第54話 固定電話への電話は誰が出るかわからないのが困りものだな

 さて、北条さんとの会話は続く。


「明日は日曜日だし、本当は篠原さんや長谷部さんと一緒に北条さんや斉藤さん、浅井さんもエステや美容室に行こうかと思ってんだよね。

 けど、駒場寮だけでなく三鷹寮の女の子もここに入れたから、先に彼女たちの部屋の家電や家具、寝具などを買いに行ったほうが良いかな?」


 俺がそういうと、北条さんはうなずいた。


「そうですわね。

 最上階はゲストルームとして、最低限寝泊まりに必要なものはおいてありますが、下層階はそれもありませんし。

 今まで寮に入っていた方々ですから、布団などの寝具や洗面用具など最低限寝泊まりに必要なものはあるにしても、家電や家具がないのは不便だと思います。

 しかし、買い物については皆で行けば人数も多すぎますし、斉藤さんや浅井さんが家電や家具を一緒に買いに行くようにしますので、あなたは篠原さんや長谷部さんと一緒にエステや美容室に行ってきてください」


 北条さんの意見に俺はうなずく。


「確かに人数もかなり多いし、買い物をするにしても分かれて行動したほうが効率もいいか」


 俺の言葉に北条さんはうなずき返す。


「それに、インカレの女に我が物顔で東大の中を歩かれて、東大の女は地味で芋臭いなどと思われたり、言われたりするのも心外ですので」


 俺はその言葉に思わず苦笑する。


「長谷部さんもそうだったけど、北条さんや斉藤さんの班のオリターの二年生の女性は、インカレの女子に対してよほど嫌な思いをしてきたんだな。

 インカレサークルに対してもだろうけど」


「まあ、私達は苦労して勉強してやっと東大に入ったのに、女子大の偏差値45から60程度の女たちが、我が物顔で東大のキャンパスを歩き回っていて、わたしたちは入れるサークルの制限があるというのは理不尽ですので」


「まあ、それはそうだよな。

 それに、篠原さんや東京の名門進学校組のみんなも素材は良いのに化粧っ気がなかったり、髪をいじったりしてないから地味な感じに見えてそうなんだよね」


 俺がそういうと北条さんはうなずいた。


「女子校出身で異性の目を意識してこなかったのが、そういう結果に繋がっているのだと思いますわ」


「やっぱり中学や高校が勉強ばかりなのも良くはないんだろうな」


「そうですわね」


「ちなみに北条さんは明日はどうするのかな?」


「私は、私とオリ合宿で一緒だった班の女子のこちらの寮への引っ越しの手伝いや家電・家具などに同行してから、渋谷の物件についての手配などもしますわ。

 流石に直接の知り合いでない方であっても、あの三鷹寮に女子が長くいるというのも気分の良いものではありませんし、もとジャーニーすアイドル向けの渋谷物件も早めに抑えておきたいですからね」


「了解、じゃあ俺は東京の名門進学校の女の子たちにも、明日エステや美容室なんかに行けるか電話をして確認してみるよ」


 そう言って俺が立ち上がると北条さんはニコニコしながら自分の唇を人差し指で軽くトントンと叩いてみせた後、瞳を閉じた。


「ん、ごめん」


 俺はそっと北条さんの唇へと口づけをする。


「んふふ」


 と軽く吐息を吐いた彼女からそっと顔を離すと彼女は目を開け、ふっと笑って言う。


「どうもあなたは年上でスタイルが良くて押しの強い女性に弱いようですので、私も今後は少し積極的に行こうと思いますわよ」


 これは多分上杉さん情報なんだろうな。


 まあ、間違ってないのは確かなんだけど。


「あ、う、うん。

 お手柔らかに」


「とはいえ、在学中に妊娠して留年などということになっても困ると考えてもいる様ですし、その認識は正しいと私も思います。

 なので、上層部と交渉し東大でも飛び級制度を導入するよう働きかけてみようと思いますが」


「まあ、それもありだよな。

 一応日本でも大学早期卒業・大学院飛び入学については昭和52年(1977年)3月に、国立大学協会第二常置委員会で、優秀な学生には3年次終了で大学院入学試験資格を与え、特に優秀な学生を対象に3年次卒業制度を設けているはずだ。

 ただ、東大でもやってるかはわからないけどな」


俺がそういうと北条さんは顔を輝かせて言った。


「それは良いことを聞きましたわ。

 私はただでさえ高校で一度留年していますので、大学は早めに卒業しておきたいですからね。

 もっとも、留年その事自体は後悔などしているわけでもありませんけれども。

 私が留年をしたことで、私や私の一族が大きな利益をあげられたことは間違いないので」


「ま、まあ、それは確かなのだろうとは思うけどな」


「それから、上杉さんですが、下層階から最上階へ移動していただいた上で、あなたの婚約者に加えて、グルメやアミューズメント、リゾートの部門である東京ベイリゾートの統括責任者になっていただとうと思います。

将来的には運転手の方は別の方に頼もうかと」


「まあ、実質的には今でもそういう立ち位置だしな、良いんじゃないかな?」


「それに、私の業務をどんどん分割し、権限を移譲していかないと、いつまでも仕事が引き継げませんので、それでは私はおちおち子供も産めませんからね」


「まあ、今の状態で北条さんに仕事から離脱されたら、ライジンググループの機能が停止するよな」


「そういうこともありますので、あなたには今年高校一年になりました私の妹の麗華とも婚約していただきます。

 妹には学園関係の権限を全て移譲しますので」


 流石にその言葉には俺もちょっと驚かざるを得ない。


「エエエ……妹さんはそれでいいのかな……」


「無論ですわ。

 基本的に私達は入婿で優秀な男性を引き入れて家を繋いできましたし、学園事業も再生工場都市計画に入っている以上は全国展開するのでしょうから、これ以上私が全部抱えているのは大変ですもの。

 むろん、妹の方も問題はありませんわ。

 あなたの嫁になることで今まで私達の一族が行ってきた学園事業を発展させたものを、引き継げるわけですし、私達の学校が急成長できたのも全てあなたのおかげですからねね」


「なるほど北条さんの家は女の子が家業や財産を引き継いでいくって感覚が強いわけか」


「ええ、そういうものです」


 やはりサラリーマンと違い、家業や土地財産を持っているとそれを受け継いでいかないといけないという意識は強くなるようだ。


本当はそういうのが子供を残すためにも大事だと思うんだよな。


「じゃあ、俺は長谷部さんや篠原さんと話をしてから、部屋に戻って他のメンバーが明日の予定が開いてるか確認してみるよ」


「ええ、そうしてあげてくださいな」


 というわけで俺は北条さんの部屋を出て、まずは長谷部さんの部屋へ向かった。


 そしてチャイムを鳴らすと長谷部さんがインターホンに出る。


『おや、いったいどうしたね?』


「明日の日曜ですけど、長谷部さんが大丈夫であれば篠原さんや他の名門進学校組のみんなでエステや美容室へ行けないかなと思ったんですが、どうでしょうか?」


『ああ、あたしは大丈夫だよ』


「じゃあ、篠原さんや他の娘達とも電話で連絡をとってみて、行ける子を確認しますね」


『了解。

 たぶん全員楽しみにしてたみたいだから行けるとは思うよ。

 私も渋谷のエステと美容室にに予約を入れておくからね』


「わ、わかりました。

 場所は渋谷なんですね。

 じゃあ、集合場所も渋谷が良いかな」


『ああ、それでいいと思うよ』


 そうか、みんなエステや美容室に行くのを結構楽しみにしてたのか。


 とりあえず長谷部さんは確認が取れたんで、次は篠原さんだな。


 俺は長谷部さんの部屋の前から篠原さんの部屋の前へと移動する。


 そしてインターホンを鳴らすと篠原さんがインターホンに出る。


『はい、どうしたのですか?』


「ああ、篠原さん、明日は開いてるかな?」


『はい、大丈夫ですよ』


「そうしたら明日の午前中はエステへ、午後は美容室に行って、時間が余ったら服も買いに行きたいけど大丈夫かな?」


『はい、大丈夫です』


「じゃあ、9時に部屋の前で待っていてくれるかな?

迎えに行くから」


『はい、わかりました』


「じゃあ、明日よろしくね」


『こちらこそよろしくお願いします』


 篠原さんもOKと。


 あとは、名門女子進学校組だな。


 まずは村井さんに電話をしてみるが、今時代はスマホや携帯電話じゃないからうまく出てくれるかな?


『もしもし?』


 電話に出たのは女性だが村井さんの声じゃないような気もするな。


「あ、もしもし、私は前田健二と言いますが、村井光乃さんですか?」


『あら、光乃に電話?

 ちょっとまっていてね』


 と受話器が一旦置かれて”光乃ー、男の子からあなたに電話よー”という声がかすかに聞こえてきた。


 そしてしばらくすると女の子の声が聞こえてきた。


『もしもし、前田くん?』


「あ、村井さん、ごめん出たのは村井さんのお母さんだった?」


『そうですよ。

 ポケベルへ1052167か49106を送ってくれたら良かったのに』


「えっと、どういう意味だろう」


『1052167はどこにいるの?で、49106は至急TELですね』


「りょ、了解。

 次回からそうするよ」


『それでどうしたんですか?』


「ああ、明日エステや美容室にいかないかっていう話なんだけど、村井さんの予定が特になければどうかな?」


『オリ合宿のときに言っていた話ですね。

 もちろん大丈夫ですよ』


「じゃあ、明日9:30にハチ公改札の忠犬ハチ公像の前で待ち合わせでいいかな?」


『わかりました。

 明日が楽しみです』


「んじゃあ、明日よろしくね」


『はい』


 というわけで村井さんはOK。


 今枝さんにはポケベルへ49106のメッセージを送ると、折返し俺の部屋の電話へかかってきたのでそれに出る。


「もしもし」


『もしもし、今枝尚子ですが何かありましたか?』


「ああ、明日なんだけど今枝さんの予定があいていれば午前中にエステ、午後に美容室に行けないかなと思って」


『あ、それなら大丈夫ですよ。

 ちゃんと週末の予定は開けてありますから』


「あ、了解。

 それじゃあ明日9:30にハチ公改札の忠犬ハチ公像の前で待ち合わせでいいかな?」


『わかりました。

 明日が楽しみです』


「んじゃあ、明日よろしくね」


『はい』


 という感じで津田さんと成瀬さんにもポケベルでメッセー師を送って折り返しに電話をもらったが二人も週末は開けていたようだ。


 というわけで、長谷部さんにそれを報告する。


「オリ合宿のときの長谷部さん班の女子は全員予定は空けているそうです」


『まあ、そうだろうね。

 こんな機会はそうそうないからさ』


「まあ、そうですよね。

 じゃあ、長谷部さんも朝9時に部屋の前で待っていてください。

 篠原さんと一緒に渋谷まで行きますから」


『わかったよ』


 というわけで明日は長谷部さん班の女の子たちと一緒にエステや美容室にいって、時間が余ったら服も買うで一日終わりだな。

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