第53話 北条さんが大学上層部と話し合った結果は色々驚きだ

 さて、三鷹寮の女の子の荷物を梱包したりなどしてまとめ、上杉さんが借りてきてくれた5トントラックへ積み込んで、5トントラックの助手席に俺、後部座席に斉藤さんと篠原さんに加え青山さんが座り、残りはタクシーで新宿寮まで俺たちは向かう。


 そして、新宿寮へ向かっう途中で篠原さんが俺に言った。


「前田さん。

 大丈夫でしたら青山さんは私の部屋で一緒に住んでもらいたいのですが良いでしょうか?

 正直あの広さのお部屋に私一人だと落ち着かなくて」


 俺はうなずいて言う。


「ああ、篠原さんと青山さんが良いなら俺は構わないよ。

 逆に今は部屋数が足りないからそうしてもらえると正直助かる」


 篠原さんはほっとした表情で言う。


「よかったです」


 そして青山さんは笑顔で篠原さんに言った。


「これからよろしくね」


 そして、新宿の俺達の寮に到着した。


 トラックやタクシーを降り、建物を見た三鷹寮の面々はやはり驚いているようだ。


「えっと、本当に私達ここに住んで良いんですか?」


 青山さんがそう言うので篠原さんは笑顔でうなずく。


「うん、そうだよ。

 私も住んでるから安心して」


 俺は苦笑しつつ言う。


「まあ、青山さんは中を見たらもっと驚くと思うけどね」


 まあ、駒場寮組もそうだったけど、あの状態の三鷹寮からここへ移動するのは流石にギャップもでかいようだ。


 俺は、入り口のオートロックの暗証番号を入力して解除し、開いた自動ドアからエントランスに入るとマンションコンシェルジュの人が出迎えてくれた。


「皆様おかえりなさいませ。

 こちらの五本が下層階のニ部屋のものになります」


「あ、篠原さんの部屋のスペアキーを一本この女の子に渡してあげて、下層階の一本は保管しておいてください」


「承知いたしました」


 マンションコンシェルジュさんは鍵をそれぞれの女の子に渡してくれた。


「斉藤さんは大音さん、竹田さんに山崎さん、玉井さんを部屋に案内してくれるかな」


「ええ、わかったわ」


「篠原さんは青山さんの案内をお願いね」


「はい、大丈夫です」


 そしてコンシェルジュさんが言う。


「以前と同様に皆様方がトラックでお運びになったお荷物については、一度私達でお預かりして後ほどお部屋に運ぶこともできますが、いかが致しますか?」


「はい、前と同じように最低限すぐ必要になりそうなものは俺達で持っていきますので、それ以外はそちらでお願いします」


「では、どのお荷物がどのお部屋に運ぶものかわかるようにだけお願い致します」


「了解しました」


 というわけで、小物の入ったダンボールだけ抱えて、みんなは部屋に向かっていった。


 俺は北条さんの部屋に向かい、大学上層部との話がどうなったかを確認することにする。


「じゃあ、私はトラックを返してきて、そのまま部屋に戻るぞ」


 上杉さんがそう声をかけてきたので、俺はペコッと頭を下げる。


「毎回すみません、よろしくお願いします」


「まあ、これも給料のうちだからな」


 そういってひらひら手を振って、寮の外へ上杉さんは出ていった。


 俺は最上階へ上がっていったエレベータを呼び戻し、乗り込んで最上階へ向かい、そのまま北条さんの部屋の前にたってインターホンを鳴らす。


 ピンポーンと音がなって中から北条さんが応答してくれた。


『あら、他の用事は全て終わったのですか?』


「うん、なんで北条さんに色々聞こうかと思って」


『わかりました。

 では、いまドアを開けますわ』


「よろしくね」


 というわけで北条さんが中から顔をのぞかせた。


「では、どうぞ部屋の中へお入りください」


「では、お言葉に甘えて」


 上杉さんの部屋に比べると北条さんの部屋は生活感は薄めで、その代わり華やかで甘い香りがする。


「ではソファーに座っていてください。

 今お茶を入れますので」


「了解」


 やがて、トレイにティーポット、ティーソーサー、ティーカップ、ティースプーンにミルクポットとシュガーポット、茶請けにビスケットを載せた北条さんが戻ってきて。


「では、どうぞ。

 ミルクと砂糖はご自由に」


「ん、ありがと」


 北条さんがそういった動作をやると優雅で様になるから不思議だ。


「それで女子寮などについての大学との話し合いはどうだった?」


「とりあえず駒場寮と三鷹寮、白金寮の古い建物を取り壊しつつ、新たに建物を立てることについては許可をいただけました。

 ただ、それぞれの寮自治会とは学校側が仲介はできないので、そちらで交渉してくれとのことでしたわ。

 また他にもいくつか行ってほしいことがあるとのことです」


「なるほど。

 一応学校側としては学生自治を尊重するという建前かな?

 他にも?」


「そうですわね、本音では面倒事になりそうなので自分達は関与したくないというところでしょうが。

 ええ、一つは毎回最下位が定位置になっている東京六大学野球での東大野球部の最下位脱出。

 もう一つは学生の女性比率の向上だそうで」


「安田講堂事件の二の舞は避けたいってことか。

 野球部の強化と女子比率向上ね。

 それに関しての権限もこちらに移譲されると考えて良いのかな?」


「ええ、ただし予算は全てこちら持ちだそうですが」


「まあ、それはそう言うだろうな。

 予算に関しては別に問題ないけど」


「そして、安田講堂事件の二の舞は避けたい、大学上層部が引責辞任を強要されるようなトラブルはごめんということでしょう。

 おそらくはですが。

 ともかくまずは駒場寮の寮自治会と交渉して、建物の2つを補修整備しつつ、一つは解体し、更地になったら基礎工事をしたあと、今年度中に完成する予定の新たな女子寮を建設します。

 白金寮にも新たに一棟建物を立てますが、三鷹料は基本寮としての機能は残さず、運動部やサークル用トレーニングセンターにいたしましょう。

 三鷹寮にはもう男子が40名も残っていないはずなので、駒場の部屋が確保できれば、移動は問題ないと思います」


 そこで北条さんは言葉を切って紅茶を口にして喉を潤したあと言葉を続けた。


「駒場寮は明寮、北寮、中寮、寮食堂、駒場小劇場、大浴場に加えて”第一研究室”と呼ばれる南寮からなるそうですが、どこから取り壊しましょうか?」


「それなら一番小さいらしい明寮からでいいんじゃないかな」


「わかりましたわ。

 そもそも、ご覧になっているように駒場寮と三鷹寮の双方は老朽化が激しく、そのため入寮する学生数が本来の定員の半分にも満たない状況で、なおかつ三鷹寮は会計検査院から不効率利用国有地の指定を受けており、このままでは国へ敷地の返還を要求されそうだとのことでもありますからね。

 しかし、首都圏のアパートや下宿の家賃が20年の間に高騰したため、地方出身の学生が安価で住みよい学寮を必要としていることは学校側もわかっていたようです。

 さらに60年代には1学年100人、70年代でも1学年200人と1割ほどしかいなかった女子学生の比率が増大し20%に近づいたにもかかわらず、女子寮は白金寮のみで明らかに女子寮も必要されてることもわかっているようですわ」


「全部わかってるなら、なんでなんとかしないんだろうな」


「国から予算が下りないからだそうです」


「まあ、自分らで金を稼いでいるわけじゃないからな。

 国立の教員はみんな公務員だし」


「しかし、学生自治に名を借りて市民社会のルールを破り、明白な犯罪行為をやめようとしない一部の者達によって、大学の自治が危機に直面しているのも事実なようです」


「もうそういう奴らがいることをテレビや新聞であからさまにしちまうか?」


「大学側はできれば秘密にしてほしいようですけども……実は昭和54年(1979年)12月10日には社青同解放派と革マルで、東大生でない者も呼び込んで武装し、駒場寮を占拠して集会を開いたため機動隊が入構することになったこともあったようです」


「そんなことを言ってるからいつも手遅れになるんじゃないのかね。

 って、そんなことまであったとは」


 そういえば駒場寮が廃寮になった最大の原因は老朽化でも予算がないことでもなく、昭和64年/平成元年(1989年)の風の旅団事件だったはずだ。


 風の旅団は、1970年代に活動したアングラ演劇のテント劇団の曲馬館から派生したアングラ演劇テント劇団で、京都大学西部講堂のほか毎年日本全国を巡業していたが昭和64年/平成元年(1989年)の東京大学駒場寮公演で学生5名の逮捕者を出す刑事事件となったことをはじめ、多くの刑事事件に関わっていて、実際は芸名を使った新左翼セクトに属していた存在だと思う。


 大学構内では、有料の公演は行ってならないことになっているにもかかわらず彼らは駒場キャンパスで有料で公演を行うということを、大学の許可なく決め、寮に泊り込んでいた。


 この結果、機動隊を学内に導入して寮に泊り込んでいる風の旅団のメンバーを実力で排除段階にまでエスカレートしたが、風の旅団のメンバーは、自主的に寮から退去していった。


 しかし、この際、先生が公演推進派の男に首を締め上げられるといった暴行を働らかれたことなどで、東大の学生が逮捕されたことで流石に看過できないと考えたようだ。


「さすがに大学関係者で無いものが大学構内へ勝手に入り込んだり、宿泊していたりに関しては規制していかないといけないんじゃないか?」


「普通に考えればそうですわねr」


 ・・・


 実は彼らがそんなことを話しているときに、ちょっとした危機が起ころうとしていた。


「寮の存続にかかわる重大な問題を事前に寮自治会に知らせることなく勝手に決定された」


「ああ、東大確認書違反だ」


「我々の布教活動を邪魔しようとは許せん」


 東大確認書とは、昭和44年(1969年)1月に東大紛争を終結させるために、学生団体と東京大学総長が秩父宮ラグビー場で署名した「大学と学生自治会との調印文書」のことで、この確認書には”学生に重大な影響を及ぼすことがある場合には、事前に学生団体に知らせること”といった内容が含まれていた。


 そして学生自治会親派の先生によって、学生に情報は流れており、彼らは実力行使でそれを止めさせようと決意した。


 そして新左翼セクトとカルト団体の寮生らはゲバ棒を持ち、へルメットを被り、大学当局への襲撃を行おうとした。


 そして彼等がことに及ぼうとした時に、がっと彼等の両足首を何者かが掴んだ。


「な、なんだ?」


「地面から手が?」


 その両手は地面の下から伸びてきてものすごい力で彼等を地面の下へ引きずり込んでいった。


「な、なんなんだ、これは? た、助けてくれ!」


「なんだよこれ!」


 だがその声は誰にも届くこともなく彼等はそのまま冥界まで引きずり込まれたのだ。


「うむ、私の計画を邪魔しようとした重罪人共よ。

 地獄へようこそ」


「こ、ここは?」


「いったいどこだよ?」


「正真正銘のあの世の冥界よ」


「め、冥界?」


「ななななんだ? いったいどういうことだ?」


 そして般若よりも恐ろしい形相になった伊邪那美が言う。


「よくも私の計画の邪魔をしてようとしてくれたな。

 地獄の責め苦を受けてまずは己の所業を悔いるがいいわ!」


 伊邪那美はヒョイッと彼等を修羅界へ投げ落とした。


 彼等は修羅界で日本の平安末期から南北朝期の武士、いわゆる鎌倉武士からひたすらすら襲撃を受け続けた。


 全身に矢が突き刺さり、太刀で斬り殺され、金砕棒で全身の骨を砕かれて死んでは、また生き返るを繰り返した。


 むろんここでは死ぬこともできず、意識を失うこともなく、狂うこともできない。


「も、もういっそ、殺してくれ」


「もうやめてくれぇ」


「ああ、ダメダメ、あなたたちは宇宙が終わるまでここで己の所業を悔いながら苦しむのよ」


「そ、そんな」


「も、もう二度としません、お願いします」


「ならば、まあ、ここは司法取引というやつで手を打ちましょう。

 そのためにあなたがたがやってきたことを全て洗いざらい白状しなさい、仲間がいるのならそいつらの名前もすべてだ。

 白状したら地上へ帰らせてやるが、嘘をついたら閻魔がそれを知らせるから無駄なことはするなよ?

 あと、地上へ戻りもう一度同じようなことをしたらお前たちの家族も一緒に地獄に突き落としての永遠に同じ責め苦を味あわせてやる。

 言わないやつは一番上の地獄へまわしてやるから1兆6653億1250万年ほど苦しみに悶えるがいい」


「わ、わかりました! 全部話します! 証拠も出します!」


「うむ、素直でよろしい。

 ああ、地上に戻ってもいつでもどこでも我々の目はついて回ると思え。

 たまに足首でもつかめば忘れんだろうがな」


「ひ、ひぃい」


「勘弁してください!」


 それにより彼等は今まで行ってきた暴力行為だけでなく、殺人や脅迫、不法占拠なども行っていたことがわかり、彼等の父親などがその件をもみ消そうと弁護士や警察官に依頼したが、父親や弁護士、警察官なども地獄へ落とされ、同じ責め苦を受けたことで、彼等もまたも今までやってきたことを全て白状した。


 それとともにつながりがあるほかの大学の左翼セクト、カルト教団の者が次々に警察に出頭して、その他の罪を自白していった。


 中には山中や海中への死体遺棄を行っているものも多数含まれていたことがわかった。


 これにより彼らは殺人犯として逮捕され、即時死刑が執行され結果としてはすぐに地獄へ舞い戻ることになったのだ。


 そして東大などに入り込んでいた新左翼セクトとカルト団体は

 ほぼ壊滅することになるのである。

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