第60話 女性の心理は男に理解するのは難しい

 さて、迂闊な一言で、北条さんたちの機嫌を損ねたらしい俺は長谷部さんの部屋を追い出され、上杉さんのところへ向かった。


 そして上杉さんの部屋の前でインターホンを鳴らす。


 ”おう、どうした?”


 と、あちらのモニター付きインターホン越しに上杉さんが聞いてきたので俺は苦笑してみせた。


「あー、北条さんの機嫌を損ねてしまいまして。

 理由は上杉さんに聞けということなんで、部屋に入れてもらえませんか」


 ”おう、わかった。

 今行くからちょっと待っててくれ”


 やがて玄関のドアが開くと上杉さんが顔をのぞかせた。


「まったく、お前らは一体何をやっているんだ。

 まあいい、とりあえず上がっていけ」


「すみません」


 と、ドアの鍵を締め、部屋に入って靴を脱ぎ揃えて、奥へ戻っていく上杉さんのあとについて行き部屋へ上がる。


 で、上杉さんはダイニングチェアを引いて座って言った。


「で、いったいお前さんは何をしでかしたんだ?」


「実は……」


 と、俺はさきほどの俺と北条さんとのやり取りを説明した。


 そして上杉さんは


「なるほど、それはたしかにお前が悪い」


 とバッサリ俺を切って捨てたのだった。


「”あ、北条さんとかが早くエステに行きたかったら、テニパの女子と行ってきてもいいよ”って、お前は北条たちと日曜日に一緒にエステなんかに行く予定だったのだろう?」


「は、はい、そうです」


「それなのに顔もしらないようなテニパの女子と一緒に行って、北条が楽しいと思うか?

 あいつらはオリ合宿とやらで苦労したばっかりなんだろう?」


「あ……」


「本当にそういうところだぞ。

 まあ、北条はおまえが嫌がらせとかでそういったわけじゃなく、長谷部がメイクアップアーティストから化粧を習うのに一緒に教わらせてもらいたがってるなら、エステも早めに行けたほうが嬉しいとか考えたんだろうぐらいは推測してるだろうがな」


「う、そのとおりです」


「まあ、何が悪かったかがわかったなら、北条の気分が少し収まった所で謝っておけ。

 ついでになにか贈り物でもしてやったらどうだ?」


「プレゼントですか。

 うーん、北条さんなら金を出せば買えるものは大抵買えるでしょうから、何を送れば良いのか……」


「なら金では買えないものか、買えるがお前から贈られることに意味があるものを考えるんだな」


「なるほど」


 俺は北条さんへのプレゼントを少し考えたがどうもうまく思いつかない。


 俺が悩んでる様子を見て上杉さんが言う。


「まあ、すぐ思いつかないなら、少し頭を冷やしてからにした方がいい。

 そうやって頭が煮え上がってるときはロクに思いつかんもんだ」


 上杉さんのその言葉に俺はうなずく。


「そうですね。

 うーん、なかなかとっさには思いつかないものです。

 あ、話は全然変わりますけど、上杉さんが妊娠しているとして、それっていつぐらいにわかるんですか?」


「ふむ、基本的には排卵日から約2週間で検査すれば妊娠していれば陽性になるが、誤差を考慮すると排卵日から約3週間後なら妊娠していれば検査でほぼ陽性になるぞ」


「なるほど、結構掛かるんですね」


「まあ、そのうちつわりもくるからな。

 妊娠すればほぼ分かるさ」


「なるほど、ならできればつわりが来る前に婚約指輪やウエディングドレスを見に行きませんか?

 まあ、ドレスはレンタルでもいいですし、なんならフルオーダーで作ってもいいですし。

 ただ、結婚式を上げるにしても身内だけの慎ましいものにはなってしまうと思いますし、最悪は写真撮影と婚姻届だけとかになってしまうかもしれないですが」


 俺はそう言うと上杉さんは感心したように言った。


「前田にしては良い提案じゃないか。

 なんなら北条にも提案してやったらどうだ。

 婚約指輪やウエディングドレスがあればあいつも少しは心配が減るだろうしな。

 まあ、それは仕方あるまい。

 派手に結婚式を挙げられるのは第一夫人になる北条くらいじゃないか」


「なるほど、婚約指輪やウエディングドレスなら、俺から渡すことに意味があるものになりますし、それは良いですね」


「まあ,つわりが来たからとすぐに動けなくなるわけでもないが、確かに早めに行っておいたほうが良いかもしれないな」


「なら今週の土曜日の午後はどうですか?

 それならつわりもこないと思いますが」


「ああ、私はそれでも良いぞ」


「じゃあ、それで行きましょう」


「了解だ。

 ああ、それからお前に頼まれて買っていた馬券だがな」


「あ、結果が出ましたか?」


「ああ、お前の言った通りでドンピシャあたりだ。

 しかし三連単なんて今年導入されたばっかりだったのによく知っていたな」


「あれ?

 そうなんですか?

 てっきり前からあるものだと」


「ああ、去年までは単勝・複勝・枠連しかなかったが、競艇が先に三連単や三連複を導入して売上が上がったことで競馬も導入したらしい」


「あー、そういえばパチンコが違法になって全部潰れたから公営ギャンブルは売上が上がったはずだけど、競艇は賭けの対象が少なくてあまり面白みがないからと、売上が上がりづらいと北条さんが前に言ってたっけ。

 なんで当たる確率が低いかわりに配当が高い掛け方を追加したんでしょうね」


「まあ、そうなんだろうな。

 しかし、桜花賞も万馬券の18285円だが、大荒れの皐月賞は配当が381700円だぞ」


「ということは100万円賭けたらいくらになったんでしょう?」


「ああ、配当の18285万円というのは100円賭けた分で戻ってくる額だから、桜花賞が1億8285万円、皐月賞は38億1700万円だな」


「そりゃまたえらい金額になりましたね……」


「皐月賞は1着が9番人気で2着が14番人気だからな。

 3着こそ2番人気だがそりゃあ、賭けてるやつも少ないはずさ」


 しかし、レース結果は予定通りだけど、賭け方のルールは本来とは変わってるのか……パチンコを潰した上で競艇の権利を俺達が握ったことでちょっと本来とは変わったようだが、レース結果が変わらないということはトウカイダイオーの三度の骨折や95年の宝塚記念のオコメシャワーや98年の天皇賞(秋)におけるサイレントスズカのレース中に複雑骨折からの安楽死の悲劇は俺が何もしなければ回避できないということだろうな。


 そもそもサラブレッドは体格に対して、脚が細すぎるから骨折などの怪我をしやすいのだが、できればなんとかしたいところだ。


 まあそれはそれとして、そこそこの金額の小遣いが手に入ったならまたそれはそれで使い道がある。


「まあ、来年税金であらかた持っていかれるとはいえ、それだけ儲かったのなら、新婚気分を味わうために金持ちの子供が多いだろう渋谷の松濤にでも一軒家を買って、保育園とかはそこで育てて、あとは子供をどこの幼稚園などに入れたいかで引っ越していけばいいと思うけど、どうでしょう」


「ん、例えば慶応に入れたいなら港区に引っ越すとかか?」


「ええ、まあそんな感じです」


「それはまた随分と思い切ったことをするな」


「基本的に幼稚園からでも住んでる地域で入れる学校は決まってしまいますからね」


「まあ、それはそうだな」


 まあ、大学についても首都圏や近畿圏ばかりにいい大学があるみたいな状況からは抜け出したいとは思うのではあるが、少なくとも上杉さんの子供の幼稚園には間に合わないと思うし、慶応の中も見れれば見ておきたくはあるんだよな。


 そんな俺を見て上杉さんは、ニヤッと笑っていった。


「そういえば前に一度やってからすこし時間も空いたし、今日は私が抜いてやろうじゃないか」


「え?

 い、いいんですか?」


「まだまだお前は経験不足だからな。

 じゃあ、いまからやるか」


「あ、はい……じゃあ今からお願いします」


 というわけで俺は再び上杉さんから色々レクチャーを受けることになった。


「じゃまあ、軽くおさらいだ。

 まず手の爪はちゃんと整えているか?」


「ええ、大丈夫です」


「では、口の中を清潔にとトイレとシャワーを済ましたら、今回は服を着直しておけ。

 今回はお互い着衣状態から始めていこう」


「わかりました」


 マウスウオッシュとトイレにシャワーを済ませてもう一度服を着て、先にベッドに腰掛け上杉さんがシャワーから出てくるのを待つ。


「またせたな。

 今回は比較的脱がせやすい格好に着替えたがまあ、脱がせながらやるのが難しそうなら、素直にシャワーのときに脱いでもらったほうが良いぞ」


「まあ、そうですよね」


 というわけで、上杉さんがベッドに腰掛けたら開始だ。


 ・・・


 気がつくと俺はベッドに横になっていて、俺の胸の上に顔を載せている上杉さんがニコっと笑っていった。


「今回はイかされてしまったし、なかなか良かったぞ。

  できれば可愛い下着だねと下着も褒めながら脱がすとグッドだし、服を脱がすときに手間取ったのは初めてなら仕方ないしな」


「服を脱がせながらするって難しいですね」


「まあ、最初はお互い裸から始めたほうが良いな。

 あまりモタモタしていると気持ちも萎えたり焦ったりするからな」


「ですよね」


「まあスッキリしたところで、明日は北条への詫び入れは忘れるなよ」


「そりゃもちろんです」


 なんだかんだで俺も上杉さんも溜まっていたんだろうかともおもうが、色々教えてくれるのはありがたいことだよな。 

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