第50話 テニスを体験してみたが意外と面白いな

 さて、長谷部さんによるテニパのサークルに関する口頭説明が終わって、その後テニスの体験練習に参加することになった。


「ウェアやシューズを持ってきてるやつはこっちが男子更衣室。

 そっちが女子更衣室だからその中で着替えてくれ」


長谷部さんがそう言うと、結構な人数が男女共に更衣室へ入っていった。


「げ、結構な人数が更衣室に入っていくってことは、ウエアやシューズとかを持ってきた方がいいってみんな知ってるのか」


 やはりOBやOGから入学直後にどのような生徒主体の行事があって、どういう準備をしたほうがいいとかの情報があるないとでは大きい差が出るな……。


 ちなみに篠原さんも更衣室に向かっているが、おそらく昨日、長谷部さんと一緒に服の買物に言ったときにアドバイスされたのだろう。


 まあ、経験者は先輩から教わるとかでなく、ゲーム形式でラリーを楽しみながらサークルの雰囲気を知るというようなもののようだから、服装も整えておいたほうが良かったんだろうな。


 そうでない未経験組は本当にさわりの体験からになる。


 俺は北条さん、斉藤さん、篠原さんと一緒に長谷部さんから指導を受けることになった。


 東京の女子名門進学校の4人組や寺西さん、不破さんはオリ合宿で一緒の班だったらしい女の子たちと4人組を作っているようだ。


 やっぱりオリ合宿の班分けって、本来は友人関係にかなり影響があるんだな。


 どうしたものかと悩んでいたら長谷部さんが俺達に声をかけてきた。


「ウエアやシューズ、ラケットを持ってきていなくても、とりあえずラケットは貸し出すし、動きやすい服と運動靴なら体験の時点では問題ないから、必要であれば汗拭き用のスポーツタオルを購買で買ってきてもらえれば、すぐにでも始められるよ」


「あ、たしかにタオルはあったほうがいいですか」


「ああ、テニスは結構激しく動くからね」


 というわけで、俺達は購買でスポーツタオルを買ってきて体験練習開始。


「まずテニスを始めるにあたって、知っておくべきなのは、テニスラケットの持ち方。

 グリップになる。

 グリップには、大きく分けて4種類があり状況に応じて使い分けないといけない」


「ふむふむ」


「まずイースタングリップは初心者・初級者がストロークをする際におすすめのグリップなので今日はまずこれを覚えてもらう。

 他の3つはサーブ・ボレー・スマッシュで主に利用するコンチネンタルグリップ。

 ストロークでスピンをかけたいときに使うセミウエスタングリップ。

 ストロークでさらに強いスピンをかけたいウエスタングリップ」


 長谷部さんの説明に俺は質問する。


「いろいろラケットの握り方を使い分ければ、相手がボールを取りにくくなるということかな」


「ああ、そのとおりだ。

 と言っても未経験者にそこまで望むのは酷かとは思うけどな。

 まあ習うよりなれよとも言うし、そろそろ実際にラケットとボールを触ってみよう」


 全くテニスが初めてという俺達相手に長谷部さんがラケットの握り方をまずおしえてくれた。


「イースタングリップに握り方はこう。

 みんなやってみてくれ」


 と言われるので俺達は借りたラケットを握ってみる。


「ふむ、北条は経験者のようだな」


 長谷部さんの言葉に北条さんは胸を張って答える。


「ええ、女性でもやりやすいスポーツは一通りやってきましたので」


「そして篠原もなかなか筋が良いな」


 長谷部さんが褒めると篠原さんは照れたようにに少し顔を赤くして言う。


「高校ではバレーボールをやっていましたし、ボールに変化をつけるには回転が重要だというのはわかっていますので」


 そして長谷部さんは俺と斉藤さんに指を突きつけつつ言った。


「しかし、前田と斉藤は本当のど素人のようだな。

 私は前田を指導するから、北条は斉藤と篠原にグリップからフォアハンドでのフォームなどを教えてやってくれるか?

 篠原ができるようになったら二人で斉藤に教えてやってくれ」


「わかりましたわ」


「了解です」


 北条さんと篠原さんは元気よく答えたが、斉藤さんはすでにげんなりしている。


「はあ、ふたりとももよろしくお願いするわ」


 で、長谷部さんは俺に近づいてきて言った。


「前田は、とりあえずもう一度イースタングリップでラケットをグリップしてみてくれ」


 長谷部さんが俺にそういうので俺はラケットを握ってみせた。


「手首の角度はもうちょっと……こう内側になるようにだな」


 と長谷部さんが俺の手首を調整するために手を重ねて教えてくれる。


「ふむ、こんな感じだろう。

 では、次はフォアハンドストロークの動作について教えていくぞ」


「フォアハンドストローク?」


 俺がそう聞くと長谷部さんは説明してくれた。


「フォアハンドストロークは利き腕側でラケットを振ってボールを打つことだ。

 テニスでも最も常識的かつ使用頻度の高いショットだな。

 具体的には……こう」


 と長谷部さんは実際にラケットを振ってみせた。


「とりあえず一回振ってみてくれ」


「あ、はい、じゃあやってみますね」


 と俺はラケットを体の後ろに回して腕の力を使って振ってみる。


「あー違う違う。

 ストロークの際に手や腕だけを振って打とうとしてしまうやつは初人者だと非常に多いが、むしろ大事になるのは、下半身の動きを使ってラケットスイングの力を引き出すことで、この時地面に対する足の押し付けと腰の回転が大事だ」


 というと長谷部さんは俺の後ろに回って右手で俺の右手を握り、左手は俺の腰を押さえながら言う。


「ここで体全体を右側にねじりつつ、右足は45度右後ろに。

 そして体全体をねじりながら右足で地面を押し出すようにしつつラケットを振り抜く!

 手の力はボールをミートするときにだけ込めて後は脱力気味で、ボールを打つというより飛んでくるボールへラケットを置きに行く感覚で振った方がいい」


「あ、はい!」


 手取り足取りで正しいフォームを教えてくれるのは嬉しいが、ちょっと密着し過ぎな気がするのだが……。


 でも周りも完全初心者に対しては同じようにやってるし、相手の体に触ったり密着させながら教えるのが大学だと普通なのか?


 そんな事を考えつつフォアハンドストロークの動作を長谷部さnんと一緒に何度かやると彼女は離れて言った。


「うん、スイングフォームは良くなってきたな。

 じゃあ私が球出しするからボールを打ってみてくれ」


「はい」


 長谷部さんが俺の方へ軽く投げた球をフォアハンドで打つ練習をしても意外とちゃんと打てるな。


 ある程度球出しされた球をみんなが打てるようになったら、そのあと、俺、北条さん、斉藤さん、篠原さんの4人でコート上でのラリーを練習していく。


「ではいきますわ」


 北条さんがゆるく打った球を俺は相手コートに打ち返し、篠原さんがそれを打ち返して、斉藤さんが更に打ち返し、北条さんがまた打ち返す。


「おお、意外とゆるい球ならつながるもんだな。

 それに結構面白い」


 ぽこんぱこんとボールがコートを行ったり来たりするのは本当に楽しいのだ。


 まあ、俺や斉藤さんの打ったボールはコートをオーバーしそうになったりもしているので、それをちゃんと拾ってくれる北条さんや篠原さんの上手さがあってのことではあるが。


 そして、経験者としてもかなり上手な東大女子の東京の名門進学校4人組はすごいスピードでのボールのラリーを続けてるが、上達すればああいうのもできるようになるだろう……多分だが。


 しかし、俺は普段からの運動不足がたたってしばらくすると”ぜえはあぜえはあ”と息切れして、額からブワッと汗が吹き出してきた。


「あーもう体力の限界」


 俺がコートの上でへたると、斉藤さんもほぼ同時にコート上へたってしまう。


「私も、もう無理だわ」


「二人はもう無理か。

 じゃあコートの外で見学していてくれ」


「へーい」


 俺はぐったりしながら返事をして、斎藤さんも力なく返事をした。


「はい、すみません」


 額から噴き出す汗をぬぐいつつ斉藤さんも言う。


 ラリーはコートに残った篠原さんと北条さんの間で行われるのだが、ボールのスピードも上がっていって、東京の名門進学校4人組にも見劣りしないラリーの応酬となった。


 文武両道でスポーツの成績も優秀な北条さんがかなり本気で打っているのに、それについて行ける篠原さんもすごいなと今更ながら思う。


 篠原さんはなんであんなに自己評価が低いのか不思議だ。


「さすが運動経験者はちがうなぁ」


 俺がそうぼやくと斉藤さんもぼやいた。


「私ここでやっていけるかしら」


 俺達に水分補給用のスポドリが入ったペットボトルを持ってきた長谷部さんが笑いながら言う。


「二人はまずは基礎的な筋トレやサーキットトレーニング、ランニングなとからだね」


「ですよね」


「まあ、そうなるわよね」


 俺と斉藤さんの言葉にやはり笑いながら長谷部さんは言う。


「まあ、基礎的な運動不足解消程度でテニスをやるのも悪くはないさ。

 でも、ラリーが続くと楽しいだろ」


 俺はその言葉にうなずく。


「それは間違いないですよね」


 そして斉藤さんも言う。


「はい、ちょっとやっただけですけどテニスは楽しいと思います」


 俺達の言葉に満足そうに長谷部さんは言った。


「そうそう、それでいいんだよ。

 まずはテニスを楽しむのが大事。

 強くなって試合に勝ちたいとかの欲が出てきたらしっかり練習すればいい。

 それがうちのサークルのスタンスだし何も間違ってないさ」


 その言葉を聞いて斉藤さんが笑う。


「そう言われると続けられるような気がします」


「その代わりテニスはコートの広さに対して中にいる人数が少ないから本当に体力はいるのは覚悟しておいたほうがいいけどな」


「基本ずっと左右に動きっぱなしですもんね」


 さすがに疲れたのか篠原さんと北条さんの動きも鈍ってきた。


「じゃあ今日はこのくらいにしておこう。

 この後は渋谷で新人歓迎のコンパがあるんで参加できるやつは参加してほしい。

 新入生の参加費は無料だから本当に気軽にな。

 今月は金が厳しいという奴ほどたらふく食べられてお得だぞ」


 長谷部さんが冗談めかして言うが、引っ越しなどで金がすっからかんというやつも多いのだろう。


 参加者は結構多くなりそうだ。

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