第38話 東京に帰ったら女子たちと一緒に服を買いに見て回ることになってしまった。

 さて、俺は篠原さんに、ピンクの寝巻きのほか、日差しよけのための蝶々結びのリボン付きの白い鍔広帽や長袖で裾がロング丈の白のワンピースとニットのオーバーサイズカーディガン、長袖で裾がチュニック丈の白のワンピースにデニムのジャケットとパンツ、後は化粧品やカミソリ、歯磨きやタオルなどの洗面用具あとはハンカチなどを買ってあげた。


 試着室で着替えて今着ているのはロング丈の白のワンピースとニットのオーバーサイズカーディガンの方だ。


「まあ一泊二日ならこれくらいあれば大丈夫かな?

 じゃ、まあ帰ろうか」


 そう言ってタクシーを拾ってそれに乗り込む。


 そういう俺に恐縮したように篠原さんが言う。


「あ、はい、戻りましょう。

 全然大丈夫ですよ。

 というか二着も服を買ってもらっちゃっていいんでしょうか……」


 その言葉に俺は首を傾げつつ言う。


「大学生の女の子が二日間同じ服ってのは多分なしなんじゃないかな?

 良くは知らないけど」


「うう、私そんなにいっぱい服は持ってないですよ」


「うーん、じゃあ東京に戻ったら服を買いに行ったほうがいいかな?

 あと美容室やエステにも行っておいたほうがいいかもね」


 篠原さんは芋臭いジャージから春先に似合う白いワンピースに着替えただけでも見違えるように可愛くなったけど、髪の毛とかの色々な手入れが行き届いてない気がするんだよな。


 しかし、篠原さんは泣きそうな顔でいった。


「わ、私、そんなにお金は持ってないのですが……」


「んじゃあ、とりあえずは俺が金は出しておくよ。

 その代わりまた福島県のこととかに色々教えてくれたりすればいいからさ」


「そ、それだけでいいんですか?」


「後は俺と友だちになってくれれば嬉しいかな。

 それと、サークル活動とかでクラス外での首都圏外の地方出身の東大生の知り合い、特にあんまり東大生が出ていないような学校の知り合いができたら、俺にも紹介してくれると嬉しい」


「それだけでいいのですか?


「情報とか人脈っていうのはとても大事なものなんだよね。

  それに今回のオリエンテーション合宿で東京の名門進学校とそうではない学校の情報格差や派閥みたいなものを感じたから。

 そういうのをなんとかしていければって思うんだ」


 俺がそう言うと篠原さんはこくとうなずいてから言った。


「たしかにそうですね。

 ほとんどの人は入学前から入学式の直後にこういう泊まりの合宿があるっていうことを誰かから聞いていて、きちんと準備しているのでしょうし」


「うん、東大の3人に1人が東京の進学校出身で、6割は首都圏の進学校出身。

 近畿圏内出身は、15%程度で、それも兵庫や奈良、大阪なんかの名門進学校に偏っているらしいからね。

 俺たちみたいな進学校出身ではないか、地方出身なのは残りの25%くらいなわけで、そもそも情報格差が酷いんだよな」


 30年も経てばネットも発達して今よりは情報も手に入りやすくはなるけど、今の状況では名門進学校出身とそうでない学校出身では本当色々な格差が大きすぎる気がする。


 俺がそう言うと篠原さんはため息を付いた後言った。


「本当にそうですよね」


 そんな会話をしていたらタクシーは敷地内のにキャンプ場やバーべキュースペースのあるペンションへ到着した。


「お、ついたな」


 タクシーの料金を払ってバーベキュースペ-スへ向かうとちょうど準備を始めたくらいのようだった。


 学校の春休みなどが終わって道路の混雑も少なく、意外と早く白浜へ着いたのと、車酔いをした者のために到着後に長めに休憩時間を取ってあったこともあって間に合ったようだが正直助かったな。


 そして俺たちの班は女子の班と一緒にバーベキューをするようだ。


「只今戻りました」


 俺がそう言うと篠原さんが恐縮したように言う。


「皆さんすみません」


 声をかけられた長谷部さんが俺たちの方を向き、篠原さんを見て少し驚いたような顔をしたあと笑顔でいった。


「ん、おかえり。

 お!?

 見違えるほど可愛くなったじゃないか。

 ちょっとあざとすぎる可愛さな気もするけどね」


 その言葉に俺は苦笑しつつ言う。


「あ、まあ、服は俺が選んだものなので俺の趣味だからそうなっちゃっただけだと思いますよ。

 あと、東京に戻ったら美容院とかエステとかに行ったり、服を買いに行かせてあげたいんですけど、俺じゃそのあたり全然わからないんで知っている人がいたら教えてもらえると助かります」


「ああ、たしかにもう少し手入れをしてあげればその子はもっと可愛くなりそうだね。

 それにそういった店の場所が全然分からなくって困るのはあたしもわかるよ。

  あたしも東京出身じゃないからね」


「それはとても助かります。

 とりあえずお店の名前と電話番号と最寄り駅と店に近い駅の出口とかを書いてもらえると助かります。

 東京出身じゃないって長谷部さんの出身校はどこなんですか?」


 そういって俺は長谷部さんに筆記用具とメモ帳を手渡した。


「なんというか君はこういうことに手慣れてるね。

 それにしてもなんでそこまでしてあげるんだい?

 もしかしてその子に一目惚れでもした?

  あたしはフェリス女学院中学校・高等学校出身だよ」


 いたずらっぽくほほえみながらそういう長谷部さんに俺は苦笑しつつ答える。


「んー、判官贔屓ってやつですかね。

  生まれた地域とか家庭の収入とかで、同じ土俵に立つことすらできないんじゃ篠原さんが可哀想じゃないですか。

 え?

 フェリス女学院と言ったら横浜雙葉や横浜共立学園とあわせて神奈川女子御三家の名門進学校じゃないですか」


 俺の答えに意味ありげにニヤニヤ笑いながら長谷部さんはサラサラと書いていたメモ帳を俺に渡してくれた。


「じゃ、これ。

 店の名前と電話番号に最寄り駅の出口。

 ついでにあたしの電話番号とベル番も教えておくから、買い物に行く日が決まったら教えなよ。

 あたしも一緒に行くからね。

 ん、どっかの地方の公立出身だと思った?」


「え?」


「だって君にこの子の服を買わせたらひらひらのフリフリなピンキィハウスの服とかばっかり買いそうじゃないか」


「あーまあ、そういうことになる可能性は否定はできないですけどね。

 あ、はい。

 てっきり地方の学校出身なのかと」


「ま、そのかわり君たちの社会勉強の家庭教師代をもらおうとは思うけど」


「ああ、なるほど、

 たしかに何かを教えてもらおうと思うなら正当な報酬は必要ですよね。

 東大生の家庭教師の時給は5000円くらいだったはずだからそのくらいでいいですか?」


 俺がそう言うと長谷部さんは苦笑しながら言う。


「おやおや、数少ない理系東大女子

をその辺の男子東大生と一緒くたにされても困るよ」


「なるほど、それもそうですね。

 じゃあ一万円でどうですか?」


「うん、厳密に時給計算するよりその場であたしが欲しい服があったら買ってくれればいいよ」


「ん、それでもいいですよ」


 まあ、女の子の買い物が長くなるのは想定済みだし、斉藤さんや北条さんなんかにも東京のお店を教えてあげれば喜んでくれそうだからな。


「それとうちの班の他の女の子たちにも聞いてみたらたらどうだい?

 あたしの使ってる店だけより色々な店をみてまわってその子に合う服を見極めたほうがいいんじゃないかと思うけど」


「あ、たしかにそうですね。

 村井さん、今枝さん、津田さん、成瀬さん。

 良ければあなた達の使ってるお店の名前と電話番号と最寄り駅と店に近い駅の出口とかを書いてもらえると助かります。

 もちろん無理にとは言わないけどね」


 俺は女の子たちにそう言うが彼女たちは顔を見合わせていた。


 まあ、中高一貫女子高出身だと男とこういう遣り取りをするのは抵抗があるのかもしれないな。


 そこで長谷部さんが言う。


「あなた達もこういう機会に男の子とのやり取りに少し慣れておいたほうがいいよ。

 ただでさえあたしたち東大女子はインカレの女子大生よりもてないんだから、モタモタしてるとサークル活動や五月祭でもいいところを全部もっていかれるよ」


 長谷部さんの言葉に女の子たちは意を決したかのようにメモに書き始めた。


 その間に俺は長谷部さんに聞く。


「ちなみに長谷部さんのファッションってどういう系統です?」


「ん?

 あたしはハマトラから渋カジってとこだね。

 あたしの同級生で慶応に行った子はボデイコンシャスな服とかを着てるけど」


「中学高校のときはエレガンススタイルだった感じで、今はカジュアルスタイルな感じですね。

 ああ、今女子大生の間ではワンレンボディコンが流行ってるんでしたっけ」


「まあ、そんなところかな」


 そして村井さんがメモ紙を渡してくれた。


「これ、私が使いそうなお店の名前と電話番号に最寄り駅の出口です。

 あと私の電話番号とベル番も。

 私にも、買い物に行く日が決まったら教えてくださいね」


「ん、了解。

 ちなみにこのお店ってどんなお店?」


「コムデガルソンやコムサーデモードなどの日本のDCブランドのお店ですね」


「なるほど日本ブランドがメインなんだね」


「ええ」


 それから今枝さんもメモ紙を渡してくれた。


「はい。

 私が使いそうなお店の名前と電話番号に最寄り駅の出口です。

 あと私の電話番号とベル番も。

 私にも、買い物に行く日が決まったら教えてくださいね」


「ん。

 ありがとうね。

 ここは……」


「ダーナ・キャランを中心としたアメリカンインポートのお店です」


「今枝さんはアメリカンインポートブランドなんだ。

 出身がプロテスタント系ミッションスクールな影響かな」


「はい、おそらくそうだと思います」


 それから津田さんもメモ紙を渡してくれた。


「はい。

 私の使いそうなお店の名前と電話番号に最寄り駅の出口です。

 あと私の電話番号とベル番も。

 私にも、買い物に行く日が決まったら教えてくださいね」


「うん、ここはどんなお店?」


「下着や水着・ナイトウエアなども含めたイタリアンインポートセレクトブティックですね」


「イタリアンインポートかぁ」


 北条さんも最近家具や服でイタリアンインポートを気に入っていてそのためにイタリア語を選んだくらいだから気が合うかもな。


「津田さんはカトリック系ミッションスクールだからかな?」


「ええ、おそらくは」


 そして成瀬さんもメモ紙を渡してくれた。


「これ。

 みんなと同じように書いたから」


「ん、ありがとね」


「ちなみに私の場合はイギリスとフランスのインポートファッションブランド」


「イギリスとフランスかぁ。

 イギリスはあんまり知らないけどフランスのファッションブランドは多いもんね。

 ジバンシーとか」


 なんかみんなおしゃれなんだな。


 そして意外とかぶらないものなんだな。


「あ、じゃあ俺も電話番号とベル番を渡しておくね」


 と俺はみんなへ電話番号とベル番を書いたメモ紙を渡した。


 そして篠原さんも俺にメモ紙を渡してくれた。


「あ、じゃ、じゃあ私も電話番号をお教えしますね。

 ポケットベルは持ってないのですが……」


「ポケベルはあれば多少は便利ってくらいで、必需品ってほどじゃないと思うから別に持ってなくても問題はないと思うよ」


 実際ガラケーやスマホに比べるとポケベルはそこまで便利ってわけでもないし。


 後、買い物は渋谷や新宿でだいたいいけそうなので助かるな。


「じゃあ、スケジュール調整は後にして、腹も減ったしシーフードバーベキューに移ろうか」


「だね」


 伊豆牛のステーキ・スペアリブ・チキン・ソーセージなどの肉、イカ・エビ・ホタテ・サザエ・鯵の干物・鯨のベーコンなどの魚介類・玉ねぎやキャベツ・パプリカ・コーンなどの野菜とボリュームたっぷりの具材がテーブルに並んでいる。


 後飲み放題プランなのか缶ビールや瓶ビール、缶の烏龍茶やオレンジジュースなどのドリンクもそろってるな。


 各自がコップに好きな飲み物を取って準備が整うと本多さんが音頭を取った。


「んじゃ、さっそく乾杯!」


「乾杯!」


 他の班も同じように乾杯がはじまった。


 トングで適当に具材を焼き網の上においていくと、適当に焼きあがったところで箸が次々に具材に伸びては各自の胃袋の中に消えていく。


 なのだが、篠原さんはオロオロしていてうまく取れないでいるようだ。


「篠原さん、何が食べたい?」


「あ、お肉が食べたいです」


 というリクエストなので伊豆牛のステーキをトングで掴んでしっかり火が通ったら篠原さんの持っている紙皿へ渡してあげた。


「ありがとうございます。

 ん、美味しいです」


「素材がいいんだろうな。

 塩だけでもうまい具材が多いのはいいと思うぜ」


「新鮮な証拠ですね。

 あ、でも福島の魚介類もすごく美味しいんですよ。

 福島の海域は、暖流の黒潮と寒流の親潮がぶつかり、魚類等の餌となるプランクトンが大量に発生するからウニも美味しいですし、今の時期ですと、メヒカリやコウナゴが美味しいです」


「メヒカリ?」


「あ、ええと、アオメエソっていうのがちゃんとした名前ですね」


「ああ、流通量が少ない高級魚だよね」


「はい。

 お刺身、唐揚げ、天ぷら、南蛮漬け、それに素焼き等でも美味しくいただけるんです」


「そりゃいいな」


 福島は伊豆に劣らずうまい食材も多そうだし、郡山や小名浜の再生工場都市が完成したら周囲の観光地も人気が出るかな?


 箱根や伊豆の人気はやはり都心からも近いことがあるからな。


 それにしても他の班の男連中、歓談しつつもこっちをチラチラッと見てるな。


 女の子と話をしたいならこっちに来ればいいのにな。

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