でもないのですが島根といえば宍道湖の乾燥しじみやしじみの佃煮は地元の名産なのでぜひ一緒に売って欲しいです」


「ん、瓶詰めとかなら場所も取らないしいいと思うよ」


 そして更に手を上げたのが高知出身の玉井さんだ。


「それであれば高知からはカツオの内臓の塩辛である酒盗の瓶詰めをぜひ!

 本当はカツオのたたきが出せればもっと良いのですが……」


「生の食材はダメだからたたきはちょっと無理かな?」


「ですよね、ならばカツオでも加工食品で保存が効き美味しいものも有るのだとアピールしたいです」


 そして北海道出身の三田村さんも手を上げた。


「えっと…豚丼もかに飯も北海道が元な気がしますが……それは置いておいてでは北海道からは蒸したジャガイモにバターとをのせて食べるジャガバターや溶かしたチーズにくぐらせて食べるチーズフォンデュはいかがですか?」


「ジャガイモに乳製品なら北海道らしくていいしうん、それも行こうか」


 なんだか地方物産展みたいになってしまったが、地方の県から頑張って入学した学生たちが色々苦労していることがわかってもらえればいいと思う。


 そして、みんなには後輩に上京してもらい、東大目指す地方女子を増やすために東大が今年から大きく変わることをしっかり伝えてもらわないとな。

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