第39話 名門進学校出身でも東大女子は大変らしい

 さて海鮮バーベキューが始まり、各々伊豆の特産品をふんだんに使った食材に舌鼓をうっている。


 そして俺は少し気になっていたことがあったので長谷部さんに聞いた。


「長谷部さんはさっき”あなた達もこういう機会に男の子とのやり取りに少し慣れておいたほうがいいよ。

 ただでさえあたしたち東大女子はインカレの女子大生よりもてないんだから、モタモタしてるとサークル活動や五月祭でもいいところを全部もっていかれるよ”っていってましたよね?」


 俺がそうきくと長谷部さんはコクリとうなずいた。


「ええ、そういったわね」


「そもそもインカレってなんですか?」


 俺がそうきくと長谷部さんは首を傾げていった。


「おや?

 君は妙なところで知らないことがあるね。

 インカレは、インターカレッジサークルの略称で、大学間の合同サークルという意味だよ。

 インカレサークルの場合は自分の大学だけでなく、複数の大学による合同サークルだから他の大学の学生とも交流ができるんだ。

 そして、うちの学校のサークルの場合インカレサークルのほうが学内サークルよりずっと多くて、なおかつ東大女子は学内サークルのみしか入れず、インカレサークルに入れないんだよ。

 たとえばテニスサークルは30個以上あるけど東大女子が入れる学内サークルは2つだけだしね」


「それも妙な話ですね。

 男子はどちらにでも入れるのでしょう?」


「そうなんだけどね。

 うん、男子は当然学内サークルにもインカレサークルにも入れるし、禁止されていなければ学内とインカレの複数のサークルを掛け持ちするのも自由だ。

 そして実際にインカレテニスサークルにはお茶の水女子大学、聖心女子大学、日本女子大学、白百合女子大学、清泉女子大学、東京女子大学、お茶の水女子大学、後はその短大なんてのが入り込んできてるしね。

 なんだかんだでイケてる東大男子は女子大や短大女子との取り合いになるけど、やはりあたしたち東大女子の分が悪くてね。

 オリ合宿や五月祭をきっかけにクラスの男子と付き合っていたのに、その彼が入っているインカレサークルにいる女子大や短大の女子に夏合宿とかで彼を奪われてクリスマスは一人で寂しくすごすことになったなんてことは、1年生の冬ごろにはあちこちから聞こえてくるんだよ」


俺は納得がいってうなずいた後言った。


「なるほど、それで他の女の子にも積極的に電話番号とかを教えるようにしたほうがいいと」


「そうそう。

 しかも、頭にくるのは、女子大や短大の連中は東大のインカレサークルに入って、さらに掛け持ちで慶應のインカレサークル入って、早稲田のサークルにも顔出して……なんてこともやってるわけよ」


「それはえげつないですね……」


「まあ、そんな感じなわけだから東大は女子が少ないから、何もせずまっていても男が声をかけてくれるだろうなんてのほほんと構えてたらいい男は全部よその大学にかっさらわれるという痛い目に遭うからね。

 だから君には練習台になってもらったわけ」


 流石にそのセリフには俺も苦笑せざるを得ない。


「練習台って。

 まあ、たしかに練習台にはいいかもしれませんけどね、俺」


「まあ、ほとんど女子校みたいな環境だった君にはわからないと思うけど中高一貫の女子校出身だと、多感な中高6年間でまともに会話をした男性なんて、家族や先生を除くと、ほぼいないなんて言う子たちばかりだからね。

 そんな学力偏差値は高くても恋愛偏差値の低い女の子たちが、急に男女一緒のキャンパスで過ごしても、そもそもまともに異性と話せない場合も多いし、電話番号を渡すなんてのはもってのほかだったりするから、なかなか交際へと発展させられないのはあたりまえなんだよ」


「なるほど、それで練習のためにも俺たちの買い物に付き合ってどういうふうにすればいいか見た方がいいってわけですか」


「そういうこと。

 それにショッピングが嫌いって女の子はそういないからね。

 それに付き合ってもいいっていう男の子は珍しいけど」


「あー、まあたしかに高校時代には女の子と一緒に修学旅行の準備の買い物に行ったりもしましたけど、基本長いですもんね。

 女の子の買い物は」


「まあ、そういうものだから仕方ないよ。

 女は自分が実際に見た中で一番いいものを選びたいんだよ」


「まあ、カタログスペックが十分ならそれでいいってところが男にはありますよね」


「まあ、そういう事もあるし、できるだけこのオリ合宿でこの子達には男慣れしてもらいたいわけさ。

  積極的に自分から異性と話していけるくらいにはね。

 それに君はその子を美容室やエステに連れていきたいって言っていたしなかなかの優良物件と見えるね」


「なるほど、東大女子も大変なんですね」


 まあ、長谷部さんにも同じような過去があったのかもな。


「そそ、東大女子は君たちが思ってる以上に大変なのよ。

 まあそういった恋愛偏差値の低さを学力偏差値で補おうとするのか、デートで美術館や博物館、あるいは図書館とかみたいなところばかり行きたがるってのも問題なんだけどね」


「ああ、テーマパークとか行っても会話が続きそうにないからそういう場所になっちゃうみたいな?」


「そういうことだね。

 美術館や博物館ならどういう展示物があるかとかを覚えるのは得意だしね」


「問題は男の側がそれを楽しめるかどうかですね」


「そうなんだよね」


 ちなみに周囲の女の子たちは俺と長谷部さんの会話にウンウンとうなずいたり、タハハと苦笑したり、うっと胸をおさえたりしたりしているがそれぞれに思い当たることがあるようだ。


 そんなことを俺が長谷部さんと話しながら篠原さんに焼けた具材を取り分けていたら周囲の男子も女子に対して話しかけつつ、どの具材が食べたいか聞いて取ってあげたりするようになっている。


「やっぱり共学の男子のほうがこういうことに抵抗がないみたいだね」


長谷部さんがそう言うので俺はうなずいて言う。


「まあ、個人差はあるでしょうけど中高一貫男子校の連中よりはね」


 そんなことをやっていたら2時間の制限時間が過ぎてバーベキューは終わりだ。


「次は温泉だな。

 まあ、ペンションにも温泉じゃないが露天の大浴場はあるからそっちに入ってもいいが」


 本多さんがそう言うと長谷部さんは苦笑しながら言う。


「あたしたちはせっかく下田に来たのだから肌が綺麗になるっていうアルカリ性温泉の温泉銭湯に行ってくるよ」


 そして俺も本多さんに言う。


「せっかく温泉地に来たわけですし俺たちも温泉銭湯に入りに行きませんか?」


 俺がそう言うと本多さんはうなずいた。


「まあ、そうするつもりではあったけどな。

 そうしたらお前さんと長谷部、篠原後は男子班と女子班で分かれてタクシーに乗っていくか」


「白浜から下田までは大した距離じゃないですけど、まとまって乗ったほうが一人あたりの料金は安いですしね。

 銭湯に入り終わったらガイドブックにある美味しい刺身とかを食べられる食事処でみんなで夕食にしませんか?」


「ん、それもいいな」


 というわけで俺たちは温泉銭湯に入った後みんなで一緒に夕食を取ることになったのだ。


 この時代だと銭湯のような共同浴場や立ち寄り温泉施設ではない温泉旅館やホテルに温泉だけ入りに行くということは基本できないが銭湯が複数残っているのでそんなに困らないし安い値段で温泉に入れるのは助かるよな。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る