第48話 浅井さんと上杉さんにお土産を持っていったが……

 さて、篠原さんたちへの部屋の説明も終わり、二人は明日以降に着るための服を買いに行ったので、俺は自分の部屋に戻った。


「ただいまー」


 俺が何気なしにそう言うと、部屋の中から声が帰ってきた。


「はい、おかえりなさい」


 そして俺を出迎えてくれたのは浅井さんだ。


 部屋の中から味噌汁のいい匂いも漂ってくる。


「いつもありがとうな。

 御飯食べる前に……」


 と俺はリュックサックの中から、下田で買った土産物を探して取り出した。


「これ下田の駅前で買ったおみやげ。

 金目鯛やアワビの干物とか 金目鯛炊き込みごはんの素に、下田名物のアンパンなんか。

 芦名さんや佐竹さんの分もあるからみんなで食べてくれな。

 後はミサンガを三人分買ってきたから身につけてくれると嬉しいかも」


「ミサンガですか?」


「うん、これはポルトガル語で”ポン・フィン”って言われていて”美しい結末”や”良い終わり”という意味があるんだよ。

 で、編んで身に着けたミサンガが、自然に切れると願い事が叶う、といわれてるんだ」


「そうなんですか?

 じゃあ早速つけちゃいますね」


 そういって浅井さんはミサンガの一本を左腕の手首につけた。


「ブレスレットほど派手じゃないし、可愛らしいから女の子にはいいかなって、思って買ったけど似合ってるよ」


 俺がそういうと浅井さんははにかんだように微笑んで照れながら言った。


「えへへ、そう言ってもらえるととっても嬉しいです」


 その後、俺は浅井さんと一緒に軽く夕食を取った。


 そして後片付けが終わった浅井さんは自分の部屋に戻っていく。


 後は上杉さんにも土産物を持っていかないとな。


 俺は土産物などを手にして上杉さんの部屋の前に向かいインターホンを鳴らす。


 ”おう、どうした?”


 と、あちらのモニター付きインターホン越しに上杉さんが聞いてきたので俺は土産物を掲げてみせた。


「お土産を持ってきたんで、部屋に入れてもらえませんか」


”おう、気がきくな。

 今行くからちょっと待っててくれ”


 やがて玄関のドアが開くと上杉さんが顔をのぞかせた。


「まあ、お前らの部屋に比べれば狭いところだが上がっていけ」


「あ、はあ。

 じゃあ、せっかくなのでお邪魔しますね」


 と、ドアの鍵を締め、部屋に入って靴を脱ぎ揃えて、奥へ戻っていく上杉さんのあとについて行き部屋へ上がる。


 上杉さんはなんとなくプライベートではちょっとズボラなイメーシだったんだが、部屋の中はきれいに整えられているな。


「ん?

 私の部屋がきれいに整えられているのが意外か?」


「あ、まあ、なんとなくそんな感じなのかなぁと思ってたんですが」


俺の言葉にケラケラと笑い上杉さんは言う。


「たしかに女がみんなきれい好きというわけじゃないが、部屋に人を呼ぶ経験があればそれなりに整えておくものさ」


「ああ、まあそりゃそうですね」


 で、上杉さんはダイニングチェアを引いて座ってニヤニヤ笑った。


「で、私には土産として何を持ってきてくれたんだ?」


 俺は苦笑しつつ土産物テーブルの上に置く。


「金目鯛やアワビの干物とか 金目鯛炊き込みごはんの素にしらす干し。

 後は上杉さんにはシルバーのブレスレットと夕食のときにくすねてきた伊豆の地ビールに自酒です」


 土産物を見て上杉さんはニコニコしている。


「うん、うん。

 酒の肴にピッタリだし、お前は本当気が利くな。

 それに大学生の歓迎会とかなら酒も飲まされただろう」


 俺はその言葉に苦笑して言う。


「ええ、みんなバカスカ飲んでましたね。

 俺はちびちび味わいながら飲んでましたが」


「そうそう、本来酒は味わうためのもので、酔うのは目的じゃないんだがな」


「たしかに世界各国の料理に酒を加えて味を引き立てることはやりますしね」


「そうそう。

 しかしお前もやっと酒の味を覚えたか。

 博打も馬券を私に買わせたし……後は女だな。

 お前、周りの女たちにキスのひとつでもしたか」


「え、ええと、まだ……ですね」


 上杉さんはそれを聞いてふうとため息をついて言った。


「あのなぁ、北条なんかはお前が婚約者に指名してきたのに、一向に何もする素振りがないから自分に女性としての魅力がないか、実は男の恋人がいるホモで、自分達は隠れみのに使われてるだけじゃないのかって悩んでるんだぞ」


上杉さんのその言葉に俺は驚愕だ。


「えええ、北条さんはとても素敵な女性だと思うし、俺はホモじゃないですし。

 手を出さないっていうのは、今はそういうことより優先してやらないといけないこともありますし、もし最悪妊娠させちゃったら彼女たちも困るだろうと思うし……」


そして北条さんはニヤリと笑っていう。


「それに女の扱い方もわからないし……か?」


「ええと、まあそういうのも……ありますね」


「まあ、浅井は人気のアイドル声優だから妊娠などという話が出たら大騒ぎだろうし、北条や斉藤が妊娠して留年なんてことになっても困るか。

 大学でもせめて3年生以降でないと余裕はなかなかないだろうしな」


「ええ、そうだと思うんです」


「ふむ……」


 と上杉さんはしばらく考えていたが、ニヤッと笑っていった。


「ならお前には私が女というものを教えてやろう。

 安心しろ一晩過ごしたから責任して結婚しろとか言い出すつもりはない」


「え?

 い、いいんですか?」


「別に私は処女でもなければ、付き合った相手がいなかったわけでもない。

 ついでに言えば今付き合ってる男もいない。

 教師というのは出会いがない上に年の近い男が少ない上に拘束時間も馬鹿みたいに長いからな。

 おっとこれでも短大時代は結構モテていたからな。

 それにな、初めてのときに両方が経験なしだと結構悲惨なことになるぞ」


「そ、そうなんですか?」


 俺がそう聞くと上杉さんはコクっとうなずいた。


「ああ 私なんぞ処女を捨てようとしたときの初めての相手も童貞で、なんとなくいい雰囲気になってことに及ぼうとしたものの、結局あっちが勃たずじまいで終わってな。

 雰囲気の気まずさとかもあって、その後自然と疎遠になったが、私は女として駄目なのかと悩んだよ」


「あ、ああ、たしかにそういう話も結構聞きますね」


「だから最初は経験をそれなりに積んでるやつにリードしてもらった方がいいんだよ。

 男でも女でもな。

 それとも私が相手では不満か」


「いえいえ、そんなことはもちろんないです!」


 上杉さんはフット笑う。


「では、善は急げと言うし、今からやってみるか?

 いやなら別に急がなくともいいが」


「あ、はい……じゃあ今からお、お願いします」


 というわけで俺は上杉さんから色々レクチャーを受けることになった。


「じゃまあ、事前準備からだな。

 今回は突然だから準備をしていないかもしれないが、チャンスなんぞいきなり訪れるものだし、基本的にはいつでも可能なようにしておけ。

 まず手の爪を短く切るだ」


「爪ですか?」


「ああ、爪が長い指を膣などに入れたり、表面を触ったりすると性器などを傷つけやすいし、爪が長いと汚れも溜まりやすいからな。

 深爪してると思うくらい短く切った上で、やすりを垂直にあてて角を削ったあと、あれば爪のささくれ防止にワセリンを塗るともっといい。

 ともかく指先を自分で触っても痛くないことを確認した方がいいぞ。

 特に処女相手だと相手は痛いだけの可能性も高いから指を入れるなら丁寧にな」


「え、あ、はい」


「じゃあ、爪切りを持ってくるから、今すぐ切れ」


「わ、わかりました」


「その次は口の中を清潔にするだな。

 最低限マウスウォッシュで口腔内の菌を洗い流しておけ。

 歯磨きだと歯ブラシの硬さによっては歯茎などの口腔内を傷つけやすいのであまり進められん。

 マウスウォッシュと丁寧なうがいで十分だ」


「あ、はい」


「それから事前に必ずトイレとシャワーを済ませておけ」


「ああ、やってる途中でトイレになんて興ざめですもんね」


「当然だ。

 順番としてはトイレに入ってから、シャワーで全身の隅々まできれいにするんだが、特に夏なんかの暑くて汗をかく季節は股間や性器の周辺、肛門の周辺と脇の下は丁寧にあらって嫌な臭いとかがしないようにしろ。

 臭いとか汚いは論外だ。

 後、このとき頭は洗うな。

 髪の毛が濡れると面倒くさい。

 今回は私が使ってるボディソープを使って体を洗うといい」


「ま、まあ、そうですよね」


 俺はシャワーをあびるためにバスルームに向かおうとする。


「それから私はいまのうちににシーツを新しいものに交換しておくが、自分の部屋の寝具でやるなら、ベッドや布団のシーツは常に洗濯してきれいにしたうえで、できれば布団乾燥機や掃除機をかけてきれいにしておいた方がいい。

 意外と髪は寝ている間に抜けたりするし、湿気った布団では気持ちが良くないからな」


その言葉を聞いて俺は一度足を止める。


「セックスって……結構準備だけでも大変なんですね」


「まあ、慣れてきたらそこまで神経質にならなくても良いがな。

 それに慣れてきたら雰囲気でうがいだのシャワーだのをすっとばして、お互い着衣状態から始めるなんてこともあるし、そのうち上手な女の服の脱がせ方も教えてやろう。

 じゃあこっちは終わったし、一緒にシャワーへ行くか。

 洗っているところも見ておいて、ダメそうなら直してやる」


「うへぇ……」


 俺達は順番にトイレを済ませてから、うがいとマウスウオッシュで口を清潔にした後、脱衣所で服を脱いで素っ裸になって、二人でシャワーに入る。


「今回は一緒に入るが基本的には先に入って全身をきれいにしておけ。

 仮に二人で入ってもシャワーの途中で相手の体を触ろうとするなよ。

 鬱陶しがられるぞ。

 雰囲気が良くても、せいぜい軽くキスするくらいにとどめておけ」


「わ、わかりました」


「後、女の方も男の首筋などを舐めるかもしれないから、首や鎖骨周辺くらいまでは洗っておけ。

 時間を掛けすぎない程度に全身くまなくな」


「あ、は、はい」


 おれが首筋から手の指先に足の指先まで荒い、特に脇の下や股間などを丁寧に習ったのを見てうむと上杉さんはうなずいた。


「まあ、そのくらいしておけばいいだろう。

 次は私だが先に出ていてもいいし、気になるなら見ていてもいい。

 言っておくが手伝いますよとか言って、こっちの乳房や性器を洗おうとして触ろうとしたりするなよ」


「え、あ、はい。

 じゃあ、先に出てますね」


「わかった。

 棚にあるバスタオルで体を拭いたら、ハンドタオルで股間を隠してベッドにでも座っていてくれ」


「はい」


 脱衣所に出てバスタオルで体を拭きタオルを腰に巻いて、俺は洋室のベッドへ先に向かい腰掛けた。


 しばらくすると上杉さんも浴室から出てきたベッドへ腰掛けた。


「では、始めるか。

 此処から先はあれこれ言い過ぎると萎えるだろうしある程度好きにやってみろ。

 あんまり下手すぎたり、十分に濡れてもいないのに入れてしたら止めようとするがな。

 女相手には最大限に優しくだ。

 相手の体を触るときもな」


「は、はいじゃ、じゃあ行きますよ」


 俺は上杉さんに顔を近づき、そっと唇を重ね、ことをはじめた。


 ・・・


 気がつくと俺はベッドに横になっていた。


 そして、俺の腕の上に顔を載せている上杉さんがニコっと笑っていった。


「おはよう。

 初めてで経験がないにしては悪くなかったぞ。

 随分溜まっていたみたいで私の中に大量に出したしな」


「あ、あははは、最後の方は無我夢中で何がなんだかって感じでしたけど」


「まあ、私もしたい気分だったし、ゴムもつけていなかったから、もしかしたら妊娠したかもしれないが、実際に私が妊娠していたらどうする?」


「それはもちろんちゃんと産んでもらいますし、一生親子の面倒も見ますよ」


「ああ、それなら良かったよ」


「けどいま妊娠すると産まれてくるのは2月終わり頃から3月最初あたりで、早生まれだから小さいときは大変かもしれませんね」


 俺がそういうと上杉さんはくくっと笑った。


「それはそういうものだから仕方がないさ。

 まあ、お前が相手の女が妊娠したら連絡を取れなくなるような奴だったり、ためらいもなく堕ろせというような奴でなくてホッとしたがね」


「そりゃもちろんですよ」


「世の中にはそんな奴もたくさんいるんだよ。

 一回やっただけで連絡が取れなくなるような奴もな」


「なんというか上杉さんって男運悪いんじゃ……」


「まあ、今回はいい男に当たったようだから差し引きゼロだな。

 さて、シャワーを浴びてさっぱりしてこい。

 頭を洗いたければ私が使っているシャンプーとかを使ってもいいぞ」


「あ、はい。

 じゃあ使わせてもらいますね」


「まあ、車の中でシャンプーやボディソープが、私とお前で同じことに気がつく奴もいるかも知れないが、北条などはかえってホッとするだろうさ。

 おまえがちゃんと女とできるってわかってな」


「まだそのネタ引っ張りますか……」


「まあそれはともかく、お前の女の相手の経験はまだまだ少なすぎるし、これからも相手はしてやるつもりだが、私も常にやれる状態や、やりたい気分であるわけでもないのだよ」


「まあ、女性は生理や不機嫌な時もありますしね」


「しかし、他の女に手を出すつもりはまだ最低2年ほどはないのだろう」


「そうですね……」


「では、私の短大時代の悪友たちを紹介してやろう。

 みんなそこそこ経験はあるが、今は男もいないし結婚も絶望的な奴らだ。

 子供ができたらちゃんと養育してやれば文句は出ないと思うぞ」


「そう、なのですか?」


「結婚できず、子供も作れずに25を過ぎて売れ残るクリスマスケーキのままで年を取っていくくらいなら、そのほうがずっとマシだろう」


「そんなものなのですか?」


「そんなものだよ」


「うーん、じゃあ相手の同意がきちんとあって、今付き合ってる男がいないことや家族に変な人がいないことが確認できたらお願いします」


「わかったわかった。

 まあ、お前の立場だとそういう感じになるのも仕方なかろうな」


「まあ、上杉さんが推すくらいだから変な人達じゃないとは思いますけどね。

 ちなみにその人は今は何をしてるんですか」


「ああ、一人は幼稚園の女性教諭。

 もう一人は保育園の保母をやっている。

 最後の一人は家事見習いなんだがまあちょっと問題があって結婚できそうになくてな」


「え、問題って?」


俺がそう聞くと上杉さんは遠い目をしながら行った。


「そいつは料理がど下手なんだよ。

 すぐ焦げつかせるし、味付けも安定しないからなぁ」


「ああ、専業主婦希望で、そこまでわかりやすい料理下手だとたしかに厳しいかもしれませんね」


「本人の外見や性格はいいんだがなぁ……」


「それだけなら俺としては別に問題ないですし、さっき言ったような問題がなければ是非紹介をお願いします」


「ああ、わかった。

 まあ、色々な女とやってみるのも大事だよ。

 性感帯や性格は人それぞれだからな」


「ははは、本当女の人と一緒にいるって大変なんですね」


「まあ、人間関係というのはそういうものさ。

 四六時中一緒にいようとすれば余計にな。

 で、今回の経験は役に立ちそうか?」


「ええ、すごく」


「それならばよかったよ。

 後は女のデートの誘い方やデートでの行動もレクチャーしてやらなければな」


「えええ……」


「おまえ、あいつらの誰かを個人的にデートに誘って、デートしたことはあるか?」


「えっと……ないですね」


「本当そういう所だぞ。

 デートくらいなら私が教えれば、あいつらともできるだろうし、早めにこちらも個人授業をしたほうが良さそうだな」


「お、お手柔らかにお願いします」


 なんとなく成り行きで俺の今回の人生では初めての相手の相手が上杉さんになった上に、初めてのデートの相手も上杉さんになりそうだ。

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