第61話 日本人寮が駄目で留学生寮が大丈夫とかおかしいだろう

 さて、長谷部さんの部屋を追い出されたあと、上杉さんの部屋で、一夜を過ごし色々教えてもらった俺は、翌朝身支度を整えたあと北条さんの部屋へ向かった。


 そのまま北条さんの部屋の前にたってインターホンを鳴らす。


 ピンポーンと音がなって中から北条さんが応答してくれた。


『あら、今日は早いですわね?』


「うん、上杉さんから色々教わったし、北条さんに話したいことも色々あるから」


『わかりました。

 では、いまドアを開けますわ』


「よろしくね」


 というわけで北条さんが中から顔をのぞかせた。


「では、どうぞ部屋の中へお入りください」


「では、お言葉に甘えて」


「では、ダイニングチェアに座っていてください。

 今朝食を作ってしまいますので」


「了解。

 じゃあごちそうになるよ」


 しばらくして北条さんは大きめのプレートに朝食を載せて運んできた。


 そしてそれが俺の目の前に置かれる。


「お、うまそうだし栄養バランスも良さそうだね」


 朝食の内容はバターが添えられたロールパン2個、プチトマトときゅうり、レタスのフレンチドレッシングのサラダ、オムレツ、ヨーグルト、ミカン1個だな。


 以前俺の部屋に浅井さんも斉藤さんも来ないときに自分で作って食べたものに似ているが、彩りやバランスが一回り上だ。


「ではどうぞ」


「うん、いただきます」


 オムレツにはチーズも入っていて一工夫凝らされているあたり流石だ。


 その旨さにあっという間に平らげてしまった。


「うーん。

 美味しかった。

 あ、それで昨日は迂闊な発言をしてごめんなさい。

 お詫びとして俺達二人の時間を作って、土曜の午後とかにでも婚約指輪やウエディングドレスを見に行きたいと思うけどどうかな?」


「あら、あなたにしては良い提案ですわ。

 上杉さんにそう言った方がいいと、アドバイスでもされたのですか?」


「あー、一応婚約指輪やウエディングドレスを見に行きたいというアイデア自体は俺のものだよ」


「なるほど、元は上杉さんへの提案だったというところでしょうか?」


「あ、うん、それはその通りなんだけどね」


「まあ、わたしには婚約指輪はともかく、ウエディングドレスはまだ時期尚早な気もいたしますが、やはり女性であればウエディングドレスや白無垢には憧れるものですし、二人だけで行きましょうか」


「うん、その後に何処かのレストランとかを予約して一緒にディナーでもどうかな?」


「それもまたいいですわね。

 ああ、直接的には今のこととは全く関係がないのですが、公明正大党や日本社会主義化党、日本共産主義化党、それに自由民権党のカルトに関係している議員に参議院の新興宗教系政党の議員などが一斉に辞職したようで近く大規模に補欠選挙が行われるようです」


「あー、それって新興宗教や左翼セクトに関わりがあると、言われている議員達かな?」


「ええ、そうですわね」


「なるほどなぁ……」


 まあ、実際には良いことだとは思うけどな。


 新興宗教団体や左翼セクトの関係者が国会議員や都道府県知事、議員などに多数紛れ込んでるのは良いこととは言えないし。


「それと、三鷹の建物についてですが、文部省が昭和58年(1983年)に10万人留学生受け入れ方針を発表して居ることもあり、留学生用の居住用建物も建ててほしいとのことなのですが……」


「いや、日本人の寮の建て替えは許可しないが、留学生用の寮なら良いってのは明らかにおかしいだろう。

 それに今の日本の大学のシステムや企業体質だと、留学生を受け入れたとしても不満しか残らないし、わざわざ国費を使ってアジアから留学生を受け入れる必要性は全くないよ。

  それに東大のセキュリテイのハード・ソフト両面の低さを考えたら、留学生に最新技術を持って帰られるだけだろうし。

 しかも、我が国の18才人口が減少傾向に転ずる1993年以降に日本の学生が減る分を留学生で補いたいってだけなんだろうけれど、将来的に就労人口が減ったとしても銀行なんかの金融機関も雇い止めを始めるはずだしね」


「まあ、そうですわよね。

  部外者でも簡単にキャンパスに入れるなんてありえないですわよね。

 ではそのように答えましょう。

 やるならばまずは大学内部などの古い体質を改善してからということで伝えることにしますわ」


「うん、お願いね」


 留学生や移民は根本的にそういったもので成り立ってきたアメリカやオーストラリアではそれなりに上手く行くが、ヨーロッパではあまりうまくいかず、移民を安い労働力として当て込んで大量に受け入れた結果、ヨーロッパは福祉を移民に食い荒らされた上に暴動を起こされたりして治安が悪化していったからな。


 元々アメリカは治安のいい国ではないし、日本では外国からの人間をちゃんと受け入れる事ができるとも思えないし、結局のところ誰にとってももいい結果にならない。


 大学の人員増をそのまま進めるよりちゃんと予定通り減らして大学の新設も、しない方がいいと思うんだよな。


 ・・・


 後に北条からそれを聞いた東大のある教師は憤った。


 これでは我が大学は国費での外国人留学生を受け入れられないではないかと。


 国費外国人留学生の手続きは全て、在外日本国大使館と日本国内の大学等を通じて行われるが、もちろんそこにはまずそれなりの見返りというものがあるわけだ。


 無論彼にとって東大の研究結果が外国に渡ろうと知ったことではなかった。


「こうなったら私の提案を拒否した連中を分からせてやるか」


  彼は左翼セクトを通じて接点があった、暴力に慣れた東アジア地域の非合法かつ非正規な方法、例えば偽造パスポートや中国漁船や台湾漁船、あるいは貨物船の船内に潜伏してくる密航や偽変造の船員手帳を使用し貿易船の船員になりすましてくるなどの方法で入国した者らに連絡を取り、駒場寮の占拠や大学当局への襲撃を行おうとした。


 そして彼等がことに及ぼうとした時に、がっと彼等の両足首を何者かが掴んだ。


「な、なんだ?」


「地面から手が?」


 その両手は地面の下から伸びてきてものすごい力で彼等を地面の下へ引きずり込んでいった。


「な、なんなんだ、これは? た、助けてくれ!」


「なんだよこれ!」


 だがその声は誰にも届くこともなく彼等はそのまま冥界まで引きずり込まれたのだ。


「うむ、私の計画を邪魔しようとした重罪人共よ。

 地獄へようこそ」


「こ、ここは?」


「いったいどこだよ?」


「正真正銘のあの世の冥界よ」


「め、冥界?」


「ななななんだ? いったいどういうことだ?」


 そして般若よりも恐ろしい形相になった伊邪那美が言う。


「よくも私の計画の邪魔をしてようとしてくれたな。

 地獄の責め苦を受けてまずは己の所業を悔いるがいいわ!」


 伊邪那美はヒョイッと彼等を無限地獄へ投げ落とした。


 彼等は衆生が住む閻浮提の下、4万由旬を過ぎて、最下層に無間地獄は一番下層にあり、最も罪の重い者が落ちる。


 そこへの落下にまず二千年も要し、その他の七大地獄並びに別処の一切の諸苦を以て一分として、大阿鼻地獄の苦、1000倍もあるという最悪の地獄で彼らは剣樹、刀山、湯などの苦しみを刹那の絶え間なく受けることになった。


 舌を抜き出されて100本の釘を打たれ、毒や火を吐く虫や大蛇に責めさいなまれ、熱鉄の山を上り下りさせられる。


 そして無限地獄の名にふさわしく人間界の時間では349京2413兆4400億年に当たる一中劫の間永遠に責め苦を追うことになったのだ。


 この地獄に落ちた者は気が遠くなるほどの長い年月にわたって、およそ人間の想像を絶する最大の苦しみを休みなく受け続けなければならない。


 むろんここでは死ぬこともできず、意識を失うこともなく、狂うこともできない。


「も、もういっそ、殺してくれ」


「もうやめてくれぇ」


「ああ、ダメダメ、あなたたちは349京2413兆4400億年の間ここで己の所業を悔いながら苦しむのよ」


「そ、そんな」


「も、もう二度としません、お願いします」


「ならば、まあ、ここは司法取引というやつで手を打ちましょう。

 そのためにあなたがたがやってきたことを全て洗いざらい白状しなさい、仲間がいるのならそいつらの名前もすべてだ。

 白状したら地上へ帰らせてやるが、嘘をついたら閻魔がそれを知らせるから無駄なことはするなよ?

 あと、地上へ戻りもう一度同じようなことをしたらお前たちの家族も一緒に地獄に突き落としての永遠に同じ責め苦を味あわせてやる。

 言わないやつはもう一度無限地獄へ落ちると心得よ」


「わ、わかりました! 全部話します! 証拠も出します!」


「うむ、素直でよろしい。

 ああ、地上に戻ってもいつでもどこでも我々の目はついて回ると思え。


 たまに足首でもつかめば忘れんだろうがな」


「ひ、ひぃい」


「勘弁してください!」


 それにより彼等は今まで行ってきたことを全部話した。


 密航の手引、日本人の殺害と背乗りによるなりすまし、違法薬物の密売、殺人や脅迫、不法占拠なども行っていたことがわかり、彼等と繋がりのあったものもまたも今までやってきたことを全て白状した。


 それとともにつながりがあるほかの大学の大学教員や日教組関係者、文部省の役人に外務省の大使館員達が次々に警察に出頭して、その他の罪を自白していった。


 これにより彼らは法により処罰され、即時死刑が執行された者たちは結果としてはすぐに地獄へ舞い戻ることになったのだ。


 そして東京などの首都圏近辺からは密航してきた外国人の者は皆姿を消したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る