第43話 ドッジボールではオリ長に色々してやられたな
さて、朝食を兼ねたいちご狩りが終わったら、バスで山を降りて下田市民スポーツセンターへむかう。
ここは体育館以外に視聴覚室やプール、創作実習室に陶芸窯と会議室が2つあるが今回利用するのは体育館だ。
市民スポーツセンターと言っても市民以外も普通に使える。
まあ、市民の方が少し利用料金は安いらしいけどな。
体育館のなかにはバレーボールコートが1面に、バドミントンコートが2面、あとは卓球台が4台あるが今回は6m×縦13.4mのバドミントンコートを使う。
縦の長さの半分が自分たちの陣地だからおよそ6m×6.7mということだがこれは結構狭いな。
一つの班は5人から6人だからこれくらいがちょうどいいのかもしれない。
で、到着し各自が動きやすい格好に着替えたり着替えなかったりしたあとオリ長からの通達があった。
「みんな聞いてくれ。
今回のドッジボールは2つの班で一組として行う。
なんで今回のオリエンテーションで一番仲良くなった一緒にゲームをしたい班を選び、両方の班長の合意のもとで握手をすればペアとなる。
あんまり時間は長く取れないんで早めに決めてくれ」
と。
まあ、そうなるとうちの班は当然のように女子班と一緒になったし、名門進学校の顔見知り連中もやはり同じように組を作っていった。
そして今回のルールが告げられる。
「1チームは1班とし、今回はバドミントンコートを利用するがコート数が2面なので一度に対戦するのは4つの班のみとなる。
そして対戦相手は先程握手を交わした班長の班同士だ。
なので他の班は外野でボールを拾う。
詳細ルールとしては。
最初は内野4人から開始で残りは場外から。
ボールを取ったものは5秒以上ボールを保持してはいけない。
また3歩以上歩いたり2回以上ジャンプしてはならない。
敵陣の中に向かってボールを投げ、中にいる人に当て、当てたボールが地面に落ちたら当てられたものはアウト。
ただし意図的に顔面へ投げるのは禁止。
また自分の陣地から出るのは禁止で出た場合はボールに当たったときと同様にアウト。
ただしボールが当たっても自分か味方が拾えばセーフ。
敵が拾ったらアウトだ。
ノーバウンドで2人以上に当たった場合、当たった人全員がアウト。
一度地面でバウンドしたボールに当たった場合はアウトにならない。
場外の人が敵にボールを当てた場合は、1回のゲームにつき1度だけ当てた人自身が自分の陣地内に戻ることができる。
相手の陣地に人間がいなくなるか、制限時間の20分が過ぎたときに内野が多いほうが勝ち。
こんなところだ」
オリ長がそう言うと本多さんがオリ長へ言った。
「おおい、吉良ぁ。
お前はかったな?」
「ふ、お前はいい友人で、お前個人に恨みはないが、お前のとこの班員が女性班の女性を一人占めするから悪いのだよ」
その言葉で俺に視線が向いた。
「え、俺のせいなの?
これ?」
ぶっちゃけ体格や力にほぼ差がない小学生ならともかく、大学生で本気で女性相手にドッジボールをやろうとするのはやはり気が引けるから、できれば女性班とは当たりたくないと考えるのは普通だろう。
なので女性班と当たるように仕向けられたのはまあ、俺のせいともいえる。
まあ、それはそれとしてだ。
「オリ長って機動戦士ガンガン好きなんですか?」
「無論だ、我々の年代で劇場版三部作の再放送を見なかったり、ガンプラを作っていないやつはいないだろう」
「まあ、そういう年代ですよね。
俺達って」
「おお、わかる同士のようで嬉しいぞ。
まあ、それはそれとして女子との対戦頑張ってくれ」
「んが?!
やっぱひでえなこの人」
というわけで俺達の班は女子班とドッジボールで対戦することになった。
「あ、それからわざと当たって負けようとかする、やる気のない奴が出てきてもつまらんのでアウトになった奴はこのバットで思いっきり尻をひっぱたくから全員真面目にやるように」
といつの間にかオリ長の手にはプラスチックのおもちゃのバットが握られていた。
「まあ、たしかに面倒くさいからとわざとアウトになろうとするのは白けるが……女子にボールを当ててアウトにして、ケツバットやられるようにするのも気が引けるよな……」
ハハハと乾いた笑いしか出てこない俺にジャージに着替えてやる気十分な様子の篠原さんが言う。
「私達が女の子だからって、あんまり甘く見ないほうがいいですよ」
「あ、まあそうだよな。
まあ、お互い楽しもうぜ」
「ええ、楽しみましょう」
というわけでドッジボール開始。
とはいえ中学以上で男女混合でドッジボールをやる場合は男子は女子を狙わないか、利き腕でない方の腕でボールを投げるとかをやるのが普通だった気がする。
ぽんとセンターラインへ向かってバレーボールが投げ込まれて、最初にボールを取ったのは女子の篠原さんだった。
そしてボールを投げてきたが……早い?!
「うわ、あぶねっ!」
なんとか避けられたが、思っていたよりだいぶ早くて、ぎりぎり避けられたが危なかった。
というか俺が避けたせいで、後ろの横山くんがボールに当たってしまったようだ。
「横山くんごめん」
「いや、俺も悪いから気にするな」
「横山アウトー」
そしてアウトになった横山くんはプラスチックのバットでスパーンと尻を打たれている。
「あいた!」
そして篠原さんが言う。
「だから言ったじゃないですか。
私達が女の子だからって、あんまり甘く見ないほうがいいですよって」
「お、おう。
確かにそうみたいだな」
別のコートの様子を見ても結構早い球を投げてるやつがいるし、ガリ勉の東大生で運動できるやつなんてそんなにいないだろうと思っていたら、文武両道なやつが結構いるらしい。
しかし、同じような班でも敵味方に入学前からの知り合いがいるような名門進学校の連中は、今みたいな事があっても”おいおーい、何やってんだよ””わりいわりい、ミスった”みたいな感じで、気安くネタにしてフォローしてもらえ、それなりの関係があるからこそ生まれる楽しげな空気で遊べている。
だが、俺達は多少仲良くなったとはいえ、もともとの知り合いがいないせいで、こういった事が起きるとすごく微妙な空気になってしまう。
たしかに色々謀られてるなぁ。
まあ、それはそれとして、真面目にやったほうが良さそうだ。
横山くんに当たってこっちの陣地に落ちているボールは俺は利き腕の右手で拾い上げて、助走をつけ篠原さんめがけて投げた。
「それ!」
しかし、俺の投げたボールはあっさり篠原さんに止められてしまった。
「うーん、前田さんは運動不足じゃないですか?」
「ああ。
確かに俺、高校に入ってからロクに運動してこなかったわ」
確かに”前”の俺は体育会で高校大学ともにスポーツをやっていたが、今回の俺はゲーム制作がメインで運動なんてろくにやっていなかったからな。
そして篠原さんが投げ返したボールを今度は避けられず、あえなくアウトになってしまった。
「前田、アウトー」
そしてアウトになった俺はプラスチックのバットでスパーンと尻を打たれることになる。
「あいたぁ!」
結局俺達の班は女子班に完敗してしまった。
相手が女子だって言うのはやりづらいのもあるが、正直なめ過ぎたな。
「私達は皆スポーツ経験者ですから、普通にやりあっても負けなかったと思いますよ」
「ははは、そんな気もするよ」
まあ、なんだかんだで他の班も白熱した戦いになったりしていたらしく結構盛り上がっていた。
そんな感じで1時間ほど過ごし、昼すぎに最後のイベントのそば打ちに向かう。
伊豆急下田駅から車で20分ほどのまわりを山に囲まれた小さな村である
ここではそば打ちだけでなく、味噌作りやこんにゃく作り、饅頭作りに石窯ピザ作りなども体験できるらしいが今回はそば打ちで、出来上がったそばは、山菜や春菊・タケノコなどの天ぷらですぐ食べる事もできるらしい。
「打ちたてそばを揚げたての春菊や山菜の天ぷらで食べられるのはいいな。
朝が果物づくしだっただけになおさら」
ジャージからワンピースに再び着替えた篠原さんも嬉しそうに言う。
「そうですね。
楽しみです」
今回打つのは二八蕎麦、これはそば粉八割に対してつなぎの小麦粉を二割の割合でまぜた蕎麦で割りと一般的なやつだ。
そば粉160gに対してつなぎ粉が40gに水が90g、後は板にくっつかないための打ち粉が適量とシンプルな材料で、この量で打つと約2~3食分の生蕎麦ができるらしい。
まず最初にハカリでそば粉やつなぎ粉を計量してボウルに入れ、加水用の水も計量する。
分量を量ったそば粉とつなぎ粉を、よく混ぜて篩でふるいながら入れ、よくかき混ぜる。
水を加える前に、ボウルに入れたそば粉とつなぎ粉をムラがでないように、指先でしっかり混ぜ合わせる。
均一に混ざったらそこに60g程度の水を全体に均等に加え、両手の指先で粉と水を合わせていき、水分の多い場所には周りの粉をかけて、水が粉全体に均一に回るようにしていく。
それから、最初に加水をして残った水を全体にまんべんなく均一に振りかけ、手で素早く全体を混ぜる。
段々と粉のかたまりが大きくなっていき、水が全体に十分に回ってきたらかたまりを一つにまとめてそば玉にする。
こうしてひとかたまりになったこねていき1~2分程度こねれば段々と生地にツヤが出てきたら円形に整えていよいよ延しの作業へ取り掛かる。
最初にテーブルに軽く打ち粉をふり、練ったそば玉を平らなテーブルへ移動させ。生地を手のひらで押しながら円形状のまま薄くしてく。
手でできるだけ均一な厚さでかつ、きれいな円形になるように仕上げ直径が約20cm程度まで延ばしたらいよいよ麺棒の出番。
円形状になった生地に少々打ち粉をふり、円を麺棒で薄く延ばしていく。
このとき左手で生地を少しずつ回転させながら同じ力加減で延ばしていくと、直径約30cm程度のきれいな円が出来上がる。
そこまで行ったら生地に打ち粉をふってから生地を麺棒に巻きつけ綿棒ごと転してさらに生地を伸ばす。
そして生地の向きを変えて同じ要領で生地を伸ばしていき生地が四角になったらほぼ完成。
あとは生地をたたんで折り、包丁で切っていく。
素人がやると均等に切り揃えるのは非常に難しいが、そんなに切り幅の均一さにこだわらなくてもいいらしい。
切り終わったらグラグラ沸騰させた大きな鍋ではしで軽くほぐしながらそばを1分45秒茹でる。
時間になったらそばをざるですくい上げ、手早く流水ですすぎ、ざるに上げて、水を張ったボールの中で流水で粗熱を取り、粗熱が取れたら蕎麦と蕎麦を優しく擦るように洗い、ぬめりを取り、ぬめりを取ったそばをもう一度ゆで湯の中に入れ、温まったそばをどんぶりにいれて、つゆと薬味に刻みネギと山菜や春菊、タケノコなどの天ぷらを入れれば完成。
「うーん、自分で打ったそばだっていうのもあるが打ち立て茹でたてなのはやっぱ美味いなー」
俺がホクホク顔で蕎麦をすすっていると篠原さんも同じように蕎麦を笑顔で食べている。
「ほんとうですねー」
とまあ色々あったオリエンテーション合宿だが、そば打ちが終われば後は駒場キャンパスに戻るだけだ。
そば打ちは意外と力を使ったし、ドッジボールなんかでも結構疲れたから帰りのバスはみんなグースカと寝ていたな。
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