第49話 まだまだ色々と学校行事があるようだが長谷部さん所属のテニスサークルはかなり巨大なサークルだった

 さて、何となくなし崩し的に上杉さんと一晩を過ごしてしまったが、今日もまた学校で行事があるので、彼女の部屋のベッドの上でのんびりはしていられない。


「じゃあ、俺はいったん自分の部屋へ戻りますね」


「ああ、私も送迎のための準備をしないとな。

 じゃあ、またあとで」


「はい」


 俺は自分の部屋に戻って、念のためシャワーを浴びなおしておいた。


 そして、シャワーを浴び終わって、服を変え、ドライヤーで髪の毛を乾かしているときに、浅井さんがいつものように朝食を作りに来てくれた。


「おはようございます」


「うん、おはよう。

 いつもいつもありがとうな」


「いえいえ、私が好きでやってることですので」


 そう言ってにこにこしている浅井さんへ俺はオズオスと言ってみる。


「ええと、あのさ、浅井さん。

 キスした後でぎゅっと抱きしめてみてもいいかな?」


 俺がそう言うと、浅井さんは目をぱちくりさせて驚いていたがやがてにっこり笑って言った。


「もちろんです」


「じゃ、じゃあ、目を閉じてくれるかな?」


「あ、はい」


 浅井さんは俺の言葉に素直に従って目を賭した。


 俺はすっと浅井さんの唇へ顔をよせてキスをした後、両手を彼女の背中に回して優しく抱きしめる。


「浅井さんはあったかいな」


 俺がそう言うと浅井さんは俺の背中に手をまわして、俺をぎゅっと抱きしめたあと笑顔で言う。


「えへへ、こうされるとなんだか安心できますね」


 少しの間俺たちは抱き合っていたが、やがてお互いに手を離した。


「さて、朝ごはんを用意しちゃいますね」


「ん、今日は浅井さんの時間を取らせちゃったから準備を手伝うよ」


 そう言うと浅井さんはいたずらっぽく笑っていった。


「なら、毎日やってもらっても、私はいいんですよ」


 冗談めかして言う浅井さんだが、心の底から嬉しそうな笑顔だった。


 キスして抱きしめるくらいのことは、もっと早くやってあげるべきだったかな?


 上杉さんと一線を越えたことで、いろいろ踏ん切りがついたのはいいことなんだろう、たぶん。


 でも見境なく女の子に手を出しまくって、やりまくったりするようになったりしないようには気を付けないとな。


 今日はまだ授業はなく、健康診断に学部ガイダンス、クラスの集合写真撮影に必修講義の教科書購入とサークルオリエンテーションだ。


 健康診断は会社などで行うやつと同じで高校までの身体測定に加えて、心電図や血液検査、内科の問診なんかも加わるが、まあ特に問題はないだろう。


 それから学部ガイダンスでは、教務課や教員から、駒場キャンパスの各施設利用方法や講義の履修上の注意などが説明される。


クラスの集合写真撮影は高校なんかでもやってることと同じようなものだな。


 必修講義の教科書購入はその通り科類ごとに決まっている、必修授業の教科書を買う。


 選択講義については最初は説明があって、2週間ほどしてはっきりと履修する講義が決まったら、その後に教科書を買うことになる。


 とはいえ、オリ合宿での時間割で履修する講義はもう大体決まってるけどな。


 そのあと、午後と明日いっぱいは、サークルオリエンテーションで、各サークルが教室や屋外運動場,あるいはサークル棟の部屋などに各サークルのブースを設営して、新入生が自主的に教室やブース、サークル部屋などを巡回してみて回る。


 そして、各サークルは簡単な口頭でのサークル活動の内容説明や、実際に練習や試合をして見せて、今日と明日の夕方にはサークルでの新人歓迎飲み会があるはずだ。


 大学は本当飲み会多いよなと思うが、理Ⅰ女子などはクラスよりもサークルのほうが友人関係の行動のメインになる場合もあるらしいからこういう機会は大事らしい。


 ちなみに主に2年生による新入生のためのオリエンテーションは、女子オリエンテーションに、クラスのプレオリエンテーション、オリエンテーション合宿、サークルオリエンテーションなどがあるが、これらは学校公認だが生徒の自主的な活動であって、学校の公的行事ではなかったりする。


 で、準備ができたら、いつも通りにリムジンへ乗るのだが、今日は俺の左右に長谷部さんと篠原さんが座ってるのが違うところだ。


 でまあ、俺と篠原さんは駒場キャンパスの地図を前に今日と明日、近づかないほうがいい場所を長谷部さんから教えられている。


「今日と明日のサークルオリエンテーションで行っちゃいけない場所、あと東大女子お断りのインカレ女がいるサークルの場所はこの辺りとかこの辺りだね。

 目立つ活動はしてないとはいっても、カルト系のサークルもまだあるし、インカレの勧誘は結構強引だから気をつけな。

 ちなみに東大には大小様々でメジャーなものからマイナーなものまで、約300個のサークルが存在する。

 それこそ起業や国際交流に至るまで、選択肢が多いよ」


 長谷部さんの言葉に俺はいう、


「300は多いですね。

 まあ、起業も国際交流もすでに俺たちやってますけど」


俺の言葉に長谷部さんは苦笑している。


「それから、東大に入った先輩の少ない高校出身だと、人脈が少ないので少し不利だったりもする」


「じゃあ、寺西ちゃんや不破ちゃんも一緒に誘ってあげたほうがいいかな?」


 篠原さんの言葉に長谷部さんはうなずきながら話を続ける。


「そうだな。

 変なサークルに入らないようにするためにもそうしたほうがいいと思う」


 長谷部さんの言葉に篠原さんはコクっとうなずく


「わかりました」


 本当に高校までの人脈の広さ狭さの影響はでかいんだな。


「それと、大学のサークルは高校の部活と違い、気軽に入って練習に来なくなったらああ続かなかったかぐらいだから体験入会は本当気軽に試してみてほしい」


「そんなに適当でいいんですか?」


俺がそう聞くと長谷部さんは笑っていう。


「まあ稀に、新歓期とそれ以降で雰囲気が変わったりする団体もあるし、東京大学運動会に加入している運動会運動部とかは大学の代表として関東学生連盟や東日本学生連盟といった各競技連盟の主催する公式戦や、旧帝大の交流戦である”七大戦・七帝戦に出場するからかなり高校の部活に近いがな。

 基本はそんなに拘束はきつくない。

 サークル活動よりバイトや研究優先になるやつも多いし」


 俺はその言葉にうなずく。 


「まあ、そうですよね。

 わかりました。

 気楽に行ってみますよ」


 俺がうなずいてそういうと、篠原さんも緊張気味に言った。


「は、はい、初のお仕事ですし、頑張ります」


 篠原さんの様子を見て苦笑した長谷部さんが言う。


「あたしもついていければいいんだが、サーオリの受付側の参加をしないといけないんでな。

 あたしたちはここのテニスコートにいるから気軽に来てくれ」


「わかりました」


 俺がそう言うと北条さんが言った。


「あら?

 あなた達はもうテニスサークルに入ることに決めているのですか?」


 俺はうなずいて答える。


「うん、オリエンテーション合宿のドッジボールで運動不足を痛感したし、どうせなら知り合いがいるほうが良さそうだしね。

 それはそれとして卒業生にOBOGが少ない生徒用の情報共有サークルは立ち上げるし、ほかのサークルも見ておこうかとは思うけど」


 なるほどとうなずいた北条さんは言った。


「では、私もテニスサークルへ入りましょう。

 確かに私たちの高校での運動不足は結構深刻ですわ」


 そして斉藤さんも言う。


「私もはもともとスポーツをしてこなかったからどうしようかしら……」


 そういう斉藤さんに長谷部さんが言う。


「うちは未経験者も大歓迎だし、ちょっと試すだけでもどうだい?」


「なら私も一度試してみるわね」


 そして篠原さんも言う。


「ええと、私も当然同じテニスサークルに入らないとだめですよね」


 それに対しては北条さんが、うなずいて答えた。


「それは当然、ですわね。

 サークル活動のときは私たちも一緒にいる予定ですが、活動場所までの移動時までは一緒には行動できませんし」


「は、はい。

 では、長谷部さん。

 よろしくお願いします」


 相変わらず緊張してるらしい篠原さんに長谷部さんは笑って言う。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」


「というか……こんな高そうな車に乗るのは私初めてで……」


篠原さんの言葉に俺は苦笑しつつ言う。


「まあ、俺も最初はびっくりしたけど、乗り心地はいいし、静かだし悪くはないよ」


「そういう意味合いではないんですが……」


 学校に到着したら、各自はバラバラに自分が所属するクラスが使う教室へむかい、上杉さんは寮へ戻っていく。


 そしてクラス教室に到着すると、オリ合宿のときに篠原さんと班が一緒だった女子の村井さん、今枝さん、津田さん、成瀬さんたちが笑顔で篠原さんに小さく手を振っていた。


「みなさん、おはようございます」


「おはようございます」


 と挨拶する篠原さんに続いて俺も彼女たちに挨拶をする。


「村井さん、今枝さん、津田さん、成瀬さんおはよう」


彼女たちから挨拶が戻ってくる


「前田さんもおはようございます」


 そして大槻くん、横山くん、奥村くんらとも合流する。


「大槻くんは野球部に入るのかな?」


「ああ、その予定だ」


「横山くんと奥村くんはどうするのかな?」


 俺の質問に横山くんは頭をかきながら言う。


「せっかく大学生なったし、女の子が多そうなサークルに入りたいと思うんだよな」


 そして奥村くんも言う。


「俺も同じように思ってる。

 勉強ばっかりで華も潤いもない生活からやっと抜け出せたし、少しは異性と遊びたいしな」


「なるほど」


 高校までは異性と付き合ってる場合じゃなかった分を取り戻したいってところか。


 午前中の行事を篠原さんと一緒にクリアしていき、午後になって長谷部さんのサークルスポーツ愛好会テニスパートへ、篠原さんと一緒に向かおうとしたら、村井さん、今枝さん、津田さん、成瀬さんも篠原さんと一緒に行こうとしているらしい。


「もしかしてみんなもテニパに入るつもりなのかな?」


 村井さんが笑顔で答える。


「はい、わたしたちは高校で硬式テニスをやっていましたし、学内サークルで適度に楽しめそうなテニスサークルはスポーツ愛好会テニスパートしか無いようでしたので」


「ああ、東大女子が入れる学内サークルってかなり限られてるんだっけ」


「ええ、そうなんですよ」


「雇用なんかでは男女の機械の均等化を歌ってるのに、東大のシステムは色々古臭いよな。

  どうにかして変えていければいいんだけど」


「そうあってほしいと私達も思います」


 で、サークルの活動拠点であるクラブハウスにつくと北条さんや斉藤さん、寺西さんや不破さんとも合流できた。


寺西さんや不破さんも同じクラスの同じ班らしい女子なんかと一緒だ。


 うん、殆どが見事に知り合った女性ばかりだが学内サークルで女性比率がそこそこ高いサークル自体がそう多くないからなぁ。


 そして長谷部さんが大きく手を降って俺を呼ぶ。


「おお、よく来てくれたな」


「ええ、まあ、約束ですし」


「じゃあ、集まってくれたみんなはクラブハウスに入ってくれ。

 まずは口頭でのうちのサークル説明からはじめるよ」


 というわけでゾロゾロと俺達はクラブハウスへ入っていく。


「ようこそスポーツ愛好会テニスパートへ。

 うちは知ってのとおり学内サークルで、東大女子もたくさん在籍している。

 テニパの所属人数は1学年約100人で、男女比は1:1。

 スポ愛はテ二パ以外にもバスケ・バレー・サッカー・卓球・バドミントン・軟式テニスの6つのパートがあり、全体で1学年250人男女比もほぼ1:1という駒場最大規模のサークルさ。

 そしてうちは駒場のテニスコートがほぼ毎日使えるので交通費やコートの使用料金などもかからない。

 さらに普段は本郷キャンパスに通う先輩や社会人のOBやOGも練習に参加して指導をしてくれるのが他のサークルと違うところだな。

 テニスの強さも東大内の個人戦、東大オープンでシングルスベスト16またはダブルスベスト8以上となった東大オールを輩出するなど東大のテニサーの中でもそこそこ強い部類に入るよ。

 しかし初心者お断りじゃなく、指導の手厚さは東大随一と自負している。

 また年間5回の合宿や、夏には花火大会、秋にはハロウィンパーティ、冬にはクリスマスパーティ、そして春には桜の花見などイベントも充実している。

 それにスポ愛全体で行う総合合宿やスポーツ大会に参加することで、テニス以外のスポーツも楽しむこともできるよ。

 自由で楽しい雰囲気でのテニスを楽しむことを重きをおいていて、兼サーや勉強との両立ももちろん可能だ。

 学校内の他のテニサーとの対抗戦やさらにスポ愛合同でのイベントもあるためスポ愛他パートにもたくさん知り合い友達ができるメリットも有る。

 まあそんな感じなんで、気軽に硬式テニスを楽しんでほしい。

 まずは新人歓迎の練習会やお食事会、飲み会に来て、是非スポ愛の魅力を自身の目でみて感じてください」


 なるほど、ここはかなりでかいサークルだったのか。


 とはいえ名前だけ所属してるような幽霊サークル会員も結構いるんだろうけど。


 そこで篠原さんが手を上げて質問した。


「あ、あのすみません。

 サークル活動費はどのくらいかかるのでしょうか?」


「活動費は入会費8000円、 前期会費5000円、 後期会費5000円を徴収している。

 新歓費は4月のみ10000円で2年生以上が払う。

 テニスラケット、シューズ、ウエアなどが合わせて30000円から40000円程度。

 張り替えるためのガット代が3ヶ月に1回で3000円程度。

 その他参加は任意となるがサークル対抗戦や遠征への参加費用が1回5000円に、飲み会もセットで合わせると10000円程度は見てほしい

 クリスマスパーティーなどのイベント参加費用も5000円から10000円程度。

 合宿費用は1回30000円程度となる」


それを聞いて篠原さんはしゅんとなっている。


「結構掛かるんですね……」


「しかし、安心してほしい。

 初人者で必要なものを持っていないが、やる気があるという者にはラケットやシューズ、ウエアなどを貸与するし、大会で上位に入れるような力をつけてもらえれば大会や合宿の参加費用なども免除することができる」


それを聞いて篠原さんは持ち直したようだ。


「それならなんとかなるかも?」


俺はこっそり篠原さんにいう。


「心配しなくても金はうちの会社から出るよ」


「あ、そ、そうでした」


そして長谷部さんは言葉を続ける。


「テニスはカネがかかるからできないなどと考えないでまずは気軽に体験してほしい」


 そう言って長谷部さんは俺にウインクを投げかけた。


 まあ、そういう費用援助なら別に北条さんも怒らないだろう。


 もっとも名門進学校出身お嬢様たちはそのくらいは普通にかかりますよね、と言っているし、高校でテニスをやるとしてもカネがかかるんだな。


「それからうちは女性比率が高いからといって、ナンパやヤリモクでの入会はお断りしている。

 そういうのがやりたければインカレサークルに行くこと。

 経験者でも初心者でも会員として大事なのはサークルの空気に合っているかと基本的なコミュニケーション能力があるかになる。

 だから新歓コンパとかでも振る舞いはきっちり見るし、嫌がっているのに新入生の女子にしつこく絡んだりするやつははじきだすからな」


 そういえばスポーツ愛好会からは後に起業家ががかなり輩出されるようになったと聞いたことはあるな。


 なんせメンバーが多く縦にも横にもつながりが強いのでOB、OGの情報交換の飲み会が、起業家や起業に興味を持つ学生らの交流イベントとなっていって先輩や後輩のスカウトにまでつながっていったとか。


 うん、やっぱりメインのサークルはここがよさそうだ。

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