第58話 インカレサークルの男尊女卑の闇は深い

 さて、俺の所属しているクラスの模擬店が台湾飲茶で無事かたまったので、俺はほっとして寮へ帰ってきた。


 そして俺の部屋に戻る途中で長谷部さんにとっ捕まって、彼女の部屋へと連れ込まれたのだった。


「あー、長谷部さん、一体どうしたんですか?」


 俺がそう聞くと長谷部さんが言う。


「篠原達から聞いたけど、今年の五月祭では面白そうな企画をクラスの模擬店でやるそうじゃないか」


「ああ、台湾飲茶ですか。

 ええ、そのとおりですが、それがどうかしたんですか?」


「それだけじゃなくて女子はチャイナドレスで客引きとかするって聞いたよ」


「ええ、そうするつもりですが。

 みんな可愛いですし、そうすれば客も増えるはずですしね。

 もしかして女子にそういうことをさせるのは気に入らないとかでしょうか?」


「いや、もちろんそんなことはない。

 むしろテニパでも売上が上がりそうな企画を提案してくれないか?」


「テニパは毎年牛串の屋台って聞いてますけど」


「そうなんだけど、同じような屋台が毎年20店舗ほどあってね。

 やっぱり売上が上がる方法があるならそうしたいじゃないか」


 俺は少し考えたあという。


「確かに20店舗は多いですね。

 んじゃあ、メイド軽食喫茶はどうですか?

 俺が持ってる芸能事務所のアイドルや女優・声優なんかのタマゴが秋葉原の雑居ビルでバイトしてる店でやってることですが」


「メイド軽食喫茶?」


「まあ、これも高校の時の文化祭のゲーム製作部でやったことですけどね。

 女の子が英国のビクトリアンメイドの黒いワンピースと白いエプロンドレスを来て接客し、ホットケーキのはちみつやオムライスのケチャップで簡単な絵を描くってやつです。

 まあ、高校のときに比べると食材の規制が厳しいみたいですから、同じことができるとは限りませんが。

 基本生野菜や生クリームの使用は禁止なんですよね」


「なるほど、メイドコスチュームで目を引くというわけか。

 テニサーだからとテニスウエアで接客するよりは目立ちそうだな。

 ああ、基本的に食中毒を起こしやすい加熱しない食材や牛乳などはダメだな」


「まあ食材は基本、冷凍食品を簡単に加熱処理するだけのはずですけどね。

 今はコロッケやフライドポテト、からあげみたいな揚げ物だけではなくて、ピラフやチャーハンにグラタンなんかの電子レンジで温めるだけでいい冷凍食品も増えてますし、業務用でセントラルキッチン方式のファミレスやレストランなんかで使われてるやつを使ってるから味もいいはずです」


「ん、それは良いことを聞いたね。

 じゃあ、今年はそのメイド軽食喫茶でテニパは行ってみようか」


「やっぱり他のテニサーとの差別化のためですか」


「まあ、それはあるね。

 それにせっかくみんな綺麗になったんだし、インカレサークルのインカレ女には負けたくないじゃないか。

 まあ、あっちはあっちで嫌な思いもしてるかもしれないけどね」


「嫌な思いですか?」


「そうさ。

 インカレテニスサークルの女子のセレクションでの選考基準ってなんだと思う?」


「まあ可愛いとかテニスが上手いですか?」


「可愛いはそのとおりだが、もう一つは美味い弁当が作れるだよ」


「なんですかそれは……」


「インカレではテニスコートの整備やボールの管理、球出しなどは男子がやると決まっている一方で弁当や合宿での調理、配膳、男子の先輩への酌や飲食店のドアを開けるのは女子、特に1年生の女子の役割とされてるんだよ。

 あたしら女子は家政婦じゃないっての。

 なおかつムカつくのは東大男子だけが主要な幹部になれる男子中心運営になっていて、楯突くような女子は排除されるし、インカレサークルが東大女子を排除するのは”それが伝統だから”という建前だけど、実際は”東大女子が入ると男子が実権を握りづらくなって反抗的になるかもしれないから”って聞くしね」


「そりゃ酷いですね。

 女子差別撤廃条約が日本は昭和60年(1985年)に締結されて、男女雇用機会均等法も施行されてるご時世なのに」


「それに即席のクイズ合戦で東大男子から他大女子へのバカいじりをするのが定番というのも聞いたね」


「そこまで来ると完全に男女差別の問題のような気もしますが……まあインカレテニスサークル男子がろくでもない男女差別主義者なのは理解しましたよ」


「だからこそ負けたくないじゃないか、そんな奴らには」


「わかりました。

 俺としても全力で協力しますよ」


「そのためにも五月祭で売り子として参加できそうな、女子にはみんなエステや美容室にいかせてやって欲しいんだけどいいかい?」


「ええ、良いですよ。

 積極的に練習やコンパなんかに参加している女子の数から見て30人程度ですよね」


「まあ、無料で綺麗になれるって聞けば、もっと増えるかもしれないけどね」


「まあ、何千万とかかるわけでもないですし、50人とか100人とかぐらいなら多少増えてもいいですよ」


「まあ、流石に100人はいないとおもうけどね」


 しかしまあ、インカレテニスサークルの闇は思っていたよりだいぶ深いみたいだな。


 しかし元々世界的に見れば女子だけの短大や女子大という存在が異質なのであって、日本の戦後の女子教育は、高等学校における職業専門の課程・短期大学・女子大学も主なものが、私学を中心として発展してきたのも理由にあるのだろう。


 大学生は女子大生とインカレサークルで出会ってお付き合いするというルートも古臭いもののはずなんだが。


 受験生と親の世代間ギャップは受験生側に大きな不幸を招くような気はするな。

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