第63話 五月祭の方針は決まったから次は地方学生のためのサークル設立だな

  さて、五月祭のクラスやサークルの企画もだいぶまとまってきた。


「俺や北条さん、あとは長谷部さんのテニパの五月祭における模擬店については、可能な限り被りが少なそうな品目を選び、実行委員会を通じて皆と同じ食材を使うのではなく、自分達で仕入先を決めつつ、上杉さんに目利きしてもらい、美味い食材での差別化を図り、さらにチャイナドレスやメイド服で客引きをすることで集客を増やすようにすれば大丈夫だと思う」


 俺がそういうと北条さんが言う。


「私達もなにかコスチュームを用意したほうが良いでしょうか?」


 北条さんがそう聞いてくるので俺は少し考えて答える。


「売り子や客引きの女の子はアメリカっぽく、サンバイザーに派手な赤いポロシャツにミニスカートとかで客引きするとそれっぽいかもね」


「なるほど、アメリカらしさを押し出していくのは大事ですわね。

 ではそれで行きましょう」


 そんな感じで話もついたので一旦解散となり、東大へ向かうことになる。


 いつも通りにリムジンへ乗り、五月祭の話をしていたら斉藤さんが少し不満そうに言った。


「私達のクラスは上クラの勧めもあって、牛串の屋台なのだけど、あなた達みたいに面白そうな企画にはならない気がするわ」


「まあ、東大生って基本的に上から教わった無難なものをそのまま下に勧める傾向はあると思うしな。

 オリ合宿もそんなに尖った行き先はなかったみたいだし」


「たしかにそうだけど……」


「斉藤さんが、手間を惜しまないなら牛串の仕入先を実行委員会経由の生協の大量に仕入れられるんで安いし品質も均一だけど味はいまいちな肉じゃなくて、飛騨牛とか米沢牛、仙台牛みたいな有名で美味いとされるブランド牛のブロック肉を使いつつ、その他に牛ハラミ肉串や牛タン串、牛トマト串、ビーフソーセージ串、牛椎茸串、牛ねぎま串、紫タマネギ・パプリカ・ズッキーニナンかを挟んだバーベキュー風の牛野菜串とかにしてみたら良いんじゃないかな。

 味付けも塩とタレに塩レモンや味噌タレとかを選べると良いと思う」


「なるほど、たしかに手間はかかると思うけどそれは良さそうね。

 じゃあ提案してみることにするわ」


「うん、やっぱり差別化は必要だからね。

 多分ほかは委員会を通じて、普通にありきたりな牛串を出すだけのところが多いと思うから、種類が豊富なだけでも目立てるとは思うよ」


「それもそうね」


 というわけで斉藤さんのクラスの牛串も少し特別なものになりそうだ。


「それから、そろそろ本格的に俺達みたいな名門進学校出身じゃなくて、入学直後に色々苦労した人間を集めて正式にサークルを立ち上げたいと思うし、北条さんも声をかけてくれないかな。

 特に東大の学生で女子の比率を上げるには何が問題なのか知りたい」


 俺がそういうと北条さんはうなずいた。


「そうですわね。

 私の方でも声をかけてみますわ」


「じゃあ、集合場所だけど前と同じく生協食堂3F交流ラウンジでどうかな」


 俺がそういうと長谷部さんはうなずいてくれた。


「まあ、場所的にはそこが一番だろう。

 今回はあたしも参加するよ」


 というわけで放課後、俺と篠原さんは生協食堂3F交流ラウンジへ向かった。


 食堂で寺西さんと不破さん、大音さん、竹田さん、斉藤さん

 、青山さん、山崎さん、玉井さんとも合流し、長谷部さんと本田さん、長谷部さんに連れられた村井さん、今枝さん、津田さん、成瀬さん、あとは北条さんと一緒に何人かの女の子がやってきた。


 見事に女の子ばかりなのは班が同じとかでないとなかなか親しくなれないからに加えて、そもそも名門進学校出身でない人間の比率自体が少ないというのもありそうだけど。


「じゃあ顔見知りもいるけどそうでない人間も居るし、改めて自己紹介しよう。

 俺は前田健二。

 科類は理Ⅰ、初修外国語はドイツ語。

 出身高校は千葉県の千葉経済高等学校情報処理科。

 だいたい知ってるってると思うけどゲーム製作を主にするライジングって会社の最高経営責任者もやってる」


「私は北条精華。

 科類は文Ⅱ、初修外国語はイタリア語。

 出身高校は千葉県の千葉経済高等学校」


 俺は北条さんの自己紹介にちょっと付け加える。


「彼女は俺の高校の時のクラスメイトで部活仲間かつ、俺の持ってる会社の総務や経理の最高責任者だよ。

 ゲーム制作以外の殆どの業務をこなしてくれてる」


「私は斉藤千秋。

 科類は文Ⅲ、初修外国語はフランス語。

 出身高校は千葉県の千葉経済高等学校よ」


 俺は斎藤さんの自己紹介にちょっと付け加える。


「彼女も俺の高校の時のクラスメイトで部活仲間かつ、俺の持ってる会社の経営陣の一人だよ。

 ゲーム制作ではシナリオ担当で、正体的には出版社とかの経営責任者を任せようと思ってる」


「あたしは長谷部絵理子。

 科類は理Ⅰ、初修外国語はオランダ語。

 出身高校は神奈川県のフェリス女学院中学校・高等学校よ。

 サークルはテニスのスポーツ愛好会テニスパートに所属してる。

 なんかあたしも会社を任されそうらしい」


 それに対して北条さんが補足する。


「長谷部さんには東大内部での情報収集や情報提供以外に私達の会社での交渉事なども手伝っていただく予定です。

 お陰で交渉事全般がだいぶ楽になりそうですわ」


「俺は本多政義。

 サークルはクイズ研究会に所属している

 出身は千葉県の県立船橋高等学校」


 そして東京の名門進学校組が自己紹介を始めた。


「桜蔭中学校・高等学校から来ました村井光乃です。

 科類は理Ⅰ、初修外国語はスペイン語です」


「女子学院中学校・高等学校から来ました今枝尚子です。

 科類は理Ⅰ、初修外国語はスペイン語です」


「雙葉中学校・高等学校から来ました津田雅美です。

 科類は理Ⅰ、初修外国語はスペイン語です」」


「豊島岡女子学園中学校・高等学校から来ました成瀬翔子です

 。

 科類は理Ⅰ、初修外国語はスペイン語です」」


「福島県の福島県立安積女子高等学校から来ました篠原紗子です。

 科類は理Ⅰ、初修外国語はフランス語です」

 よろしくお願いいたします」


「青森県の青森県立青森高等学校から来ました寺西典子です。

 科類は文Ⅲ、初修外国語はスペイン語」


「私は新潟県の新潟県立新潟高等学校から来ました不破光乃です。

 科類は寺西ちゃんと同じく文Ⅲ、初修外国語はスペイン語」


「私は大音和音です。

 北海道の北海道立札幌北高等学校から来ました。

 科類は文Ⅲ、初修外国語はフランス語」


「私は竹田美香子です。

 大音さんとは同じクラスの同じ班で寮でも同じ部屋になります。

 鹿児島県の鹿児島県立鶴丸高等学校よりきました。

 科類は文Ⅲ、初修外国語はスペイン語。


「みなさん、初めまして。

 青山佳乃です。

 科類は文Ⅲ、初修外国語はフランス語。

 出身高校は福島県の磐城高等学校です」


「みなさん、初めまして。

 山崎紀子です。

 科類は文Ⅲ、初修外国語はスペイン語。

 出身高校は島根県の松江北高等学校です」


「みなさん、初めまして。

 玉井雷華です。

 科類は文Ⅲ、初修外国語はポルトガル語。

 出身高校は高知県の土佐中学校・高等学校です」


 そして北条さんが声をかけたらしい女子の自己紹介が始まった。


「みなさん、初めまして。

 多賀直美たがなおみです。

 科類は理Ⅲ、初修外国語はポルトガル語。

 出身は和歌山県の智辯学園和歌山中学校・高等学校です」


「みなさん、初めまして。

 深美一恵ふかみかずえです。

 科類は理Ⅱ、初修外国語はスペイン語。

 出身は福井県の藤島高等学校」


「みなさん、初めまして。

 西尾明美にしおあけみです。

 科類は文Ⅰ、初修外国語はフランス語。

 出身は静岡県の静岡高等学校」


「皆さんはじめまして。

 松平祥江まつだいらさちえです。

 科類は文Ⅰ、初修外国語はフランス語。

 出身は佐賀県の佐賀西高等学校です」


「皆さんはじめまして。

 三田村春子みたむらはるこです。

 科類は文Ⅱ、初修外国語はイタリア語。

 出身は北海道の北海道立札幌南高等学校から来ました。」


 なるほど、見事に地方女子ばかりだな。


 しかも原発が設置されている県の出身者が多い気がする。


 四国の場合は高知じゃなく愛媛の伊方原発で、東北には宮城県の女川原発、北陸には石川県の志賀原発、茨城県にも原子力関連施設は有るけども。


「みんな、集まってくれてありがとう。

 基本的には地方出身で高校の先輩から合格発表後や入学直後にどういう事があって準備はどうすれば良いのかとかを教えて貰える機会がなかった人間が集まって後輩に同じような思いをさせないためにはどうすればいいかや、東大の女子比率を上げるためにはどうすればいいかを考えていくサークルにするつもりだ。

 まず、実際に東大への進学そのものや合格発表後・入学直後に困ったことを言ってほしいかな」


 そこでまず手を上げてくれたのは篠原さんだ。


「まず、東京・神奈川・埼玉・千葉など比較的東京に近い場所に住んでいるとわかりづらいと思いますが、私達のような東京から離れた場所に住んでいると、基本的に女の子が上京して一人暮らしをするということ自体に両親が難色を示しやすいんです。

 あと浪人してまで大学に行くなら、家事見習いでもいいでしょう、結婚できなくなったらどうするの?ともいわれます。


 そして長谷部さんもうなずいて言う。


「本当に女は24までには結婚するもんだって、親から言われるからね。

 だから秘書や事務の勉強ができる、もしくは家事育児が学べる短大を出て、事務職として3年くらい働いて寿退職から専業主婦になるのが当たり前っていう親が多いんだよ」


 俺は二人にうなずく。


「そもそも男女雇用機会均等法が施行されて女性も総合職になれるようになっても、そうやって女性を採用する企業はほとんとないから大学を出ても働く先がないっていうのも有るんだよな。

 俺達は適性があれば女性でも普通に幹部として働いてもらってるけど」


 そして北条さんが言う。


「アメリカはマサチューセッツ工科大学のような理系大学でも、男女比は6:4程度で東大ほど女子比率が低くないですが、やはり卒業しても就職も結婚もできないという日本の事情が大きいと思いますから、そのあたりは絶対改善して行けねばならないと思います」


「だな、結局上京して安心して暮らせるのかと東大を出てもいい結婚相手が見つからないのではないかと言うのが大きな枷になってるんだろう。

 そうすると東大女子の卒業後の高収入な就職先なり良い結婚相手を探せるようにしないと駄目ってことだな」


 俺がそういうと本多さんはうなずいた。


「男なら浪人してでもいい大学に入ったほうがいい会社に入れるって親も思ってるから、浪人することもそこまで問題だとは思われないからな。

 その点で確かに女子は不利だと思う」


 俺は少し考えたあとで言う。


「ただ、初産はできれば20代前半でやったほうが良いのも事実なんですよね。

 今はそうでもないけど昔は出産で命を落とす事も珍しくはなかったと聞きますし、出産や新生児の育児自体が母体への肉体的精神的負担として大きいのは間違いないから、体力気力が落ちる25歳を過ぎないほうが良いのも確か。

 とはいえ出産や育児をするから女性は総合職にしないというのもすごくもったいないし、臨月から幼稚園くらいまでは専業で主婦してもらって、その後は仕事に復帰してもらうのが良いかなって思ってるけど。

 普通ならパートタイマーになるけど、ライジングは基本6時間勤務だから子供が登校したり下校したりには間に合うと思うしね」


 俺がそういうと北条さんがジト目で俺に言う。


「私にはそんなに時間の余裕がないのですが?」


「そのあたりは申し訳ないと思う……」


「まあ私も好きで仕事をやっていますから良いですけども」


「まあ、それはともかく卒業後の進路の問題に関してはライジング系列で自動車メーカーや電機メーカーの総合職だろうと研究職だろうと女性でも関係なく採用するし、出版社の編集や作家になりたいとか、アイドルや声優になりたいとかでも対応できるから安心してほしいかな。

  あと、在学中に関してはバイト先として、原宿や渋野駅前の雑居ビルにホットドッグの店・タピオカドリンクの店・ナタデココを使ったハロハロの店を作ったり、新宿西口には牛串の店や台湾飲茶の店を作ったり。埼玉の入口になる池袋には秋葉原と同じようなメイド喫茶や和装喫茶の店を作って、高めの時給で働けるようにしたいと思ってる。

 できれば俺達が作ってるゲームのテストプレイを手伝ってくれる人もいると助かるんだけど」


 俺がそういうと北条さんがうなずいて言う。


「なるほど、そうすれば五月祭以降も継続して取引ができますから、日本の畜産農家の保護にも繋げられますわね」


「うん、それに五月祭で食べ物の作り方のノウハウもみんな得られるでしょ」


 俺がそういうと北条さんは苦笑気味に言う。


「こういうところは本当にソツがないですわね」


 そして篠原さんが言う。


「私、ゲームはやったことがないですが、ゲームを遊ぶことで役に立てるなら、私にぜひやらせてください」


「うん、ありがとう。

 全然ゲームをやったことがない人でも楽しめるか?

 っていうのも大事だからむしろ助かるよ。

 続編ってどうしても難しくするだけになりがちだからね」


 俺がそういうと北条さんが渋い顔で言う。


「たしかにジュエルス3については発売予定がだいぶ遅れていますし、バランスを調整したらすぐにでも発売したいところですわね」


 そして松平さんが手を上げていった


「それは私も手伝わせてください。

 その代わり検討していただきたいことが有るのですが」


「ん、なんだろう?」


「そちらでは4年後に廃車や家電や家具などの粗大ごみを鉄や銅などの資源として再生する工場を中心とした工業都市を設置する計画があると聞いています。

 ぜひ佐賀もその候補に加えていただきたいのです」


「なるほど、佐賀も過疎化が深刻な地域なのかな?」


「はい。

 佐賀は農業は盛んですが、観光地としては長崎・大分・熊本などにに知名度で劣り、畜産のブランドでは熊本や鹿児島や宮崎に劣り、工業では福岡に劣りますので、正直良いところがありません。

 国立大学として佐賀大学はありますが、偏差値も低く、あまり良い就職先もないので福岡や大阪等の近畿あるいは東京などの関東の大学に皆出て行ってしまうのです」


 そういえば佐賀大学は将来、中国人留学生を増やすために中国領事館に挨拶したりしていたっけ。


 そんなことをさせるくらいなら再生工場都市を一つ増やしたほうが良いかもしれない。


「北条さん、たしかに佐賀にも再生工場都市を設置したほうが良いように思うけどどうかな?」


「佐賀でしたら佐賀市あるいは伊万里市にはそこそこ大きな工業用地もありますし、それも良いと思いますわ。

 鉄道でも船でも運ぶことは可能ですし」


「とすると佐賀は佐賀と福岡と長崎で、鹿児島は鹿児島・大分・宮崎・熊本・沖縄を担当ってところか」


 北条さんはうなずく。


「そうですわね」


 そして三田村さんが手を上げた。


「それでしたら私もお願いがあります。

 私の出身は北海道の旭川なのですが、どうか再生工場工業都市を誘致していただけないでしょうか。

 港はありませんが、鉄道の便は北海道でも、もっとも良い立地です」


「確かに北海道は広すぎるし、苫小牧だけよりは旭川にも作ったほうが良いか。

 福島は郡山と小名浜に作る予定だったし、北海道も札幌や函館に近くて鉄道も港も使う苫小牧と、鉄道とトラックで輸送する旭川に分けてちょうどいい気がするし、そうすればせっかく張り巡らされてる北海道の鉄道網も残せるだろうし」」


「ではそのためにもゲームを頑張って完成させてくださいね」


「りょ、了解」


 これで地方女子が東大を目指すための理由は作れそうかな?


 まあまだまだ他にも色々問題はありそうな気はするけど。

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