第51話 まさか三鷹寮に入ってる女子もいたのか
さて、テニパのサーオリにおける体験練習は終わり、渋谷に移動してのコンパになった。
東大駒場キャンパスから徒歩0分の
京王井の頭線の駒場東大前駅から渋谷駅までは電車で5分もかからないし、徒歩でも25分くらいで行けるらしい。
だから東大のコンパは大抵渋谷の街で行われる。
まあ、移動にかかる時間は同じくらいなので、下北沢で飲むこともあるらしいが。
今日飲んでいるのはかなり古くからあるフランチャイズの居酒屋である敬老乃滝だな。
今回のコンパは参加者が多く、多くの人数が入れるような店となると、座敷席などがある広い店の方が良いため、やはりチェーン店の方が合っている。
まあ、こういう店はセントラルキッチン方式なので、食べ物があまり美味しくないのが欠点だが。
美味いものが食べたかったら個人店やローカルチェーンのほうがいいんだよな。
そして俺の左右に座っているのは、相変わらず篠原さんと長谷部さんだ。
「あんな立派なお部屋に住まわせていただいているのですから、その分ちゃんとお仕事しなきゃいけません」
と、しゃちほこばりながら篠原さんは言っているし、
「あんないい部屋に住まわせてもらったんだ。
こういう場ではサービスとして酌の一つでもしないとね」
とウィンクをしながら長谷部さんも言っていたりする。
北条さんと斉藤さんは微笑ましさ半分に苦笑半分といった感じで二人を見ていたりする。
まあ、この二人には変な下心はないと信頼はしてるんだろうけどな。
で、篠原さんの近くには寺西さんと不破さんに加えて、オリ合宿で一緒の班のだったらしい女の子が二人いて、長谷部さんの方にもオリ合宿のときの班で一緒だった東京の有名進学校4人組がいる。
そのせいもあって、なんか俺の周りだけやたらと女性比率が高い気がする。
とはいえ、基本的に男は男同士で、女は女同士で、オリ合宿のときに同じ班だったような仲の良い連中で固まってお喋りしながら飲んでいるようではあるが。
それが男の場合は篠原さんにあらかじめ釘を差されたように、下手に女の子にからんでテニパを追い出されたくないからなのか、そのほうが楽しいからなのかまでではわからないけどな
そして、篠原さん、寺西さん、不破さんと一緒に飲んでる女の子が気になることを言っているのを俺は聞いた。
「みんなはいいなぁ。
古くてボロい駒場寮を出ることができて。
私も三鷹寮を出られたら出たいけどなぁ」
そこで俺はその女の子に自己紹介をしつつ、話を聞いてみようと話しかけた。
「えっと、ちょっと話を聞かせてもらってもいいかな?
あ、俺は前田健二。
科類は理Ⅰ、初修外国語はドイツ語。
出身高校は千葉県の千葉経済高等学校。
篠原さんとはオリ合宿でバスの席が隣だったことで仲良くなったんだけど、色々あって今は俺が雇用主ってことになってる」
俺がそう自己紹介すると、女の子も自己紹介をしてくれた。
「あ、私は
北海道の北海道立札幌北高等学校から来ました。
科類は文Ⅲ、初修外国語はフランス語。
将来は可能であれば経済学部へ進んだ後、北海道拓殖銀行の総合職融資係になりたいと考えています」
北海道拓殖銀行の総合職融資係という目標はだいぶピンポイントだな。
融資係は支店内で主に企業などの大口融資案件、あるいは住宅ローンなど個人でも高額な担保が必要なローンの申込・受付及び審査・所見を担当し、取り扱う企業などの決算分析や稟議書などの資料の作成も行う部署だな。
「なるほど、銀行の融資係か。
女の子だと一般職で普通に銀行に入っても、窓口に配置されてお茶くみやらコピー取りやらで終わりになる可能性が高いから、わざわざ東大に入ったのかな?」
俺がそういうと彼女はうなずいて言った。
「はい、そのとおりです。
私、高校は札幌ですが、中学校までは苫小牧に住んでいました。
でも今は子供がどんどん減って、街が寂れつつあるんです。
そのために銀行に入って地元企業にお金を融資できるようになりたくて、簿記や財務表などは読めるようにはしているのですが……」
それを聞いて目を輝かせたのは北条さんだ。
「あなた、企業のお金の流れを追うことができるのですか?!」
北条さんの勢いに気圧されながらも大音さんはコクコクとうなずく。
「え。
あ、はい。
それができないと融資なんてできませんし」
北条さんは大音さんの手をガシッと握ると熱弁する。
「す、素晴らしいです。
ぜひ私のところで働いてください。
今の住居が通学に不便なら便利できれいなところに入居できるようにしますし、相応に報酬も出しますわわ」
大音さんは北条さんが誘ってくれるならそのほうがいいだろう。
北海道拓殖銀行の財務状況はもうすでにおそらく良くないからな。
しかし、高校一年生のときの北海道への研修旅行でも、ニ年生のときのツーリングでも苫小牧にはいかなかったから、今年の夏休みには苫小牧にも行っておこうか。
今年の夏休みは行きたい場所が多くてちょっと困りそうだな。
それはそうと大音さんはといえばだが、
「ええっと……三鷹寮から出られるなら助かりますが」
と言いながら彼女はもうひとりの女の子の方に視線を向けた。
「私は
大音さんとは同じクラスの同じ班で寮でも同じ部屋になります。
鹿児島県の鹿児島県立鶴丸高等学校よりきました。
科類は文Ⅲ、初修外国語はスペイン語。
将来は文学部へ進んだ後、新聞社へ入社し、社会部で日本の社会問題を書きながら、南九州の現状などを訴えていく記事を書きたいと思っています」
俺はその自己紹介を聞いて質問してきた。
「鹿児島も今は過疎化が厳しいのかな?」
竹田さんはこくっとうなずいていった。
「はい、長期的に見て鹿児島全体で人口は減少傾向にありますし、65歳以上の老年人口比率もたかまっています。
そして、15歳から64歳までの生産年齢人口比率及び15歳未満の年少人口比率はかなり低くなっています」
「やっぱり、そうなんだな」
鹿児島にも再生工場は建てようと思っていたが、現状はなかなか厳しいらしい。
「千葉県は西部を中心に房総半島南部以外はむしろ人口が増えているようですし、羨ましいですよ。
鹿児島県は桜島の噴火や降灰もあって農業向きではない土地が多いので、農業が盛んではない上に、南九州は熊本での水俣病の影響もあって、工業化も進んでいないのです」
彼女は深刻な表情と声色でそういった。
「なるほどなぁ。
それなら俺と一緒に社会問題を新聞やテレビで取り上げていかないか?」
俺がそういうと彼女は驚いているのか目をパチクリさせた後に言った。
「俺と一緒に?」
俺はうなずいて言葉を続けた。
「ああ、俺は元アカヒ新聞系のライジングサンタイムスや元テレビアカヒ系のテレビライジングサンなんかを持ってるし」
俺がそういうと彼女は唖然としているようだ。
そしておずおずと俺に言った。
「それが本当であればぜひこちらからお願いしたいです」
「ん、了解。
で、君たち二人は今は三鷹寮に入っているのかな?」
俺がそう聞くと二人はうなずいて大音さんが答えてくれた。
「はい、合格発表の後、住める場所を探してもなかなか見つからなくて。
そして寮の自治会の方々が良ければ寮に住まないかと言ってくれたのです。
駒場寮と違って三鷹寮は人がほとんどいないそうなので、まだ安全そうに思えたのですが……建物の老朽化が予想よりひどすぎますし、寮から駅までも遠すぎますので。
三鷹寮から出られるのであれば、ぜひよろしくお願いいたします……ただ」
と彼女は何かを言い淀んでいる。
「ん、ただ、なんだろう?」
そして彼女は言葉を続けた。
「三鷹寮には私達の他にも女子がいるのです。
今の三鷹寮住人は全部で100人もいないとは聞いていますが、多分半分くらいは女子だと思います。
東大唯一の女子寮である白金寮は定員が70名と少なすぎて、よほど運が良くなければ入れないですし、合格発表の後からアパートを探してもなかなか住める場所が見つかりませんので」
「あ、東大も一応女子寮はあるんだ」
「はい、一応は。
しかし、教養学部に在籍する女子だけでも1000人ほどはいますから、定員70名では全く足りていないのが実情です。
しかも、白金寮は東大唯一の女子寮なので、本郷キャンパスの人達も入っていますから、実際に一学年あたりだと20名程度が定員なのです」
大音さんの説明に俺はうなずいて言う。
「まあ、そりゃそうだよな。
在学生の1割に寮が本当は必要だとして駒場キャンパスは6000人で、男女比は4対1ほどだから男子は480人くらい入れる寮があればいいんで駒場寮で十分補えるし、本郷キャンパスには板橋のあたりに豊島寮もあるはずだけど、女子は一つしかなくてしかも定員70名じゃ全然足りないよな。
けど、大音さんや竹田さんはすぐにでも移動できるけど、他にも女子が居るとなるとな……」
俺がそういうと北条さんがうなずいていった。
「今の新宿寮だけでは正直部屋が足りませんわね」
俺は少し考えたあと北条さんへ言う。
「うーん、そうしたら渋谷と恵比寿、代官山の間あたりにジャーニーズが男性グループアイドルを住まわせていたマンションがあるはずだし、そこもいっそ買っちゃわないか?
おそらくセキュリテイや部屋の間取りはそう変わらないと思うし」
俺の提案に北条さんはうなずく。
「それも良いですわね。
新宿の方も建物の権利ごと買い取ってしまいましょう」
「そうすれば、新宿の下層階の空き部屋に加えて、新しい建物にも40人を分散すればなんとかなるだろ。
とは言っても、しばらくは二人で一部屋に住んでもらうしか無いかもだけど」
俺がそういうと北条さんはうなずいた。
「そうですわね。
流石に40人分を一人一部屋全員分用意するのはきついですわ」
「そうだよな。
でも、地方から受験して東大に合格してる人はだいたいみんな独学で勉強してるようだし、卒業後とかの目的もあるみたいだけど、うまくうちの会社で働けるようにしてあげれば、うちにとってもあちらにとってもいいと思うんだ」
俺がそういうと北条さんはうなずいた。
「ええ、私もそう思いますわ。
では、明日の午後にでもまた上杉さんにトラックを借りてもらい、引っ越しをしていましましょうか」
北条さんの言葉に俺は苦笑しつつ答えた。
「上杉さんには送迎もしてもらった上で雑用まで頼んで悪いけどな。
あと、北条さんや斉藤さんがオリ合宿だったときに同じ班だった女子で、三鷹寮に入っている女の子がいたら早めに三鷹寮から出られるようにしてあげたほうがいいかも」
北条さんはうなずいた後言った。
「確かに、知り合いがボロボロの寮に住んでいるとなれば、早めに出れるようにしてあげたいところですわね」
そして斉藤さんもうなずく。
「私も明日にでも確認してみるわ」
「うん、ふたりともお願いね。
ところで二人はオリ合宿でどこに行って、合宿の雰囲気はどんな感じだった?」
俺がそうきくと二人は苦笑した。
そしてまずは北条さんから答えてくれた。
「私達は一日目は山梨の西湖の近くにあるキャンプ場へ行ってカレーを作ったり、湖畔を散策して、二日目は富士急高原ランドへ行きましたがとにかく寒かったですわね。
でも、桜の見ごろでしたので、結果的には悪くはありませんでしたわ」
「ああ、山梨は寒い分だけ桜が咲くのも遅いんだ。
こっちだととっくに散ってるからそれも悪くはないな」
「ええ、でもジェットコースターが売りになる遊園地に寒い時期に行くはどうかと思いますが」
「それはそうだよな」
そして斉藤さんの方はというと。
「私達は舞浜の東京ディスティーランドだったけど、かなり混んでいたから、私はけっこう大変だったわ。
名門進学校出身で知り合いのいる女の子は、おしゃべりして待ち時間も楽しそうだったけど、私みたいに知り合いがいなかったりすると話もなかなか弾まないし、知り合いがいても男子は待ち時間は退屈そうだったわね」
斉藤さんの話を聞いて俺は首を傾げた後聞いた。
「あれ、東京ディスティニーって,結構混んでるんだ」
斉藤さんはうなずいた後言った。
「この時期は春遠足や校外オリエンテーションで、制服姿の中学生や高校生がたくさんいるのよね」
「そういや俺達も高校のときに校外オリエンテーションで行ったっけな」
「流石に家族客や個人客は少ないみたいだけどね」
「まあ、学校や会社がもう始まってるしな。
それはともかくとして女子寮については早急にどうにかなしないといけないな。
今現在三鷹寮に入っている40人前後はライジングの関連会社などで採用して寮に入れるにしても、東大全体で本来は寮が必要な女子は400人以上いるはずだし」
俺がそういうと北条さんはうなずいた。
「今後、東大の女子比率が上がれば、女子寮の定員を増やさなければならないはずですわよ」
「今は女子差別撤廃条約とか男女雇用均等法とかで男女の差別はいけないという世界的な流れだしな。
なるとまずは駒場寮の電気系統とかを補修して電気が来ないから使えない部屋を使えるようにして、潰す予定の建物に住んでる奴には移動してもらい、建物の一つは早めに解体して、二人一部屋の部屋を一階あたり10部屋用意した12階建ての女子寮をまず作ろうか。
一階は玄関ホールで、不審者が入らないように事務室と宿直室から来訪者をチェックできるようにして、来客対応の応接や大食堂に大浴場、ランドリールームも併設。
ニ階は談話室や自習室や図書室、共用の大部屋なんかにして三階以上が学生の居室って感じで。
安全のため、屋内外の各箇所に防犯用のカメラを設置したほうがいいだろうな」
俺がそういうと北条さんはうなずいた。
「ええ、そんな感じでいいと思いますわ。
駒場寮の建物を解体したらすぐにでも建設にかかるとともに、白金寮に対しても同じような建物を早急に建設したほうがいいでしょうね。
私は明日にでも学園上層部と直談判いたしますわ」
「うん、お願いしね。
で、三鷹寮だけど、ここは寮じゃなくて運動部やスポーツ系サークルのための総合トレーニングのための場所にしたほうがいいと思う。
そのために野球やサッカー、陸上などができるグラウンド。
バスケやバレーボールができる体育館。
テニスやバドミントンなどができる室内コート。
トレーニングにも使える屋内プールに筋トレ器具やルームランナーエアロバイクなんかのあるマシンジム。
後は合宿ができるように宿泊可能な場所とキッチン設備とか一式がほしいな。
ここを使えばあんまり金をかけずに強化合宿なんかができるようにしたい。
それに三鷹まではマイクロバスなり中型バスなりでまとめて送り迎えするようにすれば移動も困らないと思う」
俺の話を聞いて大音さんは言う。
「たしかに寮としては通学のために徒歩や自転車、あるいはバスで駅まで通うのは大変ですが、そういう使い方であれば敷地も広いので良いのではないかと思いますよ。
自転車や車があれば、24時間営業のスーパーもありますから、買い物にもそこまで困ることはないですしね。
それにテニスコートや屋外バスケットゴールなどはもうありますし」
「なるほど、通学には不便でも、生活にはそこまで不便ではないのかな?」
「吉祥寺や三鷹の駅前まで行けば、大抵のものは買えますし、周囲に人混みなどは少ないですから静かですしね」
「なるほど、それもそうか」
春の六大学野球リーグはもう始まっているので、強化は間に合わないだろうけど、秋リーグまでには野球部の強化が間に合うようにしたいものだな。
せめて夏休み前には施設を整えたいけど、東大の夏休みっていつからいつまでだろう?。
「長谷部さん、東大の夏休みっていつからいつまでですか?」
「ああ、東大の夏休みは8月1日から9月30日までだよ」
「まるまる二ヶ月間夏休みなら、休みの間に色々できそうですね」
「まあ、テニパでも夏休みの間に三回合宿があるけどね」
「なるほど、そうすると今年はあんまり旅行ばかりはしていられないかな」
俺がそういうと長谷部さんは苦笑しながら行った。
「高校生で毎年毎年旅行ばかりしていたって言うならそのほうがおかしいよ」
その指摘には俺はぐうの音も出ない。
「まあ、そうですよね」
それから俺は斉藤さんや篠原さんへ向き直っていう。
「明日の午前中は、俺達みたいに先輩から入学直後のアドバイスが貰えないような高校出身の人間を集めて、親元を離れて暮らしたり、入学直後にやったほうがいいことをまとめ、できれば冊子にするサークルを立ち上げたいと思ってるんだ。
みんな協力してくれないかな?」
俺がそういうとまず篠原さんが賛成してくれた。
「はい、もちろん私も協力します」
そして斉藤さんもうなずいてくれた。
「私も協力するわ。
実際今まで色々わからないことが多くて大変だったものね」
同じように寺西さん、不破さん、大音さん、竹田さんなどもうなずいてくれた。
やっぱり先輩に東大に入っている人間が少ないとみんな苦労するんだな。
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