第42話 いちご狩りも色々工夫されてきているな。
さて、俺はちびちびと酒を飲み続けていたが、そのうちピンク色のパジャマに着替えた篠原さんが俺のところへやってきた。
「前田さんはまだお酒を飲んでたんですか?」
俺はコクっとうなずいて答える。
「まあ、周りの多くはバカスカ酒を飲んでたから潰れたけど、俺はちびちびやってたからね」
俺がそう言うと篠原さんは苦笑していった。
「たしかにみんなはガバガバお酒を飲んでましたよね。
でも20歳未満は飲酒は本当は禁止ですよね。
前田さんは大丈夫なんですか?」
「たしかに法令的にはそうだね。
実際は高校を卒業して大学や会社に入ったら新人歓迎会で大体は飲まされるのが実情だし、そもそも飲酒の危険性を20歳で区切るのは少なくとも日本人にはあっていないんだけどね」
俺がそう言うと篠原さんは首を傾げた。
「ええと、どういうことですか?」
「20歳未満の飲酒は良くないとされてるけど、その理由が脳の機能を低下させるおそれがあるであれば年齢に関係ない。
肝臓をはじめとする臓器に障害を起こしやすくなるも年齢に関係ない。
性ホルモンに異常が起きるおそれがあるとかアルコール依存症になりやすくなるというのはアルコールの代謝能力が関係するので年齢が関係ない訳では無いが。
でも、若いうちのアルコールの代謝能力はほぼ体格に依存するから成長がほぼ終わる18歳と20歳では変わらないんだよな。
白人は20歳ぐらいまでジワジワ背が伸びるらしいからそこで区切る意味もあるんだろうけどな。
日本の法律というものは明治憲法から西洋のものを輸入しているからある程度は仕方ないが日本という地域に合わないものや、技術や文化、宗教的なことで実情に合わないものは変えていくべきだと思うんだが」
「うーん。
まあ、確かに2年生の皆さんは普通にお酒を勧めていましたし、1年生の皆さんも飲んでましたけど本当にいいんでしょうか?」
そういう篠原さんに俺は苦笑しつつ答える。
「どんな物でも法律は守るべきだというなら飲まないほうがいいとは思うけどね」
「うー、別にそこまでは思ってないですし……じゃあ私も飲んじゃいます」
と篠原さんは適当においてあった空いていない缶ビールのプルタブを開けて口にした。
「あ、ぬるいビールは……」
そして篠原さんは顔をしかめて言った。
「お、美味しくないです」
「まあ、ぬるいビールはうまくないよ。
人間の味覚は、体温に近い温度帯が、もっとも味を敏感に感じやすくなり、熱い物や冷たい物は味覚が若干鈍るらしい。
だから、ビールや炭酸飲料は、冷えた状態で丁度美味しいと感じるように味を調整してあるらしいからね。
なんでぬるくなるとビールは苦味が、炭酸飲料は甘みが強すぎると感じるから、おいしくないように感じるんだよ。
さらに炭酸のぴりぴりとした刺激も、甘味や苦味といった味覚を鈍らせるので、気が抜けたビールや炭酸飲料は、ちゃんと冷やしてあっても、苦いだけや甘いだけでうまくなくなるんだけどね」
「う~、そういうことは早く言ってください」
「まあ、日本酒も混ぜ物が多いと不味くなるけど、この酒は混ぜ物のほぼない地酒だから冷めててもうまいよ」
と、俺は開いているコップに飲んでいた日本酒を注いで篠原さんに渡してあげた。
「うう、大丈夫かな……でもちょっとくらいなら?」
と恐る恐る口をつける篠原さん。
「あ、たしかにこのお酒は美味しいです」
「高校時代の担任の先生がそれはうまそうに酒を飲む人でね。
俺もそんなにうまいなら飲んでみたいと常々思ってたんだけど、うまいかどうかは飲み方や酒そのものの質にもよるね」
「そうみたいですね」
篠原さんはそう答えた後、笑顔でいった。
「私、あなたにすごく感謝してるんです。
寝る前にこのパジャマに着替えてたら”それかわいいよね”ってみんなが言ってくれて、少しだけどお話もできてなんとなくですが打ち解けられた気がしました。
多分ジャージのままだったら変なやつだと思われて、会話に入れなかったと思います。
それに可愛いなんて言ってもらえたのは初めてでしたし」
「ん?
篠原さんは可愛いと俺も思うよ」
俺がそう言うと篠原さんは照れたように頭をかいた。
「高校のときは勉強ばかりしている可愛くない、デカ女って言われてましたし……」
「ああ、たしかに篠原さん結構背が高いもんね。
170くらいはある?」
「はい170センチあるので、スポーツは女子バレーをやっていました」
「逆にすらっと手足も長いしさ、モデル体型って言えるんじゃないかな?」
「も、モデル体型だなんて……」
「まあ、明日は今日着ていたほうじゃなくって、もう一つの方の組み合わせを着てみてよ。
明日は動き回ることも多いしね」
「あ、はい。
そうしますね」
「それと、あんまり夜更かしもよくないしな。
今日はそろそろ寝ようか」
「あ、はい。
明日もよろしくお願いします」
そう言って立ち上がる篠原さん、ちょっと足元がふらついてるがあんまり酒に強くなかったのかな。
「ごめん、ちょっと心配だから部屋まで肩を貸すよ」
「す、すみません」
というわけで女子の班の部屋の前まで俺は篠原さんに肩を貸して歩いていった。
たしかに身長の差はあんまりないから、普通に肩を貸して歩けるな。
そして翌朝。いちご狩りは9時からだが、その前に朝飯を食べるべきなのか……?
とはいえ宿泊プランは素泊まりプランのはずだから食うとしたらどこかに食いに行く必要があるけど、ペンション出発は8時半だから遠くにもいけないしな。
そんな事を考えていたら日差しよけのための蝶々結びのリボン付きの白い鍔広帽に長袖で裾がチュニック丈の白のワンピースにデニムのジャケットとパンツ姿に着替えた篠原さんが笑顔で挨拶してきた。
「おはようございます。
今日はイチゴ狩りからですね。
伊豆半島でのイチゴ狩りのベストシーズンは、1月から3月なので少し遅めですが、温室栽培なので早ければ12月からイチゴ狩りができて、5月のゴールデンウイークくらいまではできるみたいですね。
それに4月であれば十分甘くて美味しいイチゴが食べられそうです。
楽しみですね」
「だな」
「それに温泉の熱を利用した温室でオレンジやポンカンにキウイやバナナなども栽培されていて、全部もぎ放題食べ放題だって言う話ですし」
「ん、そうなのか」
「それにカフェではイチゴやバナナにオレンジのケーキやフルーツのサンドイッチなども食べられるし、お茶も美味しいらしいですよ」
「みんなよく調べてるね」
「進学校の皆さんは先輩から聞いているようなので」
「ああ、毎年同じような場所に行くからか」
「ええ、大学の生協と契約していて安く使え、予約が取りやすい施設を使うので毎年同じような場所になるそうです」
「なるほど、まあ、一泊二日で一人2万円に抑えようとしたら安く利用できる場所を優先するよな。
予約の問題もあるだろうし」
「さらに、たけのこ狩りや山菜採り、近くの川を利用してイワナやヤマメにニジマス釣りもできるみたいですし、釣ったものはその場で調理して食べられるみたいですね。
塩焼きやバーベキューもできるみたいですよ」
「ほほう。
天然イワナやヤマメの新鮮な塩焼きはかなりうまいらしいよな。
こりゃあ朝食をペンションで食べない理由もわかったな」
やはりイチゴ狩りだけでは冬から春しか収入がなくなってしまうということもあって、バナナやみかん、オレンジなどのフルーツに加えて、たけのこや山菜を取らせたり、釣りなども行えれば一年中営業できるというわけで、やっぱり色々考えてるんだろうな。
というわけでペンションを出発して、バスで山の中に入っていきイチゴ農園へと向かう。
イチゴなどはビニールハウスで栽培されているので、最悪雨でもいちご狩り自体は可能だが、幸いなことに今日は天気もよく、朝はまだ少し肌寒いが温室では快適に過ごせるだろう。
釣り場は少し寒いかもだけどな。
園内には家族連れや女性グループなども多く、なかなか人気の施設のようだ。
団体旅行のツアー客などの姿が見えないのは下田が東京などからだと遠くこの時間だとまだ到着できないからだろうな。
そして早速、篠原さんは他の女の子と一緒にイチゴを狩りに行っている。
ちなみに俺たちの班も一緒に行動していて俺は篠原さんに長谷部さんと一緒だ。
というわけでまずはいちご狩りを楽しむわけだが、イチゴをもいで農場の入口で渡された練乳をかけて食べている。
「ん、大きいし、甘くてジューシーで美味しいですね」
篠原さんがそう言うと長谷部さんもうなずきながらイチゴを口にする。
「ああ、ここのイチゴは甘くてうまいと評判なんだ。
小さい子供だと酸っぱいイチゴは食べられないが、ここのは大丈夫だとも聞くな」
「ん、本当にうまいですね」
それからオレンジを狩りに移る。
「ん、オレンジもいいですね。
ちょっと酸っぱいですけど」
篠原さんがそう言うと長谷部さんは苦笑しつつ言う。
「まあ、季節を通してフルーツ狩りができる事自体に意味があるだろうが、今はオレンジの旬の時期じゃないしな」
そんな事を話している二人に俺は言う。
「まあ、もいだオレンジはフルーツサンドに入れてもいいし、しぼりたてジュースにもしてもらえるみたいですからすぐ食べるのを前提にしなくてもいいんじゃないかな?」
俺がそう言うと篠原さんは笑顔でいった。
「ああ、それは良いですね」
園内はかなり広々としており複数のイチゴやオレンジのハウスで思う存分フルーツを堪能できたようで何よりだ。
その後はイワナやヤマメ・ニジマス釣りを試してみる。
「よし、釣れました」
「篠原さんはすごいな。
俺は全然だよ」
「福島は釣りも盛んなんですよ」
「ああ、福島には湖も川も海もあるもんな」
「はい。
といっても海での釣りはやったことはないですけどね」
そして今度はタケノコ採り。
ここでも篠原さんが大活躍だった。
「篠原さんはよくあんな小さいタケノコを見つけられるね」
「まあ、慣れてますので」
「なるほどなぁ」
篠原さんは文武両道というか割りとオールマイティに何でもできる感じなんだな。
その後みんなで集まって採ったイチゴやオレンジをジュースにしてもらったり、フルーツサンドにしてもらったり、イワナやヤマメ・ニジマスを塩焼きやムニエルにしてもらったり、タケノコを軽く煮てアク抜きをした後、バターじょうゆで食べたりして、ちょっと遅い朝食となった。
「ん、紅茶だけでなくバラの茶もあるのか。
じゃあローズヒップティーでも頼んでみるかな」
俺がそう言うと篠原さんは首を傾げた。
「ローズヒップですか?」
「うん、ローズヒップはイヌバラの実でビタミンCが豊富なんだよ。
味は少し酸っぱい感じだけどローゼルとブレンドしたハーブティは渋みとかはないから、紅茶より飲みやすいし二日酔いや美容にもいいよ」
「あ、じゃあ私もそれにします」
篠原さんがそう言うと長谷部さんも言った。
「ではあたしもそれにしておこうかな」
というわけで俺たちはローズヒップティーとフルーツサンドにイワナやヤマメの塩焼きでちょっと遅めの朝食を取ったが美味かったな。
「確かにちょっと酸っぱい感じがしますけど、甘いフルーツサンドには合いますね」
篠原さんがそう言うと長谷部さんもニコっと笑いながら言った。
「うむ、パンケーキとの相性も抜群だな」
このあとは下田に戻って市民体育館でドッジボールか。
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